『はじめての日本国債』服部孝洋
『はじめての日本国債』服部孝洋、集英社新書
国債に関しては個人向けを預金代わりに買っているぐらいで、正直、まったく勉強していなかったので、例えば、債券には中古市場が存在し《日々金利が動いたと報道される場合、この金利は中古市場(流通市場)で形成された価格に立脚している》(k.214、kはkindle番号)、《国債の残高は一貫して増加しており、おそらく今後も増加していくことが見込まれます。日本でこれくらい右肩上がりの産業もなかなかないのではないでしょうか。投資家や証券会社から見ると、国債市場は巨大なマーケットなので、その中でうまく取引ができれば巨大な利益を得られる可能性もあるわけです》(k.339)というあたりでも、なるほどな、と。
《現在の日本国債は80%以上が国内投資家に保有されています》というのも言われてみれば、なるほどな、と思いましたが、外国人投資家の割合は増加傾向にいるとのこと。
債券の世界では、債券の投資から得られるリターンを「利回り(イールド)」といいますが、長期になればなるほど変動が大きい、というのは意外でした。短期金利のほうが高い「逆イールド」も発生しやすいとのことで、2年債の価格の動きはほとんどありませんが、30年債の価格は数か月で5%くらい価格が上下することもあるとのこと。だから長い年限の国債は価格の変化が大きく利益を上げる機会が多いともいえる、と。でも、銀行は短期から長期債、生命保険会社は超長期債を購入する傾向がある、と。不思議です。
ここで、「リスク」とは何かという定義がくるのですが、それが見事という目ウロコ。曰く《金融全般において「リスク」とは、価格の変動そのものを指しており、単に損をする可能性を示しているわけではないことです。リスクは、価格が上がることもあれば、下がることもあるという価格の「変動」に立脚した概念です。したがって、リスクが高いというのは、価格の変動は大きく、儲かる可能性も損する可能性も大きいことを意味します。この変動を「ボラティリティ」と表現することもあります》(k.544)。
『経済評論家の父から息子への手紙』山崎元の《資本主義経済は、リスクを取りたくない人間から、リスクを取ってもいい人間が利益を吸い上げるようにできている。この点がよく分かったことは、今回この本を書いてみたことによる、父の個人的収穫であった。そして、利益を吸い上げる際に介在するのが「資本」であり、資本に参加する手段が現代では「株式」》(k.401)という言葉の「リスク」を『はじめての日本国債』のこの部分を踏まえて読むと、その意味が時空間をともなって立体的になる感じがしました。
この後は証券会社と国債市場の関係や、日銀の役割とオペレーションなど、リスクヘッジと金融派生商品(デリバティブ)など実務的な話しが続きます。
また、『ドキュメント 異次元緩和 10年間の全記録』西野智彦を読んでいて、いまひとつ理解できなかった「財政ファイナンス」についても《日銀が流通市場で取引されている国債を購入する理由は、財務省が発行する国債を直接購入することが「財政ファイナンス」と呼ばれ、財政法で禁じられているからです。これを「国債の市中消化の原則」といいます》とわかりやすく解説してくれてありがたかったです。
「貨幣」とは「現金通貨」に「預金」を加えたものと整理でき、マネタリーベースの定義では、「現金通貨」に加え、日銀が直接コントロールできる民間銀行が日銀に有する口座=日銀当座預金が「狭義」の貨幣という説明によって、『異次元緩和』でマイナス金利には利下げ効果とは別に異次元緩和の「出口への第一歩」となるという説明にも、すごい説得力と効果を感じました。
伝統的な金融政策とは短期金利の操作だったがYCCは短期金利だけでなくイールドカーブ全体をコントロールする政策であり、日銀は10年国債を無制限に購入するというオペレーションを導入した、という説明でも異次元緩和をより深く理解できねるようになりました。「日銀にとって通貨の価値が下がることほど恥ずかしいことはない」といわれていたそうですが、円安誘導も含めて、凄い政策だったんだな、と。
《60年償還ルールのような償還ルールを持っている国は、(私の理解では)日本だけであり、その必要性がないのではという指摘があります》(k.2184)というのは知りませんでした。
あと、恥ずかしながら《担保を出すことで調達コストを下げられることは、私たちが家を買うときに家という不動産を担保とすることでローンの金利を抑えられることと同じです》(k.2533)というのは初めてしりましたし、《そもそも「金融」とは、その名前からイメージされるとおり、「資金の融通」を意味します。すなわち、お金がない人とある人をつなげること、これが金融の機能というわけです》(k.255)あたりも、当たり前ですが整理してもらいました。
また、財務省があんまり財政均衡とかいうなら、2050年までに毎年20兆円発行する予定のGX国債を取りやめたら?なんてことも考えてしまいました。もう、トランプ政権になってカーボンニュートラルとか見向きもされなくなってるわけですしw
レポ取引と無担保コール市場、固定金利と変動金利の交換である金利スワップなどの説明は難しいな、と感じましたが市場で取引されるスワップ・レートを観察することにより、投資家がどの程度、将来の決定会合で利上げを見込んでいるかについて予測ができる、というあたりは役立てようかな、と。
日銀の植田和男総裁が大学の学部生向けに中央銀行の役割を含めて金融の基礎を解説してくれてる本を出しているのを知りました。敬意を表して、Audible版はタダで聴けるので『大学4年間の金融学が10時間でさっと学べる』をゲットしました(あまり敬意を表してないけどw)。
【目次】
第1章 国債がわかれば金融の仕組みがわかる
第2章 国債(債券)に関する基本
第3章 証券会社と国債市場の重要な関係
第4章 日銀の役割と公開市場操作(オペレーション)
第5章 国債からわかる日本の金融政策史:量的・質的金融緩和から量的縮小へ
第6章 銀行や生命保険会社と国債投資の関係
第7章 日本国債はどのように発行されているか
第8章 デリバティブを正しく理解する
第9章 短期金融市場と日銀の金融政策
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