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July 05, 2025

『陸将、海将と振り返る 昭和の大戦』小川清史、伊藤俊幸

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『陸将、海将と振り返る 昭和の大戦』小川清史、伊藤俊幸、桜林美佐、ワニブックス

 「ん?『失敗の本質』は旧軍の組織論的欠陥をメインにとりあげた本で、作戦それ自体に関する評価については専門的ではない部分もあったのか」というのが本書の元になった動画をみた時の驚きでした。

 改めて『失敗の本質』の版元の説明を読んでも《日本軍の戦略、組織面の研究に新しい光を当て、日本の企業組織に貴重な示唆を与える書。ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ沖海戦、沖縄戦という大東亜戦争における6つの作戦の失敗の原因を掘り下げ、構造的問題と結びつけた日本の組織論の金字塔》としています。

 これに対してウクライナの戦況解説などでお馴染みの小川清史陸将と伊藤俊幸海将が『失敗の本質』で取り上げられた6戦いについて軍事的な側面から解説したのが本書。

 ノモンハンに関しては《ソ連は五カ年計画を進めて国力を強化しているから、強くなる前に叩くべきという「対ソ予防戦争論」の皇道派と、反日排日で日本を敵視している中国を、ソ連の前に叩けという「中国一撃論」の統制派で》《ノモンハン事件はいわばその統制派が主導権をとった直後のような状況で、人事がきわめてヒューマンネットワーク》でなされており、《北支那方面軍参謀長に就いていた山下奉文以外はみんな統制派》(k.308)という視点はなるほどな、と。

 ノモンハンは双方に大きな損害を出して終わり、日本は真珠湾に向かうのですが、 前提として《真珠湾攻撃は「陸軍の南方攻略に資する」ためなんです。要するに、陸軍が南方を攻略しやすくするために、真珠湾を先に叩いておこうという話》でドイツが強くてヨーロッパで大暴れして《英仏など南方に植民地を持つ国自体がボロボロになっていたという国際情勢があったわけです。だから、「今なら南方を取れるぞ」と南進論の気運が急激に高まっていった》(k.695-)という流れだった、と。


《日露戦争後の両国の関係がいまだ安定していなかったことを考えると、陸軍にとって最大の仮想敵はソ連軍だったはずです。にもかかわらず、鉄道沿線の守備という警戒部隊のような任務から派生したのが関東軍でした。そのため、関東軍は、本格的な軍事作戦を行いうる組織や編制・装備からはほど遠く、かつ満洲が対ソ連軍用の緩衝地帯であるとの認識もなく、ただただ国境防備の任務に終始していたように思えます》(k.4124)という視点も鋭いな、と。

 真珠湾では奇跡的な大戦果を上げたわけですが、それは後の世が思うほど無謀ではなく《山本五十六は「アメリカが 10 と言っても、そのうちの半分は大西洋側、つまりヨーロッパにあるから、太平洋は残り半分の5だ。アメリカが5で日本が6なら勝てる計算になるから、ミッドウェー奇襲攻略作戦は可能である」という発想でした。だから、米軍基地のミッドウェー島を攻略することによって、それに応じて反撃に出てくるであろう米国艦隊、すなわち真珠湾攻撃で撃ち漏らした米海軍の空母機動部隊を誘い出し、一気に撃滅しようとした》という見方もあるのか、と(k.1246)。

 特に出色だったのが《第2章 「陸」から読み解くミッドウェー海戦》でした。
 
 その後、東京が爆撃されたこともあり、ミッドウェー海戦が企図されたのですが、作戦名からしてもミッドウェー島を攻略して、一週間だけ持ちこたて不沈艦空母として運用している間に米空母を撃滅する作戦だったのに、敵艦隊を撃滅するという意識が高すぎて《陣前出撃の最悪手を打ってしまったんです。戦術面や技術面でアメリカ側に負けているところはあったかもしれないけれど、そもそも陣前出撃という一番やってはいけないことをやってしまい、米軍に島を持たせたまま対峙してしまった。根本的に弱い状態のまま出撃》してしまったのが問題だとする小川清史陸将の指摘は凄いと感じました(k.1453)。ミッドウェー「海戦」として、運命の5分など虎の子の空母4隻を失った経緯のみに焦点があてられてきた戦いは、今後、見直されていくかもしれません。

 こうした海軍の気質は「艦隊たるもの敵の主力艦隊を確認したら、それと一戦交えるのは当然じゃないか」と思っていたから。謎でも何でもない」(k.2930)ということで、本来はレイテに上陸した米軍を叩くために行われたレイテ沖海戦も、幻の敵艦隊を目指して謎の反転をしてしまうわけです。

 インパール作戦については、牟田口中将は撤退作戦をある程度成功させて生き残った兵士を帰還させており、証言者がたくさんいるから叩かれるという側面もあるというのもなるほどな、と(k.2591)。

 小川さんは、そもそも太平洋戦争につき進む目的がいまだによくわからないとしていますが《近代戦争に向けて冷静なグランドデザインを描ける状況にないところへ、米国などによる外交的圧力、欧米先進国による民族差別などによって国民感情が爆発したのではないでしょうか》という側面もあったのかな、と(k.4178)。

《ロシアと中国をどうやって日本から遠ざけておくか。この問題は最終的に、第二次世界大戦で負けたことで、すべてアメリカが肩代わりしてくれる状態》で《ある意味で中国を第一列島線以西に封じ込めている状態です。日本の最西端で台湾による中国軍に対する抑止効果の作用が働いているともいえる状態》(k.250-)は続いているわけですが。

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