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March 17, 2026

『経済で読み解く世界史』宇山卓栄

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『経済で読み解く世界史』宇山卓栄、扶桑社新書

 花粉の季節は目がチカチカするので、読書といってもジムで筋トレ、有酸素運動をしながら聴き流すAudileの柔らかめの本が多くなるのですが、こちらもそんな感じで「聴了」しました。

 代ゼミで世界史の先生をやっていたこともあるという著者は、経済は社会の「下部構造」で上部構造はそこから規定される、というマルクス主義的な世界観を持っている感じ。農業資本から商業資本、産業資本、そして金融資本という歴史的発展段階に沿った説明もへーゲル・マルクス的なものを感じます。

 ギリシャ・ローマから始まり、アメリカの産軍複合体で終わる本書に通底しているのは、多くの国家が滅ぶ原因として貨幣発行の乱発でインフレを起こし、経済が混乱するということでしょうか。日中戦争の敗因も日本軍のファイナンスに焦点をあてて説明しています。

 ローマ帝国の基本戦略は領土拡大政策によって国内の不満を外に向けさせることにあり、2世紀には「パクス・ロマーナ」と呼ばれる平和な繁栄を獲得できましたが、やがて成長限界に達して滅びます。一方、農業の生産性の高かった中国では富の蓄積が進み、10世紀以降の北宋、金王朝、南宋、元王朝、明王朝などの王朝は全て紙幣増刷によって市場の信用を失い、滅亡した、と。富と権力が融合した国家の時代である近代世界でも、貨幣の自己増殖による経済発展を目指すという根底は変わらず、近代以降の覇権国家も徴税→債券→戦費という国家運営モデルをうまく操ることができたイギリスなどは成功したが、失敗した国も多かった、と。

 特に英国は産業革命、奴隷・アヘン三角貿易で潤いましたが、その根底にはイギリス国民の担税意識が高かったという指摘は新鮮。その担税意識を支えていたのは議会制度を通じた国家予算とその使い道の透明性。「自分たちが払った税金が何に使われているか」が明確だったからこそ、国力が安定したという分析は、不透明な支出が革命を招いたフランスとの対比で際立っています。イギリスは透明性が信頼を生んだのですが、逆に王室の予算の使い道が不透明だったフランスでは革命が起こってしまった、みたいな。

 しかし、そのイギリスも産業革命で最も成功した国でしたが、そのモデルがあまりにも成功したため、新しいビジネスモデルへの変革がおこなわれず、ドイツやアメリカに産業構造の転換で後れを取ってしまった、と。初期の段階で植民地獲得に成功し、農産品を加工する軽工業が経済構造の中心となったイギリスやフランスは、成功しすぎたビジネスモデルから脱却することができず、重工業に力点を置くドイツに経済覇権を奪われてしまった、というイノベーションのジレンマも感じることができます。

 この「ビジネスモデルの硬直化」は、現代の産業構造にも通じます。かつてイギリスが「議会と信頼」を武器に徴税と国債のシステムを確立したように、現代のアメリカは巨大な軍事産業、国防総省、そして議会が三位一体となり、経済成長を牽引する巨大なエコシステムを作り上げましたが、その成長限界もどこにありそうです。2026年に入ってからのマドゥーロ捕獲→キューバ経済の破壊、イラン攻撃は圧倒的な成功をみせていきますが、注目していきたいと思います。

[目次]

古代
◎なぜ、ギリシアのような辺境の貧村が世界帝国となったのか?
◎ローマの台頭、繁栄、衰亡の三段階、その力学構造とは?
◎漢王朝の経済論争、国家は市場に関与すべきか?
中世
◎銀行業で華々しく成功する事業家一族、利子禁止をどのように回避したのか?
◎唐王朝、宋王朝はマーケットをどのようにコントロールしたのか?
◎一体化する世界、元王朝や明王朝はグローバリズムにどのように向き合ったのか?
◎アジア、アフリカ、ヨーロッパを支配したイスラム、その力の源泉とは?
近世
◎ヴェネツィアではなく、ジェノヴァが新しい時代をつくることになったのはなぜか?
◎ポルトガルの香辛料貿易の利益、スペインの新大陸産の金銀はどこへ消えたのか?
◎なぜ、小国オランダは世界の覇権を握ることができたのか?
◎オスマン帝国が形成したグローバル・リンケージ・システムとは何か?
◎なぜ、辺境の異民族が中国を260年間、支配し続けることができたのか?
近代
◎急激な経済上昇はなぜ発生し、また、なぜ、それは欧米や日本に拡がったのか?
◎イギリスは莫大な利益をどこから稼いでいたのか?
◎覇権国家イギリスは財政危機をどのように乗り切ったのか?
◎財政危機の救済に悪用されるリフレ政策、その功罪とは?
◎なぜ、中国やイスラムでは近代化が起こらなかったのか?
現代
◎新しい資本主義の局面を、イギリスではなく、ドイツがつくり上げていくのはなぜか?
◎不況の時に有効なのは財政政策か金融政策か?
◎戦争は回避不可能、戦争に突入しなければならない必然性とは何か?
◎日本軍のファイナンスはどのように失敗したのか?
◎なぜ、アメリカ国民は軍拡の負担を受け入れたのか?

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