『13歳からの地政学カイゾクとの地球儀航海』田中孝幸
『13歳からの地政学カイゾクとの地球儀航海』田中孝幸、東洋経済新報社
「地政学」は重要性が指摘されているにも関わらず、学術的な研究分野だとみなされていません。書籍でも学者が執筆したものは、非常に少なく、本書の著者もジャーナリスト。国際分野で活躍する新聞記者は地理学、政治学、国際政治学などを分野横断的に取り入れているために、向いているのかもしれません。ということで厳密な学問ではないかもしれませんが、頭の片隅に入れておけば、視点を増やすことができるわけで、ビジネス書グランプリ2023「リベラルアーツ部門賞」受賞したこの本を読んでみました。
目次に沿ってみていくと「1日目 物も情報も海を通る」では、地政学の「シーパワー」の概念を生み出したマハンに敬意を表してか《世界中の貿易は9割以上が海を通っている。つまり船で運ばれている。特に日本は海に囲まれた島国だからその比率が高くて、99%が船による貿易だ》ということが語られます。
「2日目 日本のそばにひそむ海底核ミサイル」では、核ミサイルはただ持っているだけでは不十分で「原子力潜水艦」「水中発射能力」「潜水艦を隠すための深く、自分の縄張りにてできる海」の三つが必要であり、中国の海洋進出の理由が語られます。
「3日目 大きな国の苦しい事情」ではロシアは190、中国には56の民族がいると言われており、《中国は国内を平和に保つために国が使うお金、つまり治安維持費というが、これを毎年どんどん増やしている。今ではわかっているだけでも日本円で20兆円を超えている。中国の治安維持費は、国を外の敵から守るための国防費よりも大きくなっている》と中国の苦しさが語られます(k.1046)。
このほか《自分の母国語しかしゃべれないのをモノリンガルというが、アメリカや中国、ロシア、日本などほとんどの大国ではモノリンガルの方がえらくなる傾向がある。国の中で高い地位に昇りつめることに力を尽くすあまり、外の世界への関心が薄くなる》という話しや(k.1870)、《朝鮮半島やクリミア半島などは三方を海に囲まれているので、陸側から攻められると逃げ場がない。そして海側から攻められて陸側に逃げて助けを求めようとすると、今度はその国に支配されてしまうリスクがある」》など、割と常識的なことが語られていましたかね(k.1901)。
中国に関しては
「中国が4000年の歴史の中で、これほど外国とのかかわりが必要になったことはかつてない。だから、世界に出て行っているわけだが、ほかの国々とうまくやっていくことには慣れておらず、いろいろな国でトラブルを起こしている。そのトラブルの原因の一つが、どんな中国人も、世界のどこにいようが政府に協力しないといけないという法律だ。まるでスパイのように」
「えっ、私のクラスに中国の子いるけど、その子もスパイになるかもしれないってこと?」
「そういうことだ。中国政府から求められれば、我々の情報を盗むスパイになるし、ならないといけないわけだ」
「国の法律ということは、断ったら逮捕されてしまうのでしょうか?」
「そもそも、中国政府の命令を断ること自体が難しい。日本にいる中国人でも、親戚は中国にいることも多いだろう。政府は『お前が従わなければ、親戚に迷惑がかかるぞ』とおどかすかもしれない」
「そんなことを世界中でしていたら、関係ない中国人まで差別されてしまいう」
と深刻な懸念も示されています(k.2119)。
【目次】
プロローグカイゾクとの遭遇
1日目 物も情報も海を通る
2日目 日本のそばにひそむ海底核ミサイル
3日目 大きな国の苦しい事情
4日目 国はどう生き延び、消えていくのか
5日目 絶対に豊かにならない国々
6日目 地形で決まる運不運
7日目 宇宙からみた地球儀
エピローグカイゾクとの地球儀航海
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