『はじめての構造主義』橋爪大三郎
『はじめての構造主義』橋爪大三郎、講談社新書
1988年というレヴィ・ストロースの主著もまだ翻訳されていない時期に、レヴィ・ストロースの仕事にフォーカスしながら構造主義を西洋哲学史の中で説明しようとした本です。
なんで、今さら「読んだ」のかというと、ジムで聴くAudibleを探していて、面白そうなのがなくて、「ま、橋爪さんの構造主義の本ならいいか」と選んだから。あと、スマホのAudibleの検索では出版年数とか出てこない場合があって…。でも、ま、改めて復習も出来たし、アルチュセール、フーコー、バルトなど、随分この手の本は読んできたな、と懐かしかったです。
この本の特長といえば、近代西欧哲学の流れの中で、構造主義がどういう意味を持っか、みたいなことを書いているところなんですかね。デカルトは知覚の基礎に自己を置いたのですが、バラバラな近代の個々人が理性的に追求した先にも真理があるとした近代市民社会の価値観に合致したカントの後、モノの見方としての西洋絵画における遠近法、証明の基礎となるユークリッド幾何学が解体されるなかで知への不信感が高まる、と。いったん歴史の進歩というマルクス主義というドグマに収斂されるものの、ソ連などの明らかな失敗からまた不信感が蔓延したところに、将来の歴史は見通せないものの人間は生き方を自分で決める自由と責任があるのだから現存在を歴史に投げだそうと実存主義がすくい上げた、みたいな流れの果てに構造主義を置いたこと。
レヴィ・ストロースが分析した親族の基本構造や神話の構造、あるいはそもそも言語の構造などに現れる構造に人間は支配されているんだから、価値とかはありないわけで、まず、そうした構造こそを解き明かすことから始めよう、みたいな。だいたい、女系の交差イトコ 婚で一族の輪を広げるなんていう、高等数学がやっと解き明かせるような仕組みを、西洋が「未開」としてきた人たちが「野生の仕事」でやってきたんだし、と。
面白かったのはジュリア・クリステヴァを含めた構造主義のグループと数学のブルバキ集団とのつながり。どっかの本で(レヴィ=ストロース『遠近の回想』?)シモーヌ・ヴェイユはフランスに亡命していたトロツキーとバカンスに訪れた地で会っているみたいなのを読んだ時「勝てねぇ…」と思ったんですが、構造主義グループとブルバキ集団にもつながりがあるなんて、もっと「勝てねぇな…」と。
レヴィ=ストロースは『悲しき熱帯』を「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」と締めくくっていますが、そんなのも思い出しました。
【目次】
●『悲しき熱帯』の衝撃
●天才ソシュール
●レヴィ=ストロースのひらめき
●インセスト・タブーの謎
●親族の基本構造
●神話学と、テキストの解体
●構造主義のルーツは数学
●変換群と〈構造〉
●主体が消える
●構造主義に関わる人びと:ブックガイド風に
●これからどうする・傾向と対策
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