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September 24, 2022

『歴史像を伝える 「歴史叙述」と「歴史実践」』

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『歴史像を伝える 「歴史叙述」と「歴史実践」 シリーズ歴史総合を学ぶ2』成田龍一、岩波新書

高校で必修となった歴史総合のインパクトは大きいなということで、岩波新書の歴史総合を学ぶシリーズを読んでいるんですが、はじめに「歴史叙述」と「歴史実践」や序章のジェンダー史から/で学ぶ「歴史実践」あたりがどうもかったるくて、「むすびにかえて」あたりから逆に読んで、なんとか読了しました。
 
 歴史総合というのは世界システム論が定説化されて、高校でも近現代史はナショナルヒストリーではなく「世界システム」として学ばせようとなってきたんだろうな、というのが大まかな認識なんですが、それと同時に、歴史研究者は専門とする時代や地域の歴史像を提供していればよかったが、問いと対話が求められるようになった、ということで、学ばせ方も変えようという二つの試みが同時に企図されているんだな、と感じます。

とはいっても、「歴史叙述」はともかく「歴史実践」あたりは観念的な話しが多く退屈でした。むしろ、この際、小田中直樹先生が『歴史学のトリセツ』で分かりやすく史学史を解説してくれたように、歴史学を学問たらしめている要素とその限界みたいな話しの方が圧倒的に有益なんじゃないかな、と。

シリーズ一作目は面白かったんだけど、3作目も出そうなので、とりあえず、面白かったところだけを箇条書きでまとめてみます。

[第一章 明治維新の「歴史像」]

明治維新の地租改正では、種子代などの必要経費のなかに、農民の労賃は計上されておらず、それは農民のただ働きの上に算定された地価だった。そのため、税の負担が農民に重くのしかかった(p.66)

維新期の民衆は「客分」であったために征韓論などにも与しなかったが、民衆が自らも文明国日本の一員としての意識を持つようになると、朝鮮・中国への優越意識を持つようになる(p.77)

本土に留学した太田朝敷や謝花昇らは、琉球王国の復活ではなく、「日本人」としての平等や自由を求め、沖縄が蛮族を皇化させる帝国枢要の土地になったという自負を持つようになった(p.84)

[第二章 「近代化」の歴史像]

近代化の入口においては各国に福沢諭吉のような啓蒙思想家を生み、梁啓超もそうしたひとりと考えられる(p.136)

これまでの日本史研究では、自由民権運動を明治政府への反対運動と見る点に軸足を置くあまり、下からの国家形成という問題意識がなかった(p.147)

最初の徴兵令では一家の跡継ぎ、官吏や代人料(270円)を納めれば免除されるなど、当初の免役者は徴兵該当者の96%にのぼった(p.167)

クラウゼウィッツの『戦争論』を翻訳していた森鴎外の日露戦争従軍詩歌集『うた日記』では、戦闘のあり方の変化にも着目している(p.175)

[第三章 「大衆化」の歴史像]

近代化の過程で啓蒙された人々は20世紀に入ると民衆→大衆→群衆として行動するようになる。今村仁司は彼らが「ひとつの決定的な社会勢力」「社会と歴史の原動力」として登場したことが近代社会の特徴としている(p.191-)

身の上相談は歴史社会学の大きなテーマらしいのですが、昔は新聞記者が回答していた(p.212-)

雑誌広告をみると家庭は家父長が統制する・統御する知的な空間として描かれているが、ラジオの登場によって、ラジオそのものが家族の磁場となっている(p.220)

佐藤卓哉『輿論と世論』によると、近代化の中で国民輿論が形成されたが、総動員体制=大衆参加が進むことで、大衆世論がせり出してきた、と。《ファシズムもまた民主政治=政治参加の一形態であり、大正デモクラシーにおける世論形成への大衆参加に連続していた》と(p.221-)

この本で一番面白かったのは小津安二郎のサイレント映画の作風の変化からみるモダニズムの変化の解説です。サイレント映画で「近代的都市空間」をよく舞台にしていた小津は、市民生活の中で女性の役割の転換を見事に描いたが、吉野作造や堺利彦の死、マルクス主義者の転向、国際連盟からの脱退などを受け、その後は反モダンなナショナリズムが勃興するのを反映したような作品を残す(p.224-)

吉野作造や社会主義者のなかでも柔軟な思考をみせていた堺利彦の死は《リベラル-自由主義の屋台骨、そしてそれを社会主義へと媒介する存在がなくなり》、世相は不安定さを増し、三原山での心中の流行や東京音頭のときならぬ乱舞などがおこる、と。すると小津の作風も反モダニズム・ナショナリズムの勃興の影響を受けて変化する(p.238-)

大衆化は男性普選と治安維持法の同時成立という形で進展します(p.243)

[第四章 「グローバル化」の歴史像]

1955-75の高度成長は「家族の戦後体制」とも名づけられる(p.266)。

日本のきょうだいの多さは外国人労働者に頼ることなく経済成長を実現した(p.269)。

サザエさんの長谷川町子は自身だけでなく母も矢内原忠雄に傾倒し、宗教性を除いたプロテスタンティズム的生活倫理がみられ、それが朝日に長らく掲載されたことは、高度成長にすんなり順応できない大衆の心性を表す、と。マスオさんの同居は嫁姑問題を抜きに家族を描く工夫(p.270-)

リッツァの「マクドナルド化」=マクドナルドの作法に従う購買-飲食は学校、病院などの社会領域に及び、公共空間を支配している。これは政治性を排除して合理化を進められるヴェーバーの「鉄の檻」と似ており、日本においても画一的で没個性的な社会が形成されていく、と(p.287)。

目次
はじめに 三つの「手」
「歴史像」の伝達/「私たち」と「私」
■Ⅰ 「歴史叙述」と「歴史実践」
序章 歴史像を伝える
1 歴史の学び方
2 ジェンダー史から/で学ぶ
3 ジェンダー史の「歴史実践」
第一章 明治維新の「歴史像」
1 明治維新の「歴史叙述」
2 明治維新の「歴史実践」
■Ⅱ 「歴史総合」の歴史像を伝える
第二章 「近代化」の歴史像
福沢諭吉の三つの顔/男性啓蒙家たちの女性論/「女工たち」への視線/国民国家と帝国主義/森鴎外の戦争経験
第三章 「大衆化」の歴史像
新しい青年と,「民衆」=「大衆」の登場/イプセン『人形の家』をめぐって/「身の上相談」のジェンダー/「大衆社会」とメディア/『キング』とラジオ/小津安二郎とハリウッド/男性普選の実現と婦選の主張/市川房枝の「デモクラシー」と「総力戦」
第四章 「グローバル化」の歴史像
R「グローバル化」とは/「高度経済成長」のなかの女性/マクドナルド化する社会/村上春樹,および『ねじまき鳥クロニクル』
むすびにかえて 「戦後歴史教育」の軌跡のなかで
あとがき
「歴史総合」に役立つブックリスト

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