『渤海国の謎』上田雄
『渤海国の謎』上田雄、講談社現代新書
月組公演『雨にじむ渤海(パレ)』の予習として読んだのですが、上田雄先生は名著『遣唐使全航海』の著者だけに、本当に面白かったです!
唐と新羅によって668年に滅ぼされた高句麗の遺臣たちが建国した渤海国は、唐と新羅に挟み討ちされそうになったので、日本に応援を求めて使節を派遣したのが727年。 ところが使節が着いたところは出羽(秋田から青森あたり)で、そこで使節は蝦夷の民に殺されてしまい、生き残った8人がなんとか都まで辿り着き、ほぼ初めての朝貢使いと感激した朝廷は帰りの船をつくり、渤海と朝廷の<返礼の>使節も乗せて帰らせた、というのが長く続く渤海使の始まりです。朝廷としても、その頃ようやく種子島や屋久島からも使節が来たようなので、外国との朝貢が続いたと大喜びしたわけです。
その後も冬の季節風に乗ってくるので日本に着いては、たびたび船を失って、新造船で送ってもらうことが続き、あげくには日本に帰る朝廷の使節に便乗して日本に向かうようになるとか、とにかく面白いです!
唐と新羅に復讐するぞ!と考えていた渤海の勇ましい王も、日本側の野心家貴族<である>藤原仲麻呂も亡くなり、対新羅という面での国交は意味がなくなったけど、平安貴族は冬を凌ぐ革製品が欲しく、渤海も繊維製品が欲しかったので、その後は交易主体のやり取りが続いた、という経緯も興味深いです。
平安貴族は意中の女房を射止めるための飛び道具として毛皮、特に黒貂の製品に目がなかった、というのはよくわかります。確かに、天井だけしかないような家では重ね着した上に着る毛皮はありがたかったろうな、と想像できます。
契丹の耶律阿保機によって滅ぼされ、ほとんど痕跡もなく破壊され、その地に再び国家が建設されたのは1000年後の満洲国だったとは…中原からすれば台湾と同じように「化外の土地」by李鴻章だったわけですが…。
草原しかないような土地を中心にロシアのウラジオストックから北朝鮮、中国の遼東半島までを一時は支配した旧高句麗の遺臣たちがつくった渤海。その都である東京龍原府を発掘したのは、関東軍として出征していた若き考古学者、斉藤優だったそうです。『雨にじむ渤海(パレ)』のファーストシーンはこの発掘シーンだったら…とか妄想を膨らませています。
しかし、唐と新羅に攻め込まれるのを恐れて日本と親交を結び、冬の季節風に乗って日本に着岸、夏の季節風に乗って帰る使節を29回もやりとりしていた、と**<いう事実にも驚かされます。
使節と朝廷側の応接貴族は共通言語であった漢詩を通じて交流し、雅楽にも渤海から伝えられたものが残るほか、ポロの一種の「打鞠」(大河の『光る君へ』でも描かれていた)ももたらされた、というのは知りませんでした。
やがて唐も新羅も北方民族に滅ぼされ、四方を海に囲まれた日本だけが歴史を紡ぎ、さまざまな記録を残すとともに、東シナ海をまたにかける民間交易により、遣唐使などをわざわざ派遣しなくても文物がやりとりされるようになった、みたいな成り行き腑に落ちました。
遣唐使たちのカネがなくなると天皇から渤海経由で砂金が届けられるほどの信頼関係があったとは驚きでした!
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