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November 04, 2024

『THE UNIVERSE IN A BOX 箱の中の宇宙 あたらしい宇宙138億年の歴史』

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『THE UNIVERSE IN A BOX 箱の中の宇宙 あたらしい宇宙138億年の歴史』アンドリュー・ポンチェン、竹内 薫、ダイヤモンド社

 この本はダークマター、ダークエネルギーなど未知の物質がなければ宇宙は現在あるような形にはなっていないし、実は質量の95%を占めているというのがコンピュータによるシミュレーションによって明らかにされてきたという内容です。というかシミュレーションによってしか納得的な説明はできないし、ヒッグス粒子の観測もシミュレーションを重ねた後の実験で明らかになったほど、宇宙論とシミュレーションは切っても切れない関係ということが理解できました。そもそも《科学とは、その核心において、正しい説明ではなく、検証可能な説明を与えることである》(k.1888)というあたりはうなりました。

 こうしたシミュレーションはまず気象予報から始まります。クリミア戦争時に襲った嵐によって各軍は大きな損害を受けますが、そうした災害を防ぐには予想しかない、と。そして、天気予報は流体力学を基にしており、それは素粒子や星やガスの雲など、あらゆるものの「集団的なふるまい」を理解することにもつながる、と。それは《コンピュータ内に収めるために、無数の個々の構成要素一つひとつに触れることなく、膨大な数の分子を「ひとまとめ」にして、それらがどのように「集団」で動くか、互いに影響しあい、エネルギーをやりとりし、光や放射線に反応するかを説明することで、天候や銀河、あるいは宇宙全体を描き出さなければならないのだ》(k.222)と。

 最初は予測はグリッドが大きすぎて予想は使い物になりなかったのですが、コンピュータの発達とともに徐々にグリッドを小さくして予想精度が高まり、さらにはコンピュータが考慮すべき詳細を特徴づける適切なサブグリッドのルールを与えることで、さらに精度が高まっていきます。ちなみに訳者あとがきの解説によりますと《世界を四角形で分割したのがグリッドだ。三次元であれば立方体で分割する。これは要するに、微分方程式をデジタル化(=離散化)するという意味である》とのこと(k.4215)。

 そして《地球、惑星、星、銀河系、宇宙全体。それが何であれ、シミュレーションのテンプレートはよく似ている。シミュレーションは、初期状態(今日の天気、太陽系を形成するために合体する物質の雲、ビッグバンの余波など)》からの変化を予想することなのだ、と(k.900)。

 《今日、宇宙を押し広げているものはすべて「ダークエネルギー」と呼ばれ、銀河を引き寄せている「ダークマター」と対をなしている》(k.1372)、《もっと重要なのは、ダークマターの引力とダークエネルギーの斥力が共謀して、私たちの宇宙の包括的な構造、つまり宇宙の網の目を作り出す方法だ(訳注:物理学的な力には二種類ある。引力と斥力=反発力である)》(k.1419)というあたりはワクワクします。

 日経の書評で《戦後、ENIACの巨大なコストをかけてでもシミュレーション技術を発展させる原動力になったのは、核実験禁止条約という政治的課題に向けた超新星爆発の解明だった》というのは、どういうことなんだろうと思いながら読んでいたのですが、例の歯磨き粉の一族の研究者が《コルゲートは条約顧問の立場から、水爆実験を禁止するためには監視と強制力が必要だと考えていた。しかし、太陽系のはるか彼方で死にかけた星々が爆発すれば、大気圏上層部に、爆弾とよく似た放射線の閃光が発生するかもしれない。このような宇宙の閃光は、本来は爆弾よりもはるかに明るいが、遠大な距離のために暗くなり、宇宙空間で兵器と誤認され、誤った警報が発せられるかもしれない》(k.2160)ということから始まったんだな、と。

 この後《量子力学、重力、ダークマター、宇宙マイクロ波背景放射、宇宙の網の目、そして、私たち自身の存在。これらすべてが、インフレーションというビジョンの中で見事に結びついている》という流れは本当にスリリングでした(k.2986)。

 AIの未来に関し《科学者の直感は、ベイズ型の世界と機械学習の世界の「中間」にあるからだ。それは、一方で、既存の知識に関わるため、ベイズ型のアプローチが必要なように見える。他方で、「未知の未知」の問題、つまり事前に予想されていなかった実験の問題点にも関係するため、かなりの柔軟な思考が要求される》というのは明るい見通しだな、と(k.3644)。

 万物の理論が完成していないのは《重力が他のすべての力と大きく異なるふるまいをするから》というのは知らなかったな(k.4055)。

 とにかくセンス・オブ・ワンダーの塊みたいな本でした。

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