『戒厳令下のチンチロリン』藤代三郎
『戒厳令下のチンチロリン』藤代三郎
目黒考二さんは群一郎、北上次郎など数字シリーズのペンネームを使っていました。競馬とかギャンブルのジャンルで使っていたのが藤代三郎で、椎名誠さんを売り出した情報センター出版局の星山さんがセンチュリープレスの一冊として出した第1作『戒厳令下のチンチロリン』は本当に好きな本でした。
中小出版社に働く仲間たちとの麻雀、競馬、チンチロリンなどのギャンブル生活を描き、そのハイライトは79年の東京サミット開催中に社内でチンチロリンを開帳するという内容。
中でも田舎の素封家の息子でありながら、大学卒業後も実家に帰らず、酒とギャンブルに明け暮れポックリ病で死んでしまった「内田くんのピッカピカ靴物語」は、ある時代の編集者というかマイナー出版社の働く人たちのやるせない気持ちをサラリと描いた傑作だと思っています。
そのな内田君を描いた目黒考二さんは働き盛りの20年間、週に1日しか家に帰らない暮らしを続けたそうです。家には、妻と幼い二人の子供がいるのに。椎名誠さんと起こした本の雑誌社に出勤し、金曜日までずっと会社に泊まり込んで仕事をしたり本を読んだり。土日は競馬場に直行するという暮らしをしてきたんですが、なぜか離婚もされず、お子さん2人もマトモな社会人生活を送っていると風の便りにきく、人生の達人のような生き方をしていた方でした。
実はちょっと思い込みの強い書評はあまり得意ではありませんでしたが、椎名誠さんとその仲間たちには欠かせない存在でした。
何回か新宿の池林坊で見かけたんですが、話しかけるには至りませんでした。こんなことだったら、どんな声をしていたのかぐらい知っておけば良かったかな、とは思いますが、そうしたことはやらないんで。ま、寂しい限りです。
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