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September 17, 2022

『裏横浜 グレーな世界とその痕跡』

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『裏横浜 グレーな世界とその痕跡』八木澤高明、ちくま新書

 個人的には横浜に住むようになったのは90年代前半からで、それまでの横浜というのは中華街ぐらいしかイメージがありませんでした。住んでいた渋谷からは東横線で一本ではありましたが、わざわざ遊びに行く必然性は感じなかったというか。あとは横浜市制100周年・横浜港開港130周年を記念して1989年に開催された横浜博覧会に出典する企業のブースを担当してみなとみらい21地区(当時はMM21という言い方をよくされていました)に通ったことがあったぐらい。

 その時以降、荒廃していた赤煉瓦倉庫がオシャレなスポットとして蘇っていったように思うんですが、それでも再開発が始まっても10年以上はまだまだ港町的な猥雑さというか、荒んだ感じが色濃く残っていたように感じます。

 ということで、横浜のディープなスポットをアンダーグラウンド方向の取材を得意としている八木澤高明さんが紹介してくれたこの本は、一度ぐらい住んでる街の成り立ちを知りたいな、と思っていたので、ハウツー本みたいな感じで読ませてもらいました。

 一章から四章までは山下公園、みなとみらい、中華街、黄金町、寿町と関内周辺を扱っています。

 よく、横浜の地名は黄金町や寿町など縁起の良い名前ほど危険な雰囲気が漂っていると言われていて、横浜を舞台にしたテレビや映画でもほとんど触れられることのなったことのなかった土地です。ということで印象的だったのはやはり山谷、西成と並ぶ三大ドヤ街の寿町を扱った第五章でしょうか。

 横浜には孫文やフィリピン革命の闘士などが身を隠していたそうですが、元連赤の植垣さんは一時寿町に身を隠していたということで、一緒に訪ね歩いているうちに、警察に包囲された時も支援者たちによって逃げ切ったなんていうエピソードも披露しています(p.165)。連赤といっても植垣さんは毛沢東主義の京浜安保共闘の方ではなかったので、妙義山をベースするのではなく、ドヤ街を拠点にしたかったとも語っていて、逮捕された時にもバッグには背広を入れていたと語っています(p.167)。

 とにかく横浜は三業地(芸妓屋、待合、料理店からなる三業組合)が組織されていた区域であるとともに、産業地でもあり、必然的に海外からの輸出入物資を取り扱う入津貨物駅でもあったところ。開港以来、多くの外国人を受けいれ、かつ多くの移民を送り出し、それから一周回って帰国二世、三世の受けいれ地にもなった場所。リュウ・アーチャーのように「入って出ていく」人々の物語を受けいれる街なのかな、と。

 せっかく横浜スタジアムに残る「岩亀楼」の石灯籠にふれているんだから、『ふるあめりかに袖はぬらさじ』にも言及して欲しかったな、とは思いましたが、目次が素晴らしいというか、これだけで雰囲気が掴めますんで、ぜひ。

【目次】
第一章 横浜スタジアムの足元
ダフ屋がいた風景
大洋の二軍選手がいた店
捕鯨の歴史
「クジラ一頭、余分に獲れれば野球選手の給料は賄える」
ホームを横浜へ移転する
横浜スタジアムのルーツはクリケット場
横浜公園に残る遊廓の跡
岩亀楼に行き交う人々
戦争による都市変化
ベーブ・ルースに対する苦い記憶

第二章 海上の楼閣 山下公園、みなとみらい

昭和の臭いがする港
洗浄された赤レンガ
埋め立てられた海上の楼閣
倉庫に保管された生糸の産地へ
廃娼令と女性労働者の確保
名もなき娘たちが通った道
生糸がもたらすもの
外国からの要求で作られた屠畜場
肉屋をはじめた理由
伊勢商人が横浜へ

第三章 消えた大陸の空気 中華街

はじまりは外国人居留地
大陸の匂いと生活感にあふれる街
インドと横浜のつながり
淫靡な空気が残るバンコクの中華街
革命家の隠れ家
売春と麻薬の巣窟
地球の裏側の華僑
貨物船で密航してきた中国人に出会う

第四章 日の当たらない人の居場所 黄金町

得体の知れない匂いを発している町
黄金町に部屋を借りる
劇場がしがみつく杭
「劇場に命を救ってもらったようなもの」
劇場主の破天荒な来歴
突如劇場の幕は閉じた

第五章 デラシネのゆりかご 寿町

日本三大ドヤ街のひとつ
タイ人娼婦の住むマンション
タイ国王の写真が飾られている部屋
横浜に流れてくる麻薬の源流
埋め立てが完成し問屋街へ
足を踏み入れられない船の宿
ある手配師の話
元連合赤軍兵士と寿町を歩く
今日のフロント企業の走り

第六章 世界との架け橋 鶴見

一九八〇年代のアントニオ猪木
鶴見にある猪木の生家
丘の上の屋敷からブラジルへ
出稼ぎに来たものが集う街
奴隷が生んだ食べ物
日系ブラジル人の男娼との出会い
京浜工業地帯が生み出したもの
劣悪な環境の移民宿
懐かしい大桟橋
海路は閉ざされる

第七章 高低が織りなす風景 山手、元町、その周縁

偶然迷い込んだ米軍住宅
日本へ戻ったことの安堵感と屈辱感
崖の上と崖の下の圧倒的な格差
屋根なし市場で生まれた昭和の名歌手
地獄から抜け出したその先には
開港以前で横浜に暮らしていた人々
外国人を魅了したチャブ屋
谷崎潤一郎が足しげく通った店
外国人が眠る場所
歪められる悲しい歴史

第八章 夜の街に吸い寄せられる 伊勢佐木町

グローブの記憶
遊郭・芝居小屋・映画館
時代は変わっても色街はある
曙町で働いていた風俗嬢の思い出
友達に誘われて働くことに
奨学金返済のために風俗で働く
耳の聞こえない娼婦
あとがき
参考文献

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