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August 08, 2022

『アドレナリン ズラタン・イブラヒモビッチ自伝』

Zulatan

『アドレナリン ズラタン・イブラヒモビッチ自伝 40歳の俺が語る、もう一つの物語』ズラタン・イブラヒモビッチ、ルイジ・ガルランド(著)、沖山ナオミ(訳)

2000年代ヨーロッパサッカーの歴史を選手や監督といった現場レベルの話しだけでなく経営者たちの姿も俯瞰できる内容。

ズラタンは地元クラブを出てからはオランダ、フランス、イタリア、イングランド、スペイン、米国でプレーして、5度の得点王となっているのですが、怪我による治療もあって移籍した米国を除けばいずれもメガクラブ。さらにユヴェントス~インテル~ミランというライバルチーム間の禁断の移籍を繰り返します。

こうした派手な移籍を繰り返すことが出来たのは、彼がスウェーデンというサッカー大国ではない国の移民二世という出自だからでしょうか。もちろん代理人の腕もあると思いますし、自分でも「高く売られるのが好き」だからと公言しているからなのかもしれませんが、ヨーロッパのメガクラブを渡り歩き、アメリカのMLSから再びミランに戻るというキャリアは誰も成し遂げてはいないと思います。

そういった意味では、自伝という形式はとっているものの、移民二世のムスリムが貧しい環境から這い上がって、世界のメガクラブを渡り歩き、それでも自分を見失わずに成長する姿を語った、新時代のBildungsroman(自己形成、教養小説)という感じもします。

ただし、古い教養主義的な自己形成小説とは違い、ズラタンは内面での成長をあまり語らず、自分は自分であることをどこまでもド派手に貫き通しているところが新しい感じ。

インテルの下部組織を描いた映画『サンシーロの影』では、チームのマネジャーがかつて所属していたズラタンに関して「彼には欠けているところがあったが、それが彼をスーパーな選手にした」と若手有望株に語るシーンが印象的でした。この『アドレナリン』を読むと、その欠けているものは、多分「自意識」なのかな、と感じます。

彼は自分のことをズラタン、イブラと呼んでるし、サッカーゲームをプレイする時にも自分のキャラクターを使うらしいのですが、それはあまり自分を客観視することをせず、あえて第三者の目で自分を見ないようにしているからなのかな、とか。

極貧地区で育ったズラタンは、笑われるのがイヤだからという理由でチームメイトからシャツその他を盗んだり、あるいは自転車も盗んで乗っていたんですが、もちろん子どもの頃のこととはいえ、自他の区別もあまりついていなかったのかな、とか。

もちろん、前の自伝『I AM ZLATAN』からの10年間という時間は、サッカーでもドリブルよりはパスを多用するようになるとともに、チームリーダーとしての自覚も語るようになります。PSGの状況に関して、たくさんのスター選手はいるが、犠牲的精神に欠けていると批判するところなどは驚きました。

また、マンチェスターユナイテッドに関して、遠征先のホテルのミニバーのフルーツジュース代1ポンドが給与から差し引かれているあたりを赤裸々に書いているあたりは初めて読む内容なので驚きました。最近の低迷は、こうしたクラブのセコさがあるのかな、とか(p.173)。

翻訳が乗りに乗ってるというか《もし、ドリブルが自由への逃避なら、パスは自分と仲間をつなぐものだ。山を登るときのザイルのようなものだ。ドリブルは孤立を与えてくれるが、パスは友情を生み出す》あたりは見事(p.297-)。

ヨーロッパのサッカーシーンが好きな方の夏の読書にぜひ。

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