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May 16, 2026

『世界史とつなげて学ぶ中国全史』岡本隆司

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『世界史とつなげて学ぶ中国全史』岡本隆司、東洋経済

 『中国史とつなげて学ぶ 日本全史』が面白かったので、こちらも読むことに。中国近現代史の専門家である著者が、気候変動とそれにともなう民族大移動の連鎖などを手がかりに、黄河文明から現代中国までの中国史を、王朝の交代劇(点)ではなく、気候や経済という大きな波(線)で捉え直した一冊です。

 本書は口述筆記を書き起こしたもので、勢いと分かりやすさを重視した、としていますので、感想も印象に残ったところをざっくり紹介します。

[境界線から生まれた文明、気候が変えた帝国]

 中国は海岸線が比較的短く、内陸部は乾燥しています。農耕民は繊維を、砂漠やステップに暮らす遊牧民は動物の皮を用いて衣服を作っていましたが、互いに持たないものを交換する必要から交流地帯が形成され、そこから黄河文明が生まれた、という乾燥地帯と湿潤地域の境界から文明は生まれる→持っていないものを交換できる仮説を紹介してくれています。互いに持たないものを交換する境界地帯から黄河文明が生まれたという仮説は刺激的です。

 著者は遊牧民は敬老の精神がなく、父親が死んだ後にその妻(実母を除く継母など)を息子が娶る、あるいは父親の妻の姉妹を娶るといった婚姻慣習は、「レビレート婚(収継婚)」として知られていますが、奥州藤原氏でも父の妻を息子が娶った例があるというのは遊牧系の考え方があったのかな、とか考えてしまいました。日本史の謎が中国史の視点で透けて見える一瞬だったかもしれません。

 ローマと漢の成立、その崩壊は共に気候変動と遊牧民の移動に連動しているというのもスケールの大きな話しで、後漢崩壊後、三国時代を経て五胡十六国をまとめたのは最も野蛮だった鮮卑だが、鮮卑もテュルクにやられた、という流れもこうやって整理してくれたのは初めて読みました。

 隋と唐で初めて中国は外部に影響を与えたというのも初めて知った見方でした。また中国史はこのあたりから南北対立から南北協業の時代に入ったとしています。

 唐と宋の間の大きな社会的変動は唐宋変革と呼ばれます。石炭が使われ始め、江南の湿地帯で排水と干拓が行われたことによって米の収穫量が劇的に増加。人口も増えて経済が活性化して貨幣が流通するようになり、商業を行う小さな都市(鎮とか市)が増えました。

 澶淵(せんえん)の盟は、1004年に北宋と遼の間に結ばれた盟約で、国境の現状維持、不戦、宋が遼を弟とすること、宋から遼に対して年間絹20万匹・銀10万両を歳幣として送ることなどが決められました。宋はその間の平和を得て、高い経済力を元に繁栄が築かれ、その後、ウィグル人が商人としてモンゴルとの停戦交渉などにもあたるようになった、といいます。

[明代の銀需要が世界を繋ぎ、日本の鎖国を招いた?]

 世界帝国をつくったモンゴルの元も寒冷化によって衰退しました。元は収入を商人への課税に頼っていましたが、寒冷化によって農作物の収量が減り、商業が振るわなくなり、税金もとれなくなった、と。

 この反省から明は貨幣と商業を排除したため、貨幣経済から現物経済に変わって(後退)しまいます。さらに明は北の出身者を科挙で優遇したので江南出身者たちは離反、郷紳も増えていくというのは、清末まで続く流れの源泉はここにあったのか、と思いました。

 しかし、明代も後半になると江南が綿花と生糸の大生産地になり、その取引のために貨幣が必要になりますが、明は貨幣を発行しなかったため、人々は銀を貨幣の代わりに使用し、世界中の銀が中国に流れ込んだ、と。

 日本が江戸期に鎖国したのは金銀を取り尽くした、という面もある、というのも新鮮な指摘でした。江戸幕府は必需品の国内生産を目指しますが、ヨーロッパは植民地経営と機械化を通じて世界展開を図るという違いも分かりやすい。

[現代中国のルーツを構造で読み解く]

 清では東三省への移民が増えたというのももっともな指摘で、清朝末期から南北格差より東西格差が激しくなったそうです。

 清崩壊後の国民党、中国共産党の指導者は全て都市出身者だったが、中共は農村に追い込まれたため、農村を重視する方向に転換したという指摘もハッとしました。

 これも簡単には検証できない話しかもしれませんが、三大宗教は全てアジア発なのは多様性をまとめるためであり、そこから政治と宗教の分離は難しいという話しも興味深かったです。

 日本史は中世があるので西洋史は理解しやすいが中国史などアジア史にはいまひとつ理解しにくい部分があるというのも、日本史ではいかに中世史が特権的な扱いを受けてきたのかという話しにも通じると感じました。

 気候変動や民族移動、貨幣経済といった大きな視点から中国史を眺めることで、王朝交代の背後にある構造が見えてきます。個別の出来事を暗記するだけでは見えない中国史のダイナミズムを、世界史とのつながりの中で理解できる刺激的な一冊でした。

【主な内容】
はじめに
第1章 黄河文明から「中華」の誕生まで
第2章 寒冷化の衝撃―民族大移動と混迷の300年
第3章 隋・唐の興亡―「1つの中国」のモデル
第4章 唐から宋へ―対外共存と経済成長の時代
第5章 モンゴル帝国の興亡―世界史の分岐点
第6章 現代中国の原点としての明朝
第7章 清朝時代の地域分立と官民乖離
第8章 革命の20世紀―国民国家への闘い
 結  現代中国と歴史
あとがき
文献リスト

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