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July 25, 2022

『ヒト 異端のサルの1億年』島泰三

Hito-shima

『ヒト 異端のサルの1億年』島泰三、中公新書

島泰三さんの本のファンなんですが、16年に出ていたこの本は見落としていました。

ご存じない方にひとことで紹介すると、島さんは在野の研究者ということになるでしょうか。東大闘争で「本郷学生隊長」として安田講堂に立てこもり、懲役二年の判決を受け、改めて京大で理学博士号を取得したのですが、アカデミックな職は得られず、自然環境研究センターなどを拠点に霊長類の研究で著書多数という感じ。

『ヒト 異端のサルの1億年』はこれまでの著作、研究の集大成。

マダガスカルには原猿類が多く残っているのは、実は猿はここで生まれ、レムリア大陸としてくっついていたインドがマダガスタルから離れた後にユーラシア大陸と繋がり、そこから広がったからだ、というのが「第1章 起原はレムリア」。ゴンドワナ大陸から分かれたマダガスタルは以降、孤島として原猿類を残した、と書かれたのは『どくとるアイアイと謎の島マダガスカル』(八月書館)でしたが、霊長類の時代は地球規模で気温が下がり続け、インドによるヒマラヤ造山運動はその一因にもなっている、と。

島泰三さんは食性から霊長類の進化を読み解こうという姿勢が顕著なのですが「第2章 歌うオランウータン」では、今の熱帯のボルネオでも栄養価の高い果実が不足する時期があるため、オラウータンは体脂肪を大量に蓄積する必要があるために大型化し、さらに殻を割るほど歯のエナメル質を高めた、としています。

「第3章 笑うゴリラ」では、ヒマラヤ造山活動による地球寒冷化で乾燥に強い大型の類人猿としてゴリラが生まれた、としていますが、そのゴリラにしても個体数はO型の血液型を欠くほどに減少したことがあった、と。

こうした乾燥化の中でチンパンジーは群れのサイズを大きくしてグループ間の闘争能力を高めつつ分散菜食することを選び、大型のアルディピテクスは椰子の木を根城に生き抜こうとしたが失敗したというのが「第4章 類人猿第三世代のチンパンジーとアルディピテクス」。

その後、420年前から50万年間の鮮新生温暖期にはアウストラロピテクスが生まれます。栄養価の高い捕食者の食べ残しの「骨」がある場所をハゲワシの動きで知り、石器でたたき割り、髄液や骨そのものも食べるというのが「第5章 類人猿第四世代、鮮新世のアウストラロピテクス」。『親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起原に迫る』(中公新書)で人類の起源は「骨食」にありという非常にラジカルな自説を展開した説をさらに発展されています。

「第6章 ホモ・エレクトゥスとハンドアックスの謎」は個人的に一番面白かった章。10センチ以上の三角形のハンドアックスが世界中で無傷のまま発見されているそうですが、それはライオンなど大型獣に対して、集団でハンドアックスを振りかざして威嚇しながら迫り、より確実に食べ残しの骨などを確保したからではないか、と。

「第7章 格闘者ネアンデルタール」では、パプアの人々はネアンデルタール人(2.5%)のほかに、デニソワ人のゲノムも4.5%持っているそうです。パプアの人々の他の人種とは明らかに違う体格はこのためだったのか…と初めて納得しました。

「第8章 ホモ・サピエンスの起原」は木楽舎『はだかの起原 不適者は生きのびる』で展開した、体毛を失うという突然変異によって、それまでの類人猿が敬遠していた水辺に生息域を移したことで新たに膨大な食物のニッチをホモ・サピエンスを得た、としています。

そして魚介を主食としたホモ・サピエンスが夢にまで見た楽園が日本列島だったのではないか、というのが「第9章 最後の漁撈採集民、日本人」。この楽園のような列島への流入は続き、野尻湖周辺には3万3000年前から1万4000年前まで7つの石器文化が確認できるとか。また、『ヒト、犬に会う 言葉と論理の始原へ』(講談社選書メチエ)では、ヒトが犬を飼うことで、熟睡をヒトにもたらし、芸術活動も盛んになるなど、脳を発展させたとしています。

江戸時代の漂着民は届出があっただけで1万人近く記録されてますが、1万年続いた縄文時代には、大量の侵略者を心配することなく、漂流者を受け入れる戦争のない時代を列島に実現させたのではないか、と。

また、日本人は脳の活動に必要なEPA、DHA、AAを魚介から取り続けることで、ヨーロッパ人男性の1400ccという脳容量を上まわる1500ccの脳容量を維持している、と。

『孫の力 誰もしたことのない観察の記録』でも指摘していた「ほほえみの力」が戦前の日本の漁撈民には残っていたというのが「終章 ほほえみの力」。

厳密な学問的研究という面からは色々、指摘もあるのでしょうが、ぼくのような門外漢にとっては人類、日本人の起源についての新たな知見をたくさんいただけた読書でした。

[目次]

第1章 起原はレムリア マダガスカル・アンジアマンギラーナの森から

第2章 歌うオランウータン ボルネオとスマトラの密林にて

第3章 笑うゴリラ ヴィルンガ火山の高原より

第4章 類人猿第三世代のチンパンジーとアルディピテクス タンガニーカ湖畔の森から

第5章 類人猿第四世代、鮮新世のアウストラロピテクス ツァボ国立公園にて

第6章 ホモ・エレクトゥスとハンドアックスの謎 マサイマラから

第7章 格闘者ネアンデルタール

第8章 ホモ・サピエンスの起原 ナイヴァシャ湖にて

第9章 最後の漁撈採集民、日本人 宇和海の岸辺にて

終章 ほほえみの力

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