『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』佐藤俊樹
『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』佐藤俊樹、岩波新書
ジムでエアロバイクを漕ぎながらAudibleで聴きました。『社会学の歴史II』奥村隆、有斐閣アルマが難航していて、特に最後のルーマンは本当に難しいな、と思ったので、その理解の助けになればいいな、と。
分量的にはウェーバー:ルーマン=8:2ぐらいな感じですかね。あとがきで、ルーマンの社会学についての入門書を、という岩波からの依頼に対して著者がウェーバーからの流れで書きたいと逆提案して書かれたとしていますが、もう少しルーマンの比重を重くしてほしかったと思いますが、それは次のルーマンに関する著書に期待します。
ぼくも著者が批判する大塚久雄訳で読んだのですが、プロテスタントの禁欲的職業倫理が資本主義のエ-トスとして重要とされてきたものの、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(プロ倫)』でも「資本主義の精神」が何かを明確にはできておらず、資本主義的会社の組織、意志決定システムの重要性を指摘し、その問題意識がルーマンの社会システム論に継承された、みたいな流れでしょうか。
ウェーバーがプロ倫で参考にしたのは叔父の繊維会社「ウェーバー&カンパニー」で、中興の祖となるカール・D・ウェーバーは大量の外国製品に押され、存亡の危機に陥ったビーレフェルトの繊維産業を守り、発展させた人物であることが強調されています。よく考えてみれば「ウェーバー」という姓もドイツ語で「織り手」を意味しているんすもんね…(にしても、今の米国による中国のデカップリングも同じような洪水的輸出の対抗に起因しているのかも)。
とにかくウェーバーが資本主義の精神の事例としていた十九世紀半ばのウェーバー&カンパニーの組織形態は個々の労働者が自ら判断していく自律分散型ネットワーク組織で、そこでは信者が行動を自ら決定する自由が義務化されるというプロテスタントの禁欲倫理が自律分散型ネットワーク組織に適合していた、みたいな。
そこで発揮された資本主義の精神とは「自由な労働の合理的組織」で、それによって産業資本的企業は「水平的協働が可能な自由な労働の合理的組織」になっていった、と。そうやって、生産と流通のプロセスを直接管理することで、より高品質の製品をより安く供給しる仕組みをつくり、「得られた利益の多くを再投資して企業規模を拡大し、さらに厳しい競争にも耐えられるようにした」と。
「プロテスタンティズムの倫理」はカルヴァン派の予定説を想定していますが、著者が戯画的に書いている「天国株式会社の永久見習い社員」のような生活態度は必ずしも資本主義の精神に不可欠なものではない、とも指摘しています。
イスラム経済や中国経済が近代資本主義を生み出せなかったのは西欧のように法人組織を生み出せなかったからで「プロテスタンティズムの倫理」がなかったからではない、と(もっともイスラムはそもそも法人を認めませんがw)。
さて…。
社会を一定の価値観を共有・内面化した人びとの集まりと考えて、その人びとの行為のネットワークをシステムとして捉えることから社会のメカニズムを分析しようというのがーソンズの社会システム論だと思います。
ルーマンが自己産出系論(オートポイエティック・システム)の考え方を導入したシステムとは、複数の要素が互いに相手の同一性を保持するための前提を供給し、相互に依存し合うことで形成されるループであり、システムは自己の内と外を区分(境界維持)することで自己を維持する、みたいな。
個人的にはルーマンは本当に難しく、人間の共通価値が社会を支えるのではなくコミュニケーションが成立することが「社会」であり、そうした機能は代替可能であることだけが求められる、それをとりあえず信頼することで社会は成り立っているみたいなところは凄いな、と思っています。
著者はAI化も組織無しにはありえないとしていますが、次のルーマンに関する本が楽しみです。
以下の引用は印象に残りました。
《優れた社会科学者は経験的な事態を親察するなかで「何か」を見つけ出す。むしろそういう資質と能力をもった人間が、優れた社会科学者になれる。ただ、そこで何を見出したのかは、本人にもはっきりとはわからない。わからないまま、既存の術語や喩えに抗いながら、その「何か」を少しずつ言葉にして論文を書いていく。社会科学というのは、そういう思考と表現の作業である。
ウェーバーもそうやって考えていったのだと思う。亡くなる直前の倫理論文でも、「資本主義の精神」とは何かを明確には示せなかったが、十分な手がかりは残してくれた。その後の経営学や社会学の組織研究、さらにそれらを理論化したルーマンの組織システム論をふまえていえば、「資本主義の精神」とは、決めなければならない自由を生きることであり、それが水平的な協働ができるような形に自分や他人の働き方を組織することにもなった》(p.249)
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