『<自己愛>と<依存>の精神分析 コフート心理学入門』和田秀樹
『<自己愛>と<依存>の精神分析 コフート心理学入門』和田秀樹、PHP新書
コフートは「名前ぐらいは知っているかな」ぐらいの存在でしたが、著作はもとより解説書なども手に取ったことはありませんでした。今回、和田秀樹さんの解説書ぐらい読んでみるか、と思いたったのは『「推し」で心はみたされる?』熊代亨、大和書房の東洋経済の書評インタビューを読んで感心したから。
この書評欄のインタビューで熊代亨さんが語っている《ナルシシズムと聞けば、持つべきではないもの、克服すべきものというネガティブなイメージが浮かぶかもしれません。
「人間は生涯かけてナルシシズムを充たす必要があり、それを充たすうまさは成熟していく」と考える研究者もいました。ハインツ・コフートという精神分析学者です。本書では、このコフートの理論を推し活に当てはめながら話を進めています。
コフートの理論のとくに重要な特徴は次の2つです。第1に、ナルシシズムを「生涯充たされる必要のあるもの」と考えたこと。つまり人間にはナルシシズムの充足が必要という考え方です。第2に、ナルシシズムを人間が経験を積む中で「成熟していくもの」として捉えたこと。
ナルシシズムの成熟は、承認欲求や所属欲求の充足、コフートの用語でいえば鏡映自己対象体験や理想化自己対象体験をうまく積み重ねる中で進むというのです。それなら、推し活もナルシシズムの充足だけでなく、成熟にも寄与できるかもしれません》というのに、妙に納得感あるな、と感じたんです。
ざっくり言うと父が厳しく、母が優しかったフロイトはエディプスコンプレックスという概念を発明したんですが、それはフロイト個人の生い立ちによるもので、父親がだらしなかったり、母親がとんでもない存在ならば逆の発想もあったろうから、フロイトのように自己を律することがなにより大切でナルシシズムはもってのほか、というのはおかしい、ということでコフートは人間は所詮、他人と比べても大して変わらず《「人間、人に頼らずに生きられるものではない」「人間だれだって自分がかわいいものだ」》(k.70、kはkindle番号)という、分かりやすい平易な人間理解で患者に接して成功したそうです。
フロイトのような《無意識の世界をあれこれと想像するのでなく、患者がほんとうに感じていることをたいせつにしようという考え方です。前者の考え方が「自己対象」という概念につながり、後者の考え方が、「自己」(セルフ)や「共感」の重視につながる》と考えた、と(k.551)。
フロイトはナルシシズムを否定的にとらえたのですが、そもそも《「ナルシシズム」は、一八九九年にネッケという人がある種の性的倒錯、つまり自分のことが好きで好きでたまらないというようなことを説明するために使った用語》だそうで(k.699)、それを受容したフロイトは《男が男を好きになってしまうのは実は男が好きなのではなく、自分を好きだから男を好きになるのだと考えました。自分に似ている男だから好きになるというのですが、それは現在のホモセクシュアルの理論とはまったくかけ離れています》というような間違いを犯している、と(k.726)。これに対して《コフートの自己愛の理論というのは、あくまでも相手が支えてくれることで自己愛は健全に発達していくというモデル》だそうでして、なんか、こっちの方がいいな、と(k.943)。
さらに、患者に接する時にも「共感は他者の中の自己を認識する」と定義した「共感」をベースにしていたそうです(k.1364)。和田先生も《私は本業として高齢者をよく診ます。すると、老人は年をとってからほめられるという体験やみんなが自分のことを大事にしてくれるという体験がすごく減っているという》ということで、これも納得的だな、と(k.1936)。
《コフートは、患者さんを共感的に観察し、その自己愛ニーズを満たしてあげることで、患者さんが子ども時代に親の愛情不足で生じた穴を埋めてあげるのが分析家の仕事だと考えていました。そして、最終的には、現実には満たしてあげることができなくても、共感をして人間的な絆をつくり、ことばを通じてわかってあげる体験をさせてあげることで、患者さんの自己が固まり、他の人を自己対象として利用できる、つまり、他の人を信じられる人間にできると考えました》ということで、いつかコフートの『自己の分析(The Analysis of the Self)』や『自己の修復(The Restoration of the Self)』を読んでみようと思います(k.2483)。
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