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August 21, 2022

『陸・海・空軍人によるウクライナ侵攻分析』

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『陸・海・空軍人によるウクライナ侵攻分析日本の未来のために必要なこと』小川清史、伊藤俊幸、小野田治、桜林美佐

Youtubeで配信されている「陸・海・空 軍人によるウクライナ侵攻分析」の1-5回をまとめて加筆したもの。

改めて読んでみると、軍事は政治の延長というクラウゼビッツの視点の重要性というのは今でも変わっていないんだろうなということと、ウェストファリア条約以降、それまでの殺し合いの戦争から、文明の利器としての軍隊にするため、さまざまな国際法もつくってきた上での戦争なんだ、というベースを認識させられました。

ロシアのやっていることは非道ですが、それでも国連の「加盟国が攻撃を受けた際の個別的・集団的自衛権を定めた憲章51条」を元にした侵攻だと主張しているわけですし。

それを前提に考えると、ロシア軍が開戦劈頭で虎の子の空挺部隊を失ったり、無駄なリソースをキエフ方面に使って損耗したり、その後も南部でCulmination point(攻撃の限界点)を超えて攻撃して無駄な戦闘を行っていることは、戦略的にもおかしいし、それが本来のエンドステート(具体的に成し遂げるべき目標・結果・状態)も混乱させているんじゃないか、と感じます。

この手のチャンネルって右翼っぽくてキモいので近付いたこともなかったのですが、自衛隊のプロを集めたこのシリーズは本当に面白かったし初めてYoutubeって勉強になると思いました。

湾岸戦争時にTVで解説していた江畑謙介さんなどに関して、司馬遼太郎が《湾岸戦争で、軍事評論家たちがテレビに出ている。民間に軍事評論家をもっているということは、自由な社会でいることのあざやかな証拠といえる。テレビをみながら、ふと、(こんな分析家たちが昭和一けたに五、六人もいたら、昭和は変わっていたろう)と妄想した。むろん、たわごとにすぎず、昭和一けたの時代にそんな自由はなかった。せめて大正デモクラシー時代にこういうひとびとが出て、前時代の日露戦争を徹底的に解剖してくれていたら、とも思ったりもする。以後の日本人の理性-国家を等身大でみる能力-が大きく成長したに相違ない》(風塵抄、中央公論社)と語っていましたが、あれから30年が経過して、評論家ではなく、自衛隊の元将軍たちによる解説が聞けるようになったんだな、という時の流れも感じました。

[ユスアドベルムとユスインベロ]

まず学んだのは、伊藤海将が解説してくれた「ユスアドベルム」と「ユスインベロ」。近代国際法のjus ad bellum(武力行使を開始する権利)とjus in bello(戦争の方法手段)の考え方の進展も含めて詳しく語られているのが[第2章]。

《第二次世界大戦までは「自衛権」の名の下に戦争が起きていたので、戦後は、第三次世界大戦を起こさないよう、その武力行使が「自衛権」ではなく「国連の目的」と合致することが求められるようになりました。したがって、国連憲章2条4項には、国の領土保全・政治的独立に対する武力行使と国連の目的と両立しない武力行使の2点が「違法」であるとはっきり明示されているわけです。今回のウクライナ侵攻では、ロシアはこれに明確に違反しています》(p.96)が、逆に《「合法な武力行使」は何かといえば、①国連憲章7章(国連安保理理事会の決定による武力行使)、②51条(自衛権の行使)、③自国民保護、④人道的干渉》(p.99)である、と。

ロシアの軍人でも高級幹部はその重要性を認識しているが《2014年のクリミア侵攻と同じように特殊部隊やサイバー部隊がまず計画案を出す。「その計画が失敗してダメだったらどうするんだ。ウクライナ東部への攻撃だけでいいのか」とプーチン大統領に返されると「通常戦で首都に向かって空挺砲撃し、地上戦で囲みます」「それだけか?」「核の脅しも入れます」という流れになる。そこまでが計画だと私は思います。 そして、その上で部下がプーチン大統領に対して「でも、本当にやるんですか? この計画は即断即決をしなければ相手国の意思を変えることなどできないと思います。大統領、ここはステージを上げるために大統領が決心してください」というくらいのやり取りは、あるんだろうと思います。つまり、部下は、最終的な判断をすべて独裁者が決心するようにもっていく。これがハイブリッド戦や超限戦において国家の指導者に情報が集まってくるメカニズムであり、それを組織的に作り上げているのだと思います。ハイブリッド戦、超限戦を展開する国の、迅速に意思決定できる指導体制にある国の怖さです》(p.105)だったんだろう、と。

ウクライナの作戦では開戦時のキエフ侵攻は東部方面軍によって行われたのですが、航空優勢を重視しないやり方や、そもそも、本来の目的であるガンスク、ドネツク、クリミア半島、を確保するためには不必要な作戦であり、そこで兵力を失って、再編成して東部と南部で攻勢をかけたけど、NATOの支援などによって、徐々に追い込まれた結果を招いているんじゃないのかな、と。

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この図でいう①のキエフ方面を目指した作戦や②は認知領域での戦いでウクライナの戦意を喪失させることが目的だったけど、それは今考えると無理筋だったんだろうな、と。

さらには東部と南部の戦いだけなら「自衛権の行使」や「自国民保護」という形で国際法上は合法とされる戦いになりますが、キエフ方面の作戦はユスアドベルム(武力行使の合法性を判断する国際法)上の「違法な戦争」になるので、伊藤海将などは「プーチンはおかしくなったんじゃないの?」とまで語っています(p.43)。

また、小川陸将も《そもそも空挺部隊は、戦争の最終局面で戦略的な決着をつけるために投入します。通常であれば降着後に地上軍と連動(リンクアップ)できるタイミングを見計らって空挺部隊は戦略的に兵士を降ろさなければなりません。兵站能力や火力は限定されているので、味方による対空援護がない状況で単独で降りれば、降着後に簡単に潰されてしまいます。 それにもかかわらず、今回の侵攻でロシア軍はその空挺部隊をあたかも〝特殊部隊〟のように単独で投入して、「ゼレンスキーや住民の意識を変えさせる」「NATOに加入させない」といった〝認知領域の戦い〟を挑んでしまった。しかも、緒戦で投入し、ウクライナ軍が組織的に守りを固めている場所付近に先遣の空挺部隊を降ろしたため、待ち構えていたウクライナ軍によって早々に撃破されています》という評価なわけで、ロシアは最初から相当、間違ったのかな、と(p.214)。

[クラウゼヴィッツの重要性]

戦争は政治の延長線上にあるというクラウゼヴィッツの考え方を米軍が学んだのは1965年からだったというのは驚きでした。

《陸軍に関して言うと、南北戦争(1861~1865年)時代までの米陸軍は、ジョミニ(アントワーヌ=アンリ・ジョミニ:スイス出身の軍人、軍事学者。フランス第一帝政、のちにロシア帝国に仕えナポレオン戦争に参加。1838年の著書『戦争概論』で知られる)の本をみんなこぞってポケットに入れて、ジョミニを参考にして戦っていました。ベトナム戦争が終わった頃からは、クラウゼヴィッツを学ぼうとする米陸軍の姿勢が鮮明となりその教えの影響が大きくなっていきました。 ジョミニの本はどちらかと言えば「HowtoWin」、すごくざっくり表現すると戦争のノウハウ本に近いものです》(p.241-)でしたが、”CLAUSEWITZINENGLISH”1994 by OxfordUniversityPressIncによると、クラウゼヴィッツが『戦争論』の研究者であるピーター・パレットによって英語に翻訳されたのは南北戦争後の1870年代以降で、そかも受容というか米国で広く行き渡り始めたのが1965年という遅さだったため《アメリカには伝統的にも消耗戦に向かってしまう、勝ちに行ってしまう、という〝癖〟のようなものがどこか残っているような気がします》という小川陸将の指摘は面白いな、と(p.242)。

ただし《小川(陸):大東亜戦争(1941~1945年)を例にあげると、アメリカの主な戦争目的は「中国の市場を獲得したい」「フィリピンの植民地を保持したい」それから、「ヨーロッパ正面をドイツの好きにさせない」という3つほどでしょう。 それを評価すると、フランスがドイツに完敗したヨーロッパ正面については、せいぜい引き分け程度。残り2つの目的は達成できていません。つまり、アメリカの目標達成は1分け2敗です。戦争に勝ちにいった結果でそうなってしまった。 一方で日本が目的としたのは、「ロシアの南下を止めたい」、これは江戸時代から変わりません。次に「植民地を解放したい」と「自由貿易体制の確立(ポツダム宣言にも記述あり)」、これは資源がない日本にとっての活路です。そして「民族間の差別撤廃(ヴェルサイユ条約に記述を主張するも却下)」の大きく4つだったのでしょう。 実はこれらの目標は大東亜戦争以降にほぼ達成しているんです、結果的に。つまり、日本の目的達成としては4勝0敗です》《戦争に負けて、失ったものも当然多くありましたが、戦争時に考えていた目標(「大東亜を英米から解放、人種差別を撤廃」などを盛り込んだ『大東亜共同宣言』を大東亜の諸国家会議[1943年11月]で共同発表。一方、英米は二国のみで大西洋憲章を発表)は、実は戦後に偶然のように達成されているのです》(p.242-)というあたりは牽強付会な議論だとは感じましたが。

このほか《エスカレーションの弾をロシアはいっぱい用意して、それを平気で使うというのがプーチン大統領のやり方です。その点、西側は受け身に立っています》(p.93)とか《中国が武力で台湾を攻めたとすれば台湾は堂々と独立宣言できるでしょうから、そうなれば今度は対台湾のレンドリース法が成立するかもしれない。そういう視点で見れば、今回のアメリカによるウクライナ支援は中国にとっては非常な脅威だと思います》(p.172)あたりも面白かったです。

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