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February 05, 2022

"Battlegrounds: The Fight to Defend the Free World" H. R. McMaster

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"Battlegrounds: The Fight to Defend the Free World" H. R. McMaster

ジムで筋トレ後の有酸素運動でエアロバイクをこぎながら、英語のサビ落としを目的にAudibleで聞いている本の13冊目(邦訳は『戦場としての世界』村井浩紀訳)。

著者であるマクマスターはトランプ政権の大統領補佐官でしたが、刊行当時期待されていたトランプ批判よりも、共和党の外交政策が首尾一貫していることを印象づけた内容になっています。とくにオバマ政権とは対照的に、中国によってもたらされる危険を認識したトランプ政権の功績を認めています。

しかし、米国の外交エリートたちには問題の本質を考えるための思考方法には批判的で、歴史的な時間軸と地理的な空間の拡がりのなかに問題を位置づけることが大切なのに、冷戦の勝利に酔い「戦略的ナルシシズムstrategic narcissism」に陥っている、としています。著者はドイツで冷戦の終わりを目の当たりにしたのですが、戦略的ナルシシズムという言葉はハンス・モーゲンソーに触発された言葉のようです。つまり、近年のアメリカの外交政策は敵対者の思考を共感的に探ることを怠り、自己愛的であった、みたいな。

そうした自己愛はイラク戦争での圧勝などがもたらしたものでしたが、戦車部隊を率いていたマクマスターによるとGPSは役に立たず、イラク軍は戦略的な要所を確保し苦戦を強いられた、としています。

もうひとつの中心テーマである「戦略的共感」は相手国の真意を見抜くことの重要性とでもいうべきものでしょうか。これによって歴代の米国政権が続けてきた「関与政策」に終止符を打ち、中国を競争相手としたわけですから。

米国は敵対者の動機を理解できなかったために、米国がその利益を確保するための行動を取れなくなっていた、と。だから、ロシアと中国の自由化、イラクとアフガニスタンでの勝利、イランとの和解は誤った希望だと。

全13章は6部に分かれていますが、これは米国が相手にしなければならないと考えているロシア、中国、南アジア、中東、イラン、北朝鮮を「戦場」として割当てたものです。歴史学の学位を持つ著者らしく、最初はそれぞれの脅威の歴史的診断を示し、次に競争のためにのフレームワークを明らかにし、課題を明確にした、という感じ(日本語の目次があったので最後に置いておきますので参照してください)。

マクマスターはトランプ政権で外交安全保障を担当しましたが、同僚たちと同様、中東諸国や中国を民主主義国家に変えられるとは思っていませんでした。また、中国の指導者が開放性を危険なものと見なしていることは、自由の戦略的価値を再評価させるものだ、という見方をとっています。

また、アメリカの指導者はライバルの「代理店」を軽視しているとして、イラン革命防衛隊のソレイマニの暗殺のように、先制攻撃が必要かもしれない場面では、罰が敵対国に対して働く唯一のものであるとも主張しています。

北朝鮮政策については、和解外交が平壌の政策に根本的な変化をもたらす可能性があるというのは誤った仮定だとしていトランプ政権を批判しています。

ともあれ、この本の中心は対中国政策です。

米国の国内総生産(GDP)は着実に成長しており、購買力平価からも中国よりも圧倒的に大きく、米軍の支出は中国の約3倍を維持しているものの、かつてのような圧倒的な差はなくなっている、と。

戦争は相手に自分の意志を強要するための暴力行為であるという言葉よりも、戦争の全容は不確実性に溢れているが、戦争は意思であるというクラウゼヴィッツの定義がしばしば引用されます。

その意思とはアフガニスタン、イラク、シリアで「持続可能な」長期戦争を戦し、世界的なテロ対策キャンペーンを継続、さらにイランと北朝鮮を抑止することは。また、米国の核兵器を増強し、ハイテク兵器とミサイル防衛能力を高め、北極圏、サイバースペース、新技術、教育、貿易に関してロシアと中国と競争し、米国経済を中国から切り離す、ことでしょうか。経済の切り離しは、中国政府の「軍民融合」の方針のため、中国企業とビジネスを行うことは中国共産党の利益になるから必要だ、と。

最後にサイバースペースでの競争には、公的部門と民間部門の間の協力が必要不可欠であることや、教育は安全保障の問題だということが強調されています。教育は市民志向の市民を生み出し、大学は民主主義と自由という未完の実験を促進させる、みたいな。それが、歴代政権を悩ませてきた外交政策の国内コンセンサスを得ることのできる、遠い道なのかもしれません。

【目次】

第1部 ロシア
第1章 恐れ、名誉、そして野望:プーチンの西側に対する追い落とし作戦
第2章 プーチンの策略をかわす

第2部 中国
第3章 統制への執着:中国共産党が突き付ける自由と安全に対する脅威
第4章 弱みを強みに変える

第3部 南アジア
第5章 1年限りの戦争が20回もの繰り返しに:アメリカが南アジアに抱く幻想
第6章 平和のための戦い

第4部 中東
第7章 いとも簡単だなんて誰の入れ知恵?:中東への見方、楽観からあきらめに
第8章 悪循環を断つ

第5部 イラン
第9章 悪しき取引:イランの40年に及ぶ代理戦争と成立しなかった和解
第10章 選択を迫る

第6部 北朝鮮
第11章 狂気の定義
第12章 それらがなければ、彼はより安全に

第7部 アリーナ
第13章 新たな競争の舞台へ

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