『舞台が幕を開けるまで 演劇のつくり方、教えます』おーちようこ
『舞台が幕を開けるまで 演劇のつくり方、教えます』おーちようこ、大修館書店
読んでいて、本当に楽しかったし、演劇に関する理解がより深まりました。高校時代に文転してヤクザな社会科学の方向なんかに歩まず、もっと文系文系した演劇をやればよかったな…中学で映画を撮ったり、高校一年の前半では脚本・演出で芝居をかけたんだよな、とか詮方ない事を思いながら…まあ、なるようにしかならなかったでしょうがw
この本を知ったのは著者紹介もかねた日経の書評欄の記事。《劇作家、演出家、プロデューサー、美術、衣裳、ヘアメーク、照明、音響……本書は16人へのインタビューを通じて、企画段階から脚本の決定、チケット販売、演出の具現化、稽古、そして初日の幕が開くまでの、それぞれの役割を紹介する〝舞台づくりの教科書〟》《一般にはイメージのしにくい職種に「制作」がある。取材窓口を担い、チラシや公式サイトの作成、チケット販売実数の管理など職務範囲は広く、責任は重い。本書がスポットライトを当てた女性は「すべて稽古場で起きていることが舞台になっていく」と考え、できるだけ長く稽古場に身を置く。「誰がどんな表情をしているのか? など現場の空気をどれだけ感じ取れているかが非常に大切」との矜持を持つ》なんていうのを読んで、即、購入。
この制作の部分の話しは関根明日子さんですかね。チケットに関わる業務全般を「票券」といいますが、大きな制作会社は企画、キャスティング、票券、宣伝などの部署に分かれているといいます。そして、芸術とお金をすりあわせることでクオリティや舞台に関わる人の士気に関わるとか、なるほどな、と。
舞台制作ということとは直接、関係ないけど、人を動かして舞台も含めて何かをつくろうという時の今の世相についての鴻上尚史さんのインタビューが印象的でした。
《昭和の時代に紅白歌合戦の視聴率が70%を超えている時代は、なんとなくみんな同じだと思われて、言わなくても分かるよねというモラルを守ることで社会が成立していたと思うんです》《でも、今は、モラルではなくルールを学ぶ必要が出てきた。だって、多様性の時代ってことは、みんなが違ってきている》《言わなくてもモラル、分かるよね、っていう時代じゃなくなった》(p.18)
このほか、知ったことは
・脚本は1分間に300~400文字の台詞量
・舞台監督は建て込みの手順に合わせて大道具の搬入、証明さん、音響さんが機材を入れる時間に合わせて、どこへトラックを向かわせて積み込み作業をすればいいのかも段取りする
・だいたい仕切っているのは舞台監督
・俳優座は閉館したけど、大道具をつくる俳優座舞台は健在というか、第一人者
・商業演劇だと衣装だけで100人が関わる
・衣装の部分がひとつ取れて奈落に落ちても舞台機構がおかしくなることをアタマにいれてつくらなくてはならない
・衣装付稽古という稽古がある
・立ち稽古は「ミザンス」
・男子校は夕暮れ時に静かになる
・BGMは夏と冬で聞こえる音量が違う
・大きくなっていく劇団は、劇団員の将来を考えている
それにしても小劇場は一週間単位の貸借りとは…。月曜日に大道具を入れて火曜日までに組み立てて、照明の当たり具合を確かめて、水曜にゲネプロと初日、日曜日に千穐楽というスケジュールなのか、と(宝塚は大したもんです)。
最後に…ぼくは、新しい職種の話しが出ると、よくぺりかん社のシリーズ「なるにはBooks」を読むんです。「なるにはBooks」は中高生向けにゲームやアニメ業界で働くにはどうしたらいいのかを、それぞれの職種のプロの人たちにインタビューしてまとめている本なんですが、舞台を含めてこうしたのは、やっぱインタビューをまとめると分かりやすいな、と改めて思いました。
【目次】
まえがき
絵で見る「舞台が幕を開けるまで」
★インタビュー
鴻上尚史(作家・演出家) 相手の心を想像する心を育てる、それが演劇のすごさ
[1]公演の企画 企画を立案する
★インタビュー
岡村俊一(プロデューサー) 主演は決める、のではなく、決まるもの
早乙女太一(劇団座長) 昔の大衆に向けた演劇を、今の大衆に向けた演劇へ
[2]脚本・演出の決定
オリジナルの脚本を書く、あるいは原作から上演台本を書く
出演者と役を決める
脚本をもとに演出のプランを立てる
★インタビュー
中島かずき(脚本家) 僕は例えるなら「注文住宅」なんです でも予想外の家を建てることが楽しい
石丸さち子(演出家) 演劇とは見知らぬ誰かと出会うこと
[3]公演の宣伝・チケット販売
宣伝材料/パブリシティを作成し、広く告知するために
チケットを販売するために
★インタビュー
関根明日子(制作) 稽古場で起きていることが舞台になる
[4]演出計画の実現
作品世界にそった舞台美術の計画を立て、形にする
衣装を借りる、あるいは作る
作品世界に沿ったヘアメイクを考える
★インタビュー
小林奈月(舞台美術家) 演出家が想像するその先へ
金安凌平(舞台監督) 「それはできない」と言いたくない
藤江修平(大道具製作) 舞台を通して人の心を豊かにする
黒澤花如(大道具製作) ひとつとして同じことがない仕事です
及川千春(舞台衣裳家) 衣裳が彩る世界観で作品によりそいたい
伊藤こず恵(ヘアメイク) このヘアメイクで役になれた、その言葉がうれしい
[5]稽古開始
稽古する
照明プランを考える
音をつくる
★インタビュー
一色洋平(俳優) 舞台と客席にある透明な壁を破る、それが役者のおもしろさ
松本大介(舞台照明家) 照明は角度と高さの芸術です
佐藤こうじ(舞台音響家) その音は、いつ、どこで、誰のために鳴るのか
[6]小屋入りから初日へ
建て込みをする
場当たり・ゲネプロをする
本番中
千穐楽を迎えて
★インタビュー
本多愼一郎(劇場支配人) 劇場は真っ白であるべきです
あとがき
演劇キーワード索引
【Column】
演劇を続けるために、「劇団」という形があります
インティマシー・コーディネーターの導入やハラスメント防止ガイドラインの公開も
制作は公演の最初から最後まですべてを支えるプロフェッショナル
舞台が事故なく怪我なく進むようすべてのチームをつなぐ要、それが舞台監督だ
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