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August 26, 2021

『蹴日本紀行』宇都宮徹壱

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『蹴日本紀行』宇都宮徹壱、エクスナレッジ

 アフターコロナのリベンジ旅行やワーケーションなどを利用して「全国のスタジアム巡りをするのも楽しいかも」「四国のこじんまりとしたスタジアムの巡礼なんかはどうだろう」と想像しつつページをめくっていました。いずれは日本百名山や百名城のように、日本100名スタジアムなんかも選ばれるようになるのかもしれません。

 印象的なのは空が美しい各地のスタジアム写真。北海道から沖縄まで、いつのまにか、こんなにも美しいスタジアムが建てられていたとは驚きでした。

 大宮、岡山、鳥栖など交通の要衝にはJのクラブがあるという著者の指摘はなるほどな、と。免許は持っているものの、マイカーは使わない主義という都会育ちの著者の移動手段は鉄道などの公共交通機関。必然的に全国各地の珍しい駅舎や車両のイメージも収められることになります。

 Jリーグがあろうがなかろうが47都道府県を平等に扱う構成なので、各地の主な輩出選手も記されていて「長崎は出身選手こそ多くないものの小嶺監督に育てられた小林、高木や国体選抜で選んだ森保など、現役で活躍しただけでなく、良い指導者を多く産んでいるな」などということもわかります。

 写真を中心とした紀行文という体裁の本なのですが、暮れなずむ空や山並みをバックにしたスタジアムの美しさには圧倒されます。空の美しさは列島の環境が改善された証しでしょうし、新潟は夕陽の美しさが県全体の自慢とか。

 2002年の日韓ワールドカップを期に、自治体と母体となるクラブが協力しながら、地域おこしなどを目的に本格的なスタジアムが建設されるようになり、そこを拠点としたJリーグのチームが根づいていった日本全国の姿がこの本には収められています。それはフットボールという断面で切り取った今の列島の姿なのかもしれません。

 紀行文は公共交通機関の発達や中産階級の拡大にともなって増えていったと言われますが、たとえ経済が多少下り坂になったとしても、成長期に蓄積された素晴らしいインフラに支えられたクラブとスタジアムの存在は、47都道府県それぞれの特性を生かして、それぞれの場所で充実した生活を送ることのできるようになった証しのようにも感じます。

 さらに自治体から施設の管理指定業者に指定されたクラブが、自分たちの利用だけにとどめず開放する試みも紹介されています。それは、地域との繋がりにワンクッション置くことで、従来の建てたら建てっぱなしというハコモノ建設政策から行政も脱却していこうとしている姿なのかもしれません。

 英国のフットボールファンの中には下位リーグのスタジアムを巡って、土地の風景を楽しむというような集まりもあって羨ましいな、と思っていましたが、日本でも十分、そうした楽しみが可能になってきたと感じます。生きているうちに、もう1回ぐらいワールドカップが日本には来ると思っているのですが、そしたら、こうした施設が海外から来る代表チームのキャンプやトレーニングに利用されていくことでしょうし。

 「鉄分」がわりと多めなこの本を読んでいると、旧国鉄が全国各地に「鉄道の町」を持っていたことも思い出しました。そうした土地である盛岡にはグルージャ、大宮にはアルディージャ、吹田にはガンバ、米子にはガイナーレ鳥取、鳥栖にはサガンなど、旧国鉄時代から大きな機関区や工場、操車場(貨物ヤード)などが置かれた場所にはフットボールクラブが多く誕生しているな、と改めて感じます。

 行政の中心で士族が住んでいた県庁所在地などには大規模な施設をつくるスペースがなくなっていたために、そうした中心部の周辺には働く人たちが集められました。そんな「中心から少し外れた場所」にはスタジアムを建設できる用地も残ったわけで、交通の要衝=来ては去る人々の多い土地には、フットボールクラブとサポーターとの程良い距離感も生まれやすいのかもしれません。

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