『知性は死なない 平成の鬱をこえて』與那覇潤
『知性は死なない 平成の鬱をこえて』與那覇潤、文春文庫
與那覇潤さんは、久々に著書を遡って読もうと思った書き手です。多分、性格はまったく違うけど、妙に読書傾向、興味の方向などが似ていると感じています。
この本は躁鬱を発症して休職、退職した後に最初に出した本で、東欧民主化からトランプ政権誕生までの30年というリベラルな知性主義の崩壊過程を描いているといえるかもしません。その中で、発症の原因ともなった欺瞞的で実は反知性主義的な場となってしまった大学のあり方の辛辣な批判、自身の躁鬱の発症から寛解の過程も描いています。
與那覇さんの考えの特徴をひと言でいえば、「理性とは言語を適切に運用できる能力」のことで、「感情は身体からわきおこるもの」という言葉と身体の二重性でしょうか。例えば、キリスト教についてもカトリックは儀礼を重んじ信徒の「身体」にはたらきかけるのに対し、プロテスタントは「言語」で書かれた聖書の読解を根拠にしている、などと説明しています。
與那覇さんが学生から教職につくあたりの時代は、言葉を思考の軸にすえる側が「どんなことばで語ろうとも、結局は脱構築というかたちで批判されてしまうので、ほんとうに大事なことは語りきれません」というところまで追い込まれた時ではないかと思います。
そうした時代にデリダは、書かれたものであるエクリチュール(そこにはSNSでRTした有名人のツイートも含まれます)が自分という像を結ぶだけでなく多様なイメージへとひき裂かれていくことを主張しましたが《エクリチュールの散種力を最大化したSNSがツイッターなら、逆にこの自己をひき裂く力を最小限に抑えたしくみがLINEです。うつに転じて以降の私は、類似の病気の知人どうしとのLINE以外、SNSをつかっていません》(k.1867、kはKindle番号)というあたりの指摘は面白かった。
政治に関しては《自民党に代表される日本の戦後保守とは、アメリカが主導する「リベラルな世界秩序」を保守する存在だったのだから、国際的にリベラルが凋落すれば、じつは保守も終わるのです》というあたりは、今の自民党の凋落の本質をついているように感じます(k.2726)。と同時に、煮詰まった感じのリベラル側も《多様性陣営の結束が一枚岩であることを誇り(この時点でなにかおかしい。「一匹狼友の会」みたいな遂行矛盾だ)、オンラインの動画や文章で「俺たちは『正しい考え』を変えないぞ!」と気勢を上げ》ているようで情けないわけですが(k.4934)。
《米ソという二大国は、政治や経済の制度では正反対だったにもかかわらず、「国のなりたち」として似かよった面があります。すなわち、どちらもその「人工性」がきわだった国家であり、それを正当化する神話と実態とのあいだに、大きな乖離をかかえていた点です》(k.2824)というあたりは、ウクライナ戦争の泥沼にはまっている現在のロシアも「神の国ロシア」という幻想にすがっている姿を浮かび上がらせてくれています。
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