『日本史の法則』本郷和人
『日本史の法則』本郷和人、河出新書
東京大学史料編纂所教授を退任する本郷先生は、専門である日本中世政治史の本と研究史のほかに日本史を通じるような本を三冊書きたいとのことで、これはそうした著作の習作という位置づけでしょうか。
ぼくは、どうも権門体制論というのは当為(建前、理想論)を重視しすぎていると感じているので、本郷先生たちのように、実情に即して武家政権を「東国国家」、朝廷を「西国」の王権と位置づける二つの王権論の方がスッキリしていると感じています。
二つの王権論に立てば日本は一つの国ではなく、歴史も一つではない、と。しかも、日本の歴史は「ぬるい」。
本郷和人先生が「日本史はぬるい」と言い始めたのは、『乱と変の日本』あたりからでしょうか。この中でコジェーブが「人間の歴史を学びたいのであれば、日本の歴史を学べ」と述べていることを「はじめに」で紹介し、日本は気候、異民族支配などの影響がないところで歴史が展開されたので、人間がどのように発展するかを見る上で、もっともいい教科書になるとしていました(p.22-)。おそらくここはコジェーヴの『ヘーゲル読解入門』の第2版にある「日本化についての註」からきています。
世界史は戦争に次ぐ戦争の血で血を洗う歴史でしたが、本郷先生はそれと比べると「ぬるい」と。根絶やしにするぐらいの虐殺は織田信長による一向一揆、徳川幕府による島原の乱など割と限定されています。
朝廷は朝鮮半島の進出を諦め、唐からの侵略の不安もなくなるとすぐに進取の気質を失い、統治は緩み、不満を抱いた東国武士の叛乱を招きます。
東国武士たちは自分たちの土地は自分たちで支配することを目指し、源氏の御曹司を立てて独自の政権を打ち立てますが、貨幣経済には対応できず、将軍家、得宗家、執権という二重、三重の権力構造を整理できなかった、と。しかも無学なため、元から丁重に送られた使者にきちんと対応しなかったことから元寇を招いてしまった、と。当時の北条家は有力者でさえ息子に「腹が立ったからと言って部下をむやみに切ってはならない」と教えざるを得ないほど野蛮だったという限界を超えられず、足利幕府が誕生。
室町幕府の有力者たちは京都に住み、各地の「守護大名」に任じられ、任国の武士や土地を直接支配する領国支配を確立しました。ところが、ここでも京都に住む管領たちが緩み、応仁の乱が起こり、幕府に見切りをつけた守護が任国に帰ろうとしますが、すでに守護代や国人に実質的な権力が移っており、そうした戦国大名たちは自国の統治に専念するようになります。また朝廷側も政治権力の奪取を狙っていましたが、南北朝の混乱を治められず権力に自ら終止符を打つことになります。
また、日本人は建前の平等よりも平和を選び、神・阿弥陀如来の前では平等とするキリスト教、一向宗は無力化される、と。
鎖国については様々な議論はありますが、徳川幕府は第三国経由で海外情勢を知りつつ、国を閉じることに成功し結果的に、植民化の波をかぶることなく明治にこぎつけ、富国強兵で世界に互す「緩くない」時代に突入して破綻した、という感じでしょうか。
なお、これもジムの間にAudibleで聴きました。
[目次]
1 日本は一つ、ではない――この国は西高東低
2 歴史も一つ、ではない――もしも、あのとき……
3 日本の歴史は、ぬるい――変わるときは外圧
4 信じる者は、救われない――信じると大虐殺が……
5 地位より人、血より家――世襲が、強い
6 日本社会は平等より平和を選び、自由をはぐくんでいた
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