『新しい地政学』北岡伸一、細谷雄一ほか
『新しい地政学』
Audibleで聴きましたので、印象に残ったところだけを紹介します。
ウクライナ侵攻前に編まれた本書ですが、なぜプーチンはあんなことをしたのか、と思いつつ〈第6章 プーチンのグランド・ストラテジーと「狭間の政治学」 ロシアと地政学(廣瀬陽子)〉を読みました。そこで紹介されているのが、ドゥーギンの『地政学の基礎』。ドゥーギンは昨年秋、TVコンテーターの娘が自動車爆弾テロで殺されましたが、本人はダブリンからウラジオストクまで広がるユーラシア帝国のビジョンを提唱していました。その内容は噴飯ものなのですが、それにプーチンが影響を受けていたとしたら本当に心配になってきます。
例えば、日本の反米主義者を支援してベルリン-モスクワ-東京枢軸をつくるとか。なんか、戦前の日本人が米国の民主主義は兵士を軟弱にするとか信じていたみたいなことを思い出してしまうほど。しかも、この構想自体もハウスホーファーあたりの受け売りなんじゃないか、とか。ま、昔の日本も万世一系とか神風とか信じていたんで、そう笑ってばかりはおられないのですがw
〈終章 中曽根康弘の地政学 1950年の世界一周旅行(北岡 伸一)〉も面白かった。旧内務官僚で戦後に政治家となった世代は、中曽根よりも10歳ほど年上の奥野誠亮は上司が公職追放されていたため、米軍との交渉の矢面に立たされて米軍に対して反発するナショナリストになり、2.26事件で警視庁を襲撃された後藤田正晴は旧軍復活を絶対に許さず、一番若かった中曽根はバランスよく日本の罪を認めつつ、現実的には米国に追随する道を選んだ、みたいな。
いま話題のスーダンですが、イスラム教を信仰するアラブ系住民が多い北部(現在のスーダン)と、キリスト教などを信仰するアフリカ系住民が多い南部(現在の南スーダン)に分断されていて、北部は広義の中東に分類する研究者もいるというのは〈第7章 「アフリカの角」と地政学(遠藤 貢)〉で知りました。
[目次]
序 章 古い地政学と新しい地政学(北岡伸一)
<第Ⅰ部 理論的に考える>
第1章 新しい地政学の時代へ 冷戦後における国際秩序の転換(細谷雄一)
第2章 武器としての経済力とその限界 経済と地政学(田所昌幸)
第3章 国際紛争の全体図と性格 紛争解決と地政学(篠田英朗)
<第Ⅱ部 規範・制度で考える>
第4章 人権の普遍性とその濫用の危険性 人権概念の発展と地政学(熊谷奈緒子)
第5章 国際協力という可能性 グローバル・ガバナンスと地政学(詫摩佳代)
<第Ⅲ部 地域で考える>
第6章 プーチンのグランド・ストラテジーと「狭間の政治学」 ロシアと地政学(廣瀬陽子)
第7章 「アフリカの角」と地政学(遠藤 貢)
第8章 「非国家主体」の台頭と「地域大国」 中東と地政学(池内 恵)
終 章 中曽根康弘の地政学 1950年の世界一周旅行(北岡 伸一)
あとがき
新しい地政学における国際秩序を考える研究会
編者・執筆者紹介と執筆担当章
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