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April 07, 2024

『ミクロ経済学入門の入門』坂井豊貴

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『ミクロ経済学入門の入門』坂井豊貴、岩波新書

 コカ・コーラとペプシコーラのどちらが好きかというところから無差別曲線の解説をするなど、親しみやすい内容だが、一番、感動したのがギッフェン財の説明。

 これを留学時代の貧しい食生活から説明したあたりが素晴らしい。筆者は留学先の地元スーパーのPB商品だった1袋1.5ドルの不味いパスタを買っていたのですが、時々は高くて美味しい2ドルのパスタを購入していた、と。こうしたなか、このスーパーが1.5ドルから1.6ドルに値上げした時、もう贅沢な高いパスタを求めることをやめ、安いパスタの消費量を増やすことで対応しようとした、というんです。

 本当なら、差額が0.5ドルから0.4ドルに縮まったので、高いパスタを買いやすくなったわけですから、そっちを買うと予想されますが、生活防衛のため、絶対買わなければならないパスタが値上がりしたら、可処分所得は少なくなるわけですから、安い1.6ドルのパスタをもっと買うことになる、と。

 大部分の財は「需要法則」の通り、価格が上昇すればその財への需要量は減少するのですが、ギュッフェン財とは価格が上がると需要が増すもので、貧しい地域の必需品がそうなることがあるということでしたが「そんなことあるかい!」と普通は考えますよね。

 しかし、19世紀のアイルランドでのジャガイモ飢饉の際のジャガイモの需要は、値が上がるほど上昇したそうで、背に腹が替えられない状況では、生活必需品の価格が上がると需要は高まる、と。これを発見したイギリスの経済学者ギッフェンにちなんでギッフェン財と名付けられたそうで、なるほどな、と。

 「不確実なくじと、それと無差別になる確実な金額を、そのくじの確実性等価という」とのことですが、期待効用が計算通りには感じられない条件つき財=保険、たからくじ、馬券などの説明も面白かった。

 どちらも格差拡大につながる話で、《おおよそ持っている人には、なお与えられ、持っていない人からは、持っているものまでも取り上げられるであろう( ルカ 19:26、口語訳)》ということなのかな、と。

 このほか、ナッシュ均衡、パレート優位、ベルトラン寡占市場、クルーノー寡占市場、ブライステーカーなどの経済学用語が平易に説明されています。

 ナッシュ均衡とは、自分が行動を変えると損をする膠着状態のことで、必ずしも双方にとっていいとは限りませんが、逆に双方にとって一番いいナッシュ均衡状態のことをパレート優位と定義する、と。これもイタリアの社会学者ヴィルフレド・パレートによって提唱されたもので、誰の効用も犠牲にすることなく、少なくとも一人の効用を高めることのできる変化を「パレート改善」と呼ぶ、と。

 ミクロ経済学とゲーム理論はつながっているな、と改めて感じました。

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