« 『頼朝と義時 武家政権の誕生』 | Main

December 31, 2021

今年の一冊は『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』伊藤俊一

Shouen-matome

今年も読書の中心は日本史の本でした。コジェーブは「人間の歴史を学びたいのであれば、日本の歴史を学べ」としていますが、日本史は大きな気候変動、異民族支配などの影響がほとんどなく展開されたので、人間社会の発展史としてみられるかな、と改めて感じます。

そんな中で、一冊を選ぶとしたら『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』伊藤俊一、中公新書でしょうか。世代的にマルクス主義の影響を受けていたので、戦後マルクス主義史学を遠くから供養してくれたというか、いわゆる下部組織から列島社会の変遷を古代から近世直前まで丁寧に描いてくれたのが嬉しかった。さらに、古い議論を掘り起こして整理するだけでなく、年輪酸素同位体比によって明らかになった降水量の変動が荘園の歴史と対応するあたりは唸りました。《13世紀後半には、日本の経済史を二分するとも云える出来事が起った。それは銅銭の大量輸入による本格的貨幣経済への移行だ》(p.181)というあたりも素晴らしかった。日本で宋銭が大量流通した要因のひとつが、モンゴルが紙幣を使わせるために江南地方で銅銭の使用を禁じたからだったというのも唸るというか、日本史は東アジア史の中で考えないとダメだな、と改めて思いました。最初はバラストとして積んでいたとのことですが、モンゴルによって中国で不要にされた銅銭を毎年20万貫文(2億枚)前後も輸入していたというんですから驚き(p.184-)。中国の紙幣(交鈔)は、モンゴル前の華北の覇者である金が、銅の不足に対応したものらしいけど、世界初の管理通貨制度の創始者である耶律楚材のこととかも、色々考えさせられました。

以下が、2021年の書評年度に刊行された新刊の中で、年末年始にお勧めしたい五冊です。

『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』伊藤俊一、中公新書
『万葉集に出会う』大谷雅夫、岩波新書
『連星からみた宇宙 超新星からブラックホール、重力波まで』鳴沢真也、ブルーバックス
『戦国佐竹氏研究の最前線』日本史史料研究会(監)、佐々木倫朗(編)、千葉 篤志(編)、山川出版社
『南北朝時代 五胡十六国から隋の統一まで』会田大輔、中公新書

個人的にはkindleやAudibleなどガジェットを使った聴くのも含めての読書など、「読書」という行為を拡げられたかな、と感じられました。ジムでエアロバイクこぎながらAudibleで聞いた本は9冊となりました。

以下は新刊書で読んだ本のダイジェスト紹介です。

『新説の日本史』亀田俊和、河内春人、矢部健太郎、高尾善希、町田明広、舟橋正真、SB新書
日米修好条約からの条約関連が最高でした。ハリスはキリスト教的倫理で幕府に対して色々アドバイスして、幕府も当時の状況を考えて起こり得ないところは大幅に譲歩して色々締結したけど、長州の攘夷実行で原資のない幕府が輸入税を20%から5%に下げて、結果、維新政府も苦しむ、と。

『南北朝武将列伝 南朝編』亀田俊和、生駒孝臣(編)、戎光祥出版
 南朝の人物を含む31人を12人の研究者が最新の研究を踏まえて分担執筆したアンソロジー。花粉症に悩まされつつ、拾い読みを続けましたが、無類に面白い。例えば、南部氏。南北朝時代に南朝にかなり肩入れしていたということ自体、知りませんでした。南朝が劣勢になる中で最後は幕府側の足利直義と和議を結んでいるのですが、それまでの頑なさというか、融通の効かなさ加減は、幕末の貧乏くじまで引き継がれる感じがしました。

"The Vanishing Middle Class Prejudice and Power in a Dual Economy"Peter Temin, The MIT Press(『なぜ中間層は没落したのか:アメリカ二重経済のジレンマ』ピーター・テミン、猪木武徳、栗林寛幸・訳)
 中間層の消滅はアメリカの歴史と政治、特に奴隷制とその余波が、金持ちと貧乏人の間のギャップの拡大に大きな影響を与えた、と主張。南北戦争後に600万人の黒人奴隷が南部から北部に移住したのと、現在のメキシコ国境からのラテン系の住民たちの移動を対比したりしているのは歴史家視点でしょうか。多くの貧しいアメリカ人は、発展途上国の状況に似た状況で暮らしているとして、発展途上国の経済を分析するルイスの二重モデルを使って分析しているのには驚愕。

『戦国佐竹氏研究の最前線』日本史史料研究会(監)、佐々木倫朗(編)、千葉 篤志(編)、山川出版社
 ファミリーロマンスでは相馬氏と関係あるとかないとか言われてきたなので、非常に面白く読ませていただきました。平安時代後期から始まり、約470年居住した常陸国では北条氏と対抗し、上杉謙信と連携して北関東の武士団をまとめ、織田信長や豊臣秀吉ともいち早く連携をとり、小牧長手の戦いの秀吉と連動して北条氏と対抗していたとは驚愕しました。関東の支配を巡って北条氏に果敢に対抗しただけでなく、南奥を巡って伊達氏と争うなど活発に活動。バイプレイヤーとして要所要所で正しい判断を下していく姿は大したものだな、と。

『連星からみた宇宙 超新星からブラックホール、重力波まで』鳴沢真也、ブルーバックス
 驚いたのが恒星はだいたい連星で、われわれの太陽の兄弟星みたいな星もあることが報告されている、ということ。太陽から110光年にある七等星「HD 162826」は年齢、質量、半径、表面温度、化学組成がほとんど同じだそうです。太陽系に一番近いのは約4光年先にあるケンタウルス座アルファ星ですが《この星は3重連星ですので、もしも太陽とも重力的に結びついているならば、4重連星》ということも考えられる、と。

"The Tyranny of Merit: What's Become of the Common Good?" Michael J. Sandel(『実力も運のうち 能力主義は正義か?』サンデル・著、本田由紀、鬼澤忍・訳)
 キリスト教にルーツを持つ文化への皮肉に満ちていると感じました。また、クリントンからオバマにいたる民主党政権が実力主義というか功績主義を助長したというのも皮肉でしょうか。トランプもサンダースもオバマやヒラリーと違ってopportunityという言葉はあまり使わず、勝者と敗者の固定化の弊害に言及することが多かったことを強調し、オバマやヒラリーを実力・功績主義の権化みたいにこき下ろし、オバマの"You can make it if you try"のようなフレーズを批判しているのは素晴らしいかな、と。

『南北朝武将列伝 北朝編』亀田俊和、杉山一弥(編)、戎光祥出版
 ぼくが中世史の素人からなのかもしれませんが「家の存亡をかけて何故あんなに簡単に叛旗を翻すことができるのか?」という疑問がどうしても出てきてしまいます。《南朝・幕府いずれに与しても一方からは攻撃を受ける以上、より優勢な側や好条件を提示した側に所属しようとするのは当然の判断》(『南北朝武将列伝 南朝編』p.295)ということは分かってはいるのですが…それとも、織豊時代から徳川の世に慣れてしまっていて、山城にこもれば独立を貫くことができるというリアリティをぼくらが失っているからなのか、と考えてしまいました。

"Head、Hand、Heart:The Struggle for Dignity and Status in the 21st Century" David Goodhart(未訳)
 社会的流動性を可能にする教育の役割の重要性と、実際には格差固定・拡大につながっている問題はサンデルの"The Tyranny of Merit"、"The Vanishing Middle Class"Peter Temin、"How Democracies Die" Steven Levitsky, Daniel Ziblatt、"Our Kids"Robert Putnamと米国の事例を中心に読んで(聴いて)きました。この本も学習能力による達成(Cognitive achievement)が実力主義として蔓延し、技術的(手)と社会的スキル(心)の価値を切り下げ、そうした仕事をする人々を疎外している例をイギリス社会で検証する、みたいな内容。この過程の中で進んだのは賃金の停滞と、知識労働とみなされない仕事の士気をくじくような地位の下降でもあった、と。

『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』高橋昌一郎、講談社現代新書
 個人的に第一次大戦後のハプスブルグ帝国の崩壊と、ソ連、ナチスによる蹂躙の歴史に興味があったので、ハプスブルグ崩壊後のハンガリーの混乱ぶりは驚きました。ティモシー・スナイダーの本を思い出しながら、スターリニストによる赤色テロ→隣国ルーマニアの介入→スターリニストの亡命とソ連国内での粛清→ナショナリストによる白色テロで国力を失えば、それは簡単にソ連やナチスに蹂躙されるわな、と。ハンガリーは行ったことはないのですが、精神科医の中井久夫先生が『家族の深淵』のなかで、低い《周囲の山々の手前の平野のかなりの部分までが他国領》のような無防備な国で《強大国と境を接する小さな国の兵士はどういう気持ちで軍人になるのだろうか不思議に思った》ほどの《地政学的な不幸》を思うところも思い出しました(p.268-)。

"TRANSACTION MAN: The Rise of the Deal and the Decline of the American Dream"Nicholas Lemann(邦題は『マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体』ニコラス・レマン、藪下史郎、川島睦保・訳)
 企業が社会制度のように振る舞うことに成功したときがアメリカの福祉国家の姿だった、とバールは語ったというのですが、それは日本も同じだったかもしれません。その後、重視されれるようになった株主価値を最大化するために、投資家たちは高賃金、企業研究所、厳格な規制、再分配課税などが進み、ウォール街は強力になりったが、こうしたトランザクションマン・エコノミーの40年間は、ほとんどのアメリカ人にとっては辛い日々となり、賃金の伸びは鈍く、平均余命も停滞した、と。

『蹴日本紀行』宇都宮徹壱、エクスナレッジ
 いずれは日本百名山や百名城のように、日本100名スタジアムなんかも選ばれるようになるのかもしれません。空が美しい各地のスタジアム写真が印象的。北海道から沖縄まで、いつのまにか、こんなにも美しいスタジアムが建てられていたとは驚きでした。

『万葉集に出会う』大谷雅夫、岩波新書
 万葉集の中でも名高い「石走る垂水の上のさわらびの萌えいづる春になりにけるかも」「東の野の 野のにかぎろいの 立つみえて かへり見すれば 月かたぶきぬ」の歌の読み方は違うという衝撃。長歌は五七調で、歌舞伎のセリフは七五調。五音句の難しい言葉はたいてい枕詞。枕詞は語りを荘重にするのが狙いなので七音句だけで内容はわかるというあたりも目ウロコ(p.123)。

『古代史講義【氏族篇】』佐藤信、ちくま新書
 古代の列島は氏へ結集する豪族よりも官僚を重視する律令制度へと変わっていくわけですが、それにしても氏姓制度というのはイマイチ分かりにくい。氏(ウジ)の名は蘇我のように居住地によるものと、物部、中臣、忌部、土師など職業の名によるものとがあり、氏姓をない者は皇族と奴婢だった、と。でも氏は臣、連などの姓(カバネ)をもって政務に参加とか、いまひとつスッキリわからないんですが、物部氏と蘇我氏の対立は、通説では仏教をめぐるものとされていましたが《大臣系氏族と大連系氏族の派閥争い、政争》とみるべきだあたりは面白かった(p.58)。

『解剖 日本維新の会 大阪発「新型政党」の軌跡 』塩田潮、平凡社新書
 「現実の方が間違っている」という自称リベラルのような観念論者にはなりたくないので、勉強することに。表看板の大阪都構想で住民投票に二度失敗するなどしながらも生き延び、第三極として台頭てきたのは何かあるのかな、と。Twitterで大阪の有権者に《大阪で維新が強いのは「高校無償化、塾通いへの補助、子どものワンコイン診療というベーシック・サービスを実現したからだ」というのは実感として正しいのでしょうか?》と聞いてみたら、8割がYES、2割がNOという回答でした。もちろん、ささやかな範囲でのアンケートですが、これが実質本当ならあれだけ大阪で強いのは理解できます。

The lonely Century : Coming Together in a World That's Pulling Apart by Noreena Hertz(邦訳『THE LONELY CENTURY なぜ私たちは「孤独」なのか』ノリーナ・ハーツ、藤原朝子・訳、ダイヤモンド社)
 住宅価格の上昇の中でパンデミックが襲い、世界中の政府がステイホームをプロパガンダする以前から、我々の孤立、孤独、疎外は進んでいた、みたいな。それまでも他人との接触は、携帯電話やコンピュータネットワークを介して行われおり、やがては「思いやりのあるAI」とロボットが解決策になるかもしれないというディストピアっぽい未来さえも垣間見せてくれる。孤独は1日に15本のタバコを吸うのと同じくらい孤独は健康を害する、と。

『武田三代』平山優、PHP新書
 国衆、大名とも代替わりは危機であり、必ず攻め込まれているな、と改めて感じる一冊でした。また、信玄は信虎の残した遺産をバックに、三国同盟で南東方向を安定させてから北方に領域を拡大しようとしたものの、今川氏が没落したため、今川氏の正室をもった嫡男が謀反。死後に家督を継いだ勝頼が傍流だったため家中がまとまらず滅亡、という流れが良く理解できました。

『南北朝時代 五胡十六国から隋の統一まで』会田大輔、中公新書
 地球全体の寒冷化がもたらした遊牧・牧畜民と農耕民との衝突で、北方の民族がカジュアルに皇帝を名乗っていた時代は隋によって終わり、中国は400年ぶりに統一されたが《南北統一を果たした隋そして唐は、中国化を進めた北魏後期および北斉の制度・儀礼を国制の基軸に据え、遊牧的要素のある北周の制度も一部で取り入れた。さらに南朝の儀礼・学術・文化の影響も受けている。いわば南北朝の制度・文化が融合して成立した王朝なのである》ということなんだな、と。

『頼朝と義時 武家政権の誕生』呉座勇一、講談社現代新書
 要は頼朝は父義朝の後継者として自分の家を源氏嫡男として復興することが最大の課題だった、と。だから平氏より同じ源氏の有力者に敵愾心を燃やした、と(初期のヤマト朝廷や、戦国大名の家督争いとおなじような、兄弟で血で血を洗うものとなった感じ)。流人の頼朝を北条氏が庇護したのは一発逆転を北条時政が狙ったから。平家は関東の国司も変えようとして反発をくらい、緒戦で頼朝の息を止められなかったために、各個撃破で交替してしまった、というイメージなんでしょうか。そして、朝廷との力関係を変えるのは義時、と。

このほか、旧刊では以下のような本を読んできました。

『俳優のノート』山崎努、文春文庫
"Blitzscaling: The Lightning-Fast Path to Building Massively Valuable Companies" Reid Hoffman, Chris Yeh(邦題は『ブリッツスケーリング』ホフマン、イェ・著, 滑川海彦、高橋信夫・訳)
『緋色のヴェネチア』塩野七生
『ほんものの魔法使』ポール・ギャリコ、矢川澄子(訳)、創元推理文庫
『『熈代勝覧』の日本橋』小林忠、小林弘、小学館
『脚本の科学 認知と知覚のプロセスから理解する映画と脚本のしくみ』ポール・ジョセフ・ガリーノ、コニー・シアーズその他、石原陽一郎訳、フィルムアート社
"The Last Warrior: Andrew Marshall and the Shaping of Modern American Defense Strategy"Andrew Krepinevich, Barry Watts(邦題は『帝国の参謀』クレピネヴィッチ、ワッツ著、北川知子・訳)
"How Democracies Die"Steven Levitsky, Daniel Ziblatt(『民主主義の死に方』スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット、濱野大道訳、新潮社)
『アメリカ大統領選』久保文明、金成隆一、岩波新書
"Black Earth" Timothy Snyder(邦訳『ブラックアース ホロコーストの歴史と警告』)

 

|

« 『頼朝と義時 武家政権の誕生』 | Main

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« 『頼朝と義時 武家政権の誕生』 | Main