『アメリカ政治』久保文明ほか
『アメリカ政治』久保文明、砂田一郎、松岡泰、森脇俊雅、有斐閣アルマ
有斐閣アルマの『戦後アメリカ外交史』が面白かったので同じく大学の教科書になってる『アメリカ政治』も読んでみました。
はしがきの《「知っている」という思い込みや決め付けと裏腹に、じつはアメリカ政治のきわめて基本的な事実や特徴すら知らずに、あるいは誤読している人が非常に多い》というのは自分も含めて思ったので、そんなところを中心に。
権力の分立のため上院議員は当初、州議会が選出基盤だったが、1913年から直接選挙に(p.9)
北米大陸の入植者は自分たちの価値観に沿って新社会を建設しようとした点で移民や先住民搾取を目的としたスペイン、ポルトガルと異なっていた(p.16)
移民が多かった大都市の政党政治家は様々な手助けを行う代わりに投票を求めたが、当初は投票所の入口で受け取る投票用紙の色で投票先が分かったので、集票マシーンとなることができた(p.22)
《アメリカの福音主義(evangelicalism)は世界最大の社会運動の一つとすらいえる》(p.41)
州兵だったブッシュと大統領を争ったケリーはベトナム戦争の英雄としてアピールしたが、高速艇の退役軍人がTVコマーシャルでケリーの行動を非難、イメージを傷つけられて敗北(p.58)
その前のブッシュvsゴアでは高卒未満にゴア支持者が多かった(p.61)
予算案を握るのは下院(p.64)
現職議員には無料郵便制度など様々な特典があり2014年の下院再選率は96.4%(p.67)
大統領選挙のテレビ討論は女性有権者連盟など民間団体が主催(p.73)
初代財務長官のハミルトンはヨーロッパ列強に対抗するための強力な連邦政府を唱え『フェデラリスト』を発行(p.76)
ニューディールでは対立してきた北部労働者と南部農民、黒人が民主党支持で結集して「ニューディール連合」を形づくり、上院下院とも長く優勢だったが、これを打破しようと南部に攻勢をかけたのがニクソン(p.78)
大統領選の第三の候補では支持基盤が重なるペローが父ブッシュの、ネーダーがゴアの敗戦を招いた(p.80)
二大政党は入党に資格審査もなく離脱も自由(p.80)、党首もおらず、全国委員長は事務局長的な存在(p.81)
ロビイストの重要な仕事は政治家への働きかけではなく、情報収集や相談(p.87)
企業・団体からの献金は禁止されているが政治活動委員会(PAC)が抜け道となってる(p.89)
支持する候補者や政党から関係なければ献金額には制限を付けないという最高裁判決で、いまやスーパーPACが選挙戦に大きな影響力を持つようになった(p.91)
1960年代の運動は黒人による公民権運動と、高学歴のミドルクラス以上の改革運動からなっていた(p.97)
かつては業界団体と議会の委員会、予算執行の行政部門の担当部署が「鉄の三角関係」をつくっていたが、特定の争点に関する専門家と運動家による「争点ネットワーク」がメディアや議員と結びつき、強い影響力を持つようになっている(p.100-)
政府の上位3500人が入れ替わるアメリカの政権交代は革命に等しい(p.107)
ジャクソンからリンカーンまでの大統領は凡庸で儀礼的な役割しか果たさず、有力政治家は上院議員として活動した(p.123)
民主党の大統領はケネディ、ジョンソンとも首席補佐官は置かなかったが、共和党はアイゼンハワー以後も首席補佐官を置く運営方式をとった(p.128)
議会の議席数が接近し、副大統領が上院議長として決定的な一票を投じるようになったのはゴアから(p.129)
クリントンは頻繁に全国遊説を行い人々の生活上の問題を取り上げ「市長の総代のような大統領」と呼ばれた(p.135)
レーガン時代までは民主党内南部保守勢力共和党大統領に協力したが、1990年代には退潮し、それ以降の民主党はリベラル派とニュー・デモクラットが支配的となる(p.138)
居住地域が人種や所得によって異なってくるようになると、納税者とサービス受給者が乖離し、ミドルクラス以上の納税者の不満が減税による「小さな政府」を求める運動につながる(p.193)
民衆の平等主義を求めるポピュリズムは、経済的特権に対して向かうと左翼ポピュリズムになり、進歩的エリートに向かうと右翼ポピュリズムになる(p.207)
マクガバン指名を機に保守的な労働大衆や軍事タカ派のエリートがリベラル派と縁をたち、民主党から離れた(p.211)
政治的自由主義と資本主義からなる体制を正しいものだとするのは国民共通の信条(p.250)
黒人だけでなくユダヤ人も1964年の公民権法が成立するまで入学、就職で差別され、立ち入り禁止の場所もあったとか(p.265)
オバマは白人の母や祖父母に育てられたので価値観や生活習慣、言葉づかいは白人中産階級のもの(p.271)
独立戦争は民兵によって勝ったという誤った見方で、建国以来、常備軍は小さな規模だった(p.281)
ネオコンはウィルソン主義の末裔で、イラク戦で下手打ったけど、ウィルソン主義が浸透しているから注意(p.283)
アメリカの外交は大統領の安全保障担当補佐官や議会の影響力(条約批准には2/3が必要)が大きい(p.285)
第一次世界大戦でアメリカが200万人の大軍を送ったのはヨーロッパにとって衝撃だったが、第二次大戦時には1000万人となる(p.286)
中国を「戦略的パートナー」とした中国政策を厳しく批判したのは子ブッシュ(p.292)
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