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August 26, 2021

TRANSACTION MAN

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"TRANSACTION MAN: The Rise of the Deal and the Decline of the American Dream"Nicholas Lemann

 ジムの有酸素運動でエアロバイクをこぎながら、英語のサビ落としを目的にAudibleで聞いている本の10冊目。"The Tyranny of Merit: What's Become of the Common Good?" Michael J. Sandelから能力主義の問題について読んでいるのですが、"Head、Hand、Heart:The Struggle for Dignity and Status in the 21st Century" David Goodhartに続いて聴いたのは“The Big Test”でSATの歴史を描いたレマンが巨大企業の役割の変化から不平等の拡大を説明しようとしたこの本(邦題は『マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体』)。

 この本は倒産したGMのディーラーとオバマ、黒人解放運動の舞台となったシカゴから始まります。最終的には2008年の金融危機によって工場が放棄され、小売店も経営者が変わり、街も犯罪に苦しむゲットーになった、みたいな。

 企業レベルではGMとモルガン・スタンレーの興亡を描いています。GMはディーラーの従業員とともに、数十万人の自社従業員に寛大な利益をもたらす安定した生涯の仕事を提供してきましたが、08年の金融危機で倒産。ウォールストリートで投資銀行の模範だったモルガン・スタンレーは従来ベースのビジネスモデルを破棄して取引ベースのモデルに移行したものの、同じように倒産。しかし、政府による救済により救済されます。

 フランクリン・ルーズベルトの経済補佐官だったアドルフ・バールは、大企業が経済支配する社会を予想して「大きな政府」による安定した雇用と年金制度に貢献。米国の経済界はフォード、ロットフェラー、モルガンなどの一代で築いた企業の文化が変化し、1970年代までに大株主も新しい体制の下で落ち着きを取り戻した、と。それは社会主義的というより飛躍した資本主義(galloping capitalism)かもしれなかった、と。

 企業が社会制度のように振る舞うことに成功したときがアメリカの福祉国家の姿だった、とバールは語ったというのですが、それは日本も同じだったかもしれません。

 しかし年次昇給を約束したGMのような企業と労組、そこで働く人々との交流と教会などを嫌う反組織派も現れ、勝利します。そのため現代の代表的な人物はほぼ完全に反組織的性格であり、トランザクションマン(Transaction Man、市場志向の人間)と呼ぶことができまる、と。トランザクションマンは、金融商品の取引、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、ヘッジファンドなどの分野で、文字通りトランザクション(取引)の仕事をしている、と。組織派の人々は大企業に勤め、そうしたコミュニティの柱になりたいと感じていましたが、トランザクションマンは、そうした組織の破壊者であり、グローバルな地球市民になることを目指していた、と。

 アメリカのビジネスは動きが遅くなり、日本とヨーロッパの競争相手に対して脆弱になったとする人々を代表するハーバードビジネススクールのマイケル・ジェンセンは、企業は株主価値を最大化する必要があると主張。コストを削減し、仕事をアウトソーシングし、株を買い戻す経営者が賞賛された、と*1。しかし、ジェンセンやフリードマンなどの解決策は極端ではなかったか、と。

 重視された株主価値を最大化するために、投資家たちは高賃金、企業研究所、厳格な規制、再分配課税など、非常に優れた業績を上げた企業や政府の建物を解体。その結果「取引」が始まった、と。ウォール街は強力になり、アメリカの納税者の負担もあって金融危機も乗り切ることができた、と。

 しかし、こうしたトランザクションマン・エコノミーの40年間は、ほとんどのアメリカ人にとっては辛い日々となり、賃金の伸びは鈍く、平均余命も停滞しました。

 また、2000年のインターネットバブル崩壊は、市場が企業の真の価値を決めるのが得意ではない可能性も示しました。不正会計のエンロン、ワールドコム、ノーテルなどの企業が崩壊したからです。2008年の金融危機はモラルハザードがさらに進みました。住宅ローンブローカーは住宅という商品を、返済が必要なローンではなくパッケージ化された金融資産と考え、定職を持たないような人々にも貸し出しました。すべて英語で書かれた契約書をスペイン語しか話さない人々にサインをさせ、収入のない人々には「収入を発明」して記載させることまでした、と。

 経営資本主義が株主の多様性に取って代わったように、今や株主資本主義は完全に民主化された経済に取って代わられ、企業、組合、政府はもはや機会と富を生み出す必要がなくなった。LinkedInの創業者であるピーター・ティールにとって重要なのはインターネットに対応したネットワークだけでした。リード・ホフマンとのセクションでは、ピーター・ティール流のネットワーク効果が説明されます。それは利用者が増えるにつれ利便性があがるサービス。ネットワーク効果を狙う企業は小さな市場からはじめますが、トランプを支持したピーテー・ティールや、ブルームバーグを担ぎ出したマーク・ピンカスも生み出します。

 こうした話しは面白かったけど、正直、このネットワークの部分は消化不良のような気もします。ということで、次はReid Hoffman"Blitzscaling: The Lightning-Fast Path to Building Massively Valuable Compan"を聴いてみます。

*1 "Theory of the Firm"は企業と市場の境界があるなか、どのトランザクション(取引)が内部で実行され、どんなトランザクションが市場で行われるのかなどを検討。また、企業は階層などで構造化されているが、その相互作用は何か?完全競争が企業の行動の適切なモデルではないとみられるようになった時代、株式を持たないプロの経営者に任せる転換にもなり、「株主価値の最大化」の時代が生まれた、みたいな。

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