『東大生に教える日本史』本郷和人
『東大生に教える日本史』本郷和人、文春新書
東大史料編纂所に所属していた本郷先生が2022年、東大駒場の教養課程で、理系も含めた学生に「変革期にあらわれる日本のルール」をテーマに行った講義をもとに加筆したものが本書です。「日本史は暗記ばかりでつまらない」と思っている方や、「なぜ鎌倉幕府は滅びたのか?」という構造的な理由を知りたい方に読んでほしい一冊です。
鎌倉幕府の成立は「1180年」(土地安堵というルールの始まり)
個人的に江戸期までの日本史は、貴族の荘園が在地の武士によって解体されていく過程だと考えています。となると、その先駆けとなる鎌倉幕府の成立はいつになるのか、というところが問題になります。
本郷先生は、頼朝が鎌倉入りして「土地の安堵」を始めた1180年だと考えていますが、いまのところ賛同者は少ないというあたりは、「つかみはOK」という感じ。その後はいつものように東国国家論を唱える立場から、権門体制論(朝廷と寺社、幕府が補完し合って統治していたとする説)に関してはチクチクと批判し、「東国政権の成立」を強調します。
他の本郷本よりも、東国武士が頼朝を必要とした理由として、京都と交渉する窓口役や土地権利などの実務処理能力の高さを強調している印象です。そして、鎌倉幕府の滅亡は貨幣経済の浸透に対処できなかったためとします。土地(不動産)から貨幣(フロー)への転換に対応できなかったのが鎌倉幕府の滅亡の原因という視点もクリアカット。
幕府を滅ぼしたのは、元寇ではなく「貨幣経済」(貨幣経済と徳政令の罠)
当時は京都や鎌倉などの都市文化が発展し、武士たちも贅沢品や消耗品を銭で購入する機会が増え、生活コストが上がっていきましたが、土地の生産性は向上しませんでした。このため、先祖伝来の土地を質入れし、最終的には土地を失う「質流れ」が多発。
さらに元寇後の霜月騒動(1285年)を経て、困窮する御家人を救済しようとする御家人ファースト志向を強めた幕府は、1297年に「永仁の徳政令」を発布しますが経済は混乱。貸し渋りが広がったため、金融機能が麻痺し、御家人以外の武士からも支持を失い、これが幕府滅亡につながります。つまり、都市文化が発展し、贅沢品を「銭」で買える生活へ向上しますが、土地の生産性は上がらず、武士たちは借金地獄へ。そうした御家人を救済策するための「徳政令」が裏目に出て、金融がストップ、という流れになります。
崩壊の直接のきっかけとなった霜月騒動(泰盛と頼綱の対立軸)
霜月騒動は、九代執権北条貞時の外戚で幕府の有力御家人だった安達泰盛と、御内人(北条氏の得宗に仕える私的な被官)である平頼綱の権力闘争ととらえられています。しかし本書では、元寇で活躍した九州の本所一円地住人(地頭の支配を受けず、貴族や寺社が直接支配する土地に住む武士)の御家人化を目指す安達泰盛と、従来の「御家人ファースト」を掲げる平頼綱の対立として説明されます。
東国国家論的な立場で整理すると、頼朝時代に関東で独立した政権を打ち立てた坂東武士たちは、承久の乱によって西日本にも勢力を拡大し、さらに元寇で活躍した九州の武士たちも御家人化しようとしたのが泰盛だといえます。
これに対して、得宗専制体制を強化しようとする平頼綱らは泰盛を先制攻撃し、一族郎党を滅ぼします。騒動は関東・九州を中心に地方へ広がり、幕府を二分する大規模な内乱となりました。
霜月騒動を経て幕府は北条一族の支配が強まり、足利氏ら旧来の御家人の力は衰えますが、結局、足利尊氏によって幕府は滅びます。室町幕府は土地に重きを起きすぎた得宗専制時代の弊害を考え、貨幣経済の中心である京都を押さえることで権力基盤を整えようとします。これには年貢を取り立てすぎると逃散してしまう農民に比べ、商人の蔵に課税する方が効率が高いという判断があったとされています。
しかし、その虎の子の京都を応仁の乱で炎上させてしまったことで室町幕府は自滅し、戦国大名の時代へと移行します。
組織論として読む「信長・秀吉・家康」(三英傑の違い)
一職支配を拡大し、常備軍や経済・流通を重視して全国政権を目指した革新的な信長、その信長の築いた軍団・領土・統治システムを引き継ぎ、デスクワークのできる直属の部下を重視して天下静謐を成し遂げた秀吉を経て、やや時代は戻すものの、家康が長い平和の世を築きます。
家康は秀吉と異なり「家」を重視したという指摘には納得感があります。徳川幕府は前半は開拓によって成長したものの、後半は開拓の限界に達して停滞したとされます。
鎖国に関しては、慶長17年(1612年)、幕閣本多正純の与力でキリシタンの岡本大八が、肥前のキリシタン大名有馬晴信を偽って収賄した事件が取り上げられます。大八は火刑、晴信も死罪に処され、この「岡本大八事件」が江戸幕府の禁教政策の重要な契機となったと強調されています。
類書と比べて、霜月騒動と岡本大八事件を大きく扱っている点が、本書の特徴のひとつです。
<目次>
第一回講義 鎌倉幕府の誕生
・朝廷以外の権力を立てるという大転換が起こった
・東国政権の誕生 日本は一つではなかった
第二回講義 頼朝の死から元寇まで
・なぜ「頼朝の後継者」は殺されたのか? 東国武士のための政権
・元寇がつきつけた新たな課題 「御家人ファースト」か「オールジャパン」か
・御家人はなぜ借金に苦しんだのか? 貨幣経済の浸透
第三回講義 室町幕府、西か東か
・誰が鎌倉幕府を倒したのか? 武士たちは足利尊氏を選んだ
・なぜ足利尊氏は京都を選んだのか? 経済の都、京都
・義満は天皇になろうとしていたのか? 武士と公家、両方のトップとなる
第四回講義 日本人と宗教
・お守りをゴミ箱に捨てられるか? 日本人と神仏の距離感
・なぜ平安貴族は密教に飛びついたのか?
・一向宗は日本型一神教だったのか?
第五回講義 信長の革新性
・長篠の戦 注目すべきは兵器の調達と部隊編制
・他に例を見ない信長の人事
・権威の尊重とその利用 上杉謙信、武田信玄と比べてみると
第六回講義 秀吉の天下統一
・なぜたった八年で天下を統一できたのか?
・デスクワークの重視が強さの秘密
・なぜ家康を倒さなかったのか?
第七回講義 家康が求めたもの
・武功に厚く行政に冷たい 家康の人事政策
・岡本大八事件の謎 キリシタン統制と大坂の陣の隠された関係
・前田利家が金沢幕府を開いていたら?
最終講義 江戸から近代へ
・江戸前期は高度成長の時代
・武士のサラリーマン化が停滞を生んだ
・本当に「鎖国はなかった」のか?
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