『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子
『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子、新潮社
松竹創業百三十周年「四月大歌舞伎」の昼の部で上演されている新作歌舞伎『木挽町のあだ討ち』の原作。
舞台は齋藤雅文さんの脚本が好調で「久々の新作の傑作!『NINAGAWA十二夜』以来なんじゃないの」と感じたので、さっそくAmazonで物理的な本を購入したものの、来ないあいだに、Audibleで聞いたんですが、これまた凄かったので一気に聞き通してしまいました!
まずは舞台の感想から。
早い展開だけど、ぐんぐん引き込まれます。菊之助の母親を演じる芝のぶ素晴らしい!相変わらずチラシにも出さない松竹の扱いが信じられない…本を読んでいる中で、菊之助を助ける役者ほたるが、名題になれないという話しが出てきましたが、いまだに理不尽が続いているな、と。
ほたるの壱太郎、木戸芸人の猿弥、殺陣師の又五郎、小道具方久蔵の彌十郎、その女房の雀右衛門など脇が豪華!
そして染五郎はこれまでの中で一番の役かも!そして下男作兵衛の中車は、これほど筋に引き込む役者はなかなかいないな、と。
これは再演必至!ということで、さっそく原作も読んでみよう、と相成った次第。
原作は、木戸芸者一八、立師与三郎、ほたる、小道具方久蔵女房の与根、戯作者の篠田金治という関係者の一人称の一人語りで進むんですね。
それぞれ良かったんですが、一番読ませたな、と感じたのはほたる。舞台はほたるを女形の壱太郎が演じているので、観ている時には「ん?女性」と勘違いしていたのですが、よく考えてみれば、衣装の繕いをやりつつ舞台にも立っているので、身体的には男の女形なんだな、と改めてわかりました。
壱太郎のほたるは二代目で、初代は芳町(日本橋)の陰間茶屋あがりの男娼。二代目ほたるは浅間山噴火で一家離散し、母親が焼かれたところの隠亡(おんぼう、火葬場の労働者)に育てられた、という壮絶な人生。針がもてるということで引き取られた寺から仕立屋に奉公に出されますが、そこでも隠亡に育てられた奴に晴れ着などは扱わせてもらえず、死に装束の経帷子ばかり縫わされるという仕打ちを受け、母親のとむらいにカネを出してくれた初代ほたるを頼って芝居小屋にたどり着きます。
さすがに、ここら辺は舞台では省略され、壱太郎の台詞もさほど大きくはありませんでしたが、原作では真ん中にズドンと座る重い役でした。
舞台は1回しか観ていないので、もしかしたら聞き逃していたかもしれませんが、原作を読んで、幸四郎扮する元は旗本の戯作者篠田金治と菊之助の母親を演じた芝のぶは、いいなづけだったというのに、なるほどな、と。
それにしても一人称で語られる原作を、うまく台本にした齋藤雅文さんは大したものだし、あだ討ちの場面の演出も原作を変えて、ケレンミたっぷりに描いたところは素晴らしかった。
まだ1回聴いただけなのでうろ覚えですが「酒というのはありがたい、理由もなく笑える」というあたりの台詞も印象に残っています。
これって、真景累ヶ淵みたいに落語で何日もかけて噺家が語るみたいなやり方で口演するみたいなやり方でも聞いてみたい!
そして…これって宝塚でミュージカル化してもいいんじゃw和物の雪組で、カセキョーの東上作品ぐらいにしたらどうかしらん!
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