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February 22, 2021

How Democracies Die Steven Levitsky, Daniel Ziblatt、2018

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 ハーバード大学の政治学者である著者は、民主主義の崩壊の過去の例を調べることによって、アメリカの民主主義がどのように脅かされているかを探ります。といいますか、トランプ時代の米国はもう民主主義の手本ではないと指摘しています。

 邦訳は『民主主義の死に方』スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット、濱野大道訳、新潮社。例によって、スポーツジムでの筋トレのあと、有酸素運動でエアロバイクをこいでいる間にAudibleで聴きましたので、正確なものではないかもしれませんが…。

 アメリカの大統領選挙の歴史などの部分は、レビツキーがインタビューに応じている『アメリカ大統領選』久保文明、金成隆一、岩波新書にも反映されていると感じました。といいますか、レビツキーの主張は、「大統領がメディアを攻撃し、対立相手を逮捕すると脅し、選挙の結果を受け容れない人物では、民主主義を守れない」というものでした。人はもともと情報を自分に都合がいいように錯覚する心の癖「認知バイアス」があるからニセ情報に弱い。これをうまく使ってデマや陰謀論で政敵を攻撃し、演説で国民を熱狂さ、大の内なる欲望を増幅してみせたのがナチスでしたが、いまやSNSで陰謀論のインフレ状態になっている感じでしょうか。
 
 民主主義はもともと、それを動かすためには軟らかいガードレールのようなものが必要であり、「永遠にプレーしつづけるべきスポーツの試合」のようなものだ、というのが著者たちの主張。ということは、逆に考えれば冷戦の終結以来、ほとんどの民主主義が政府の暴力的な転覆ではなく、民主主義の規範と制度の漸進的な弱体化によって死んだかをみれば反面教師になるハズだ、と。民主主義はガードレールを失うと弱い、とトランプを経験した21世紀に米国が直面している脅威を診断します。民主主義の規範(Democratic Norms)は破られることがあるんだ、ということは何回も強調されます。

 民主主義の規範(Democratic Norms)を重視し、民主主義を「永遠にプレーしつづけるべきスポーツの試合」とみる考え方は、個人的には丸山眞男の「永久革命としての民主主義」を思い出させてくれました。「未来に向かって普段に民主化への努力をつづけてゆくことにおいてのみ、辛うじて民主主義は新鮮な生命を保ってゆける」みたいな。

 この本にもどりますと、構成はやや重複も目立つ独立した9つのエッセイで成り立っています。前半では南アメリカなど民主主義が独裁的な指導者によってどのように損なわれたか、それと反対にアメリカの民主主義がそうした運命からどのように回避したかを述べ、後半は米国の危険を探る、みたいな。

 「はじめに」ではチリで1973年にピノチェト将軍が率いる軍隊がアジェンデ大統領を殺害し、国の支配権を握ったとき民主主義は劇的に終わったとしています。この「これは銃を持った男の手によって民主主義が死ぬ」民主主義崩壊のパターンは、20世紀後半から21世紀初頭の多く国で起こったのですが、民主的な衰退のプロセスは、陰湿なものになる可能性もありる、と。ベネズエラでは、より「本物の」民主主義が約束された後、反エリートのアウトサイダー候補であったウーゴ・チャベスが1998年に選出され、彼の大統領職を終わらせたであろう野党主導の国民投票を10年後には阻止するに至ります。チャベスの敵はブラックリストに載せられ、追放され、逮捕されてメディアは窒息させられました。こうしたステルスなプロセスは民主主義を殺すための一般的な方法となり、人々がそうした事態が起こっていることを認識するのを難しくさせ、ベネズエラは独裁政治国家として認識されるまでになった、と。

 1章で著者は、民主主義の崩壊の過去の事例が、アウトサイダーの影響力を抑えながらそれを利用することを期待して、現職者が大衆的な人気のあるアウトサイダーと組むことから始まった方法を説明します。しかし、こうした手法で世間から正当性を獲得することによって最も利益を得るのは反政府勢力です。しかし、政治家を評価するために開発された「リトマス試験」(権威主義的/独裁的な行動に関する4つの鍵となる指標)を使って潜在的な独裁者を特定することも可能で、1930年代のベルギーやフィンランド、20世紀のオーストリアなどの国のように、こうした罠も回避可能だった、と。こうした国々のエスタブリッシュメント政治家は、短期的には政治的損失を受けるものの、ライバルと協力することによって過激派候補の台頭を妨げました。反対に窮地に立った既存の伝統政治家らがアウトサイダーと安易にも結んだ「同盟」が、その後の民主主義の破壊にどれほど寄与することになったのかも語られます。

 2章と3章で著者はアメリカの民主主義が過激派候補を寄せ付けないようにした方法を調べ、それが政党の役割の議論につなげます。アメリカの民主主義は、独裁者になる可能性の経験していると指摘しています。しかし、そのような候補者は、政党のゲートキーピング機能によって権力を握ることを妨げられました。しかし、1960年代までの予備選挙・プライマリシステムの変更により、それ以降は多くのポピュリスト候補者がすり抜けることができるようになった、と。トランプはこれらの候補者の1人でしたが、共和党は明らかに権威主義的傾向があるにもかかわらず、ゲートキーピング機能を発揮することができませんでした。著者たちによると、トランプは独裁者のリトマス試験のすべての基準で陽性であると判断しています。

 4章と5章では民主主義を維持する上での制度と規範の役割が探求されます。裁判所などによっても独裁的な指導者を抑制し続けることが可能にはなっているます、しばしば民主主義を改善することを装って、独裁者たちは初期の段階ですり減ることができる、と。規範も同様に重要であり、独裁者による破壊に対しては脆弱です。著者は、特に相互寛容と制度的寛容の2つに焦点を当て、「歴史上最も悲劇的な民主主義の崩壊のいくつかは、基本的規範の低下が先行したことによるもの」と主張している。

 4章は1990年代初頭に権力を握ったペルー大統領のアルベルト・フジモリで始まります。政治経験のない大学人だったフジモリは、テロとの戦いと経済改革実施を約束することで、毛沢東派の「センデロ・ルミノソ」が率いる暴力的な反乱による脅威の中で勝利しましたが、「達成する方法については漠然とした考えしか持っていなかった」といいます。議会からの反対に遭遇したとき、フジモリはそれを激しく反発。選挙から2年後、フジモリは議会を閉鎖してアウトサイダーな暴君になってしまった、と。チャベスやフジモリのような権威主義者は、敵を侮辱的な名前で呼んだり、テロリスト呼ばわりしました。こうしたレトリックは社会を二極化し、不信感を助長します。民主政治の遅さに慣れていない権威主義者は、それが苛立たしい仕事であると感じ、社会の「審判」を重視する傾向にある、と。

 6章ではアメリカの民主主義の果たす役割を調べます。初期のアメリカの民主主義には、特に規範は強くありませんでした。しかし南部の州がアフリカ系アメリカ人から市民権と投票権を取り除くことを許可されるにつれて、規範が強化され、民主主義とチェックとバランスのシステムが確保された、みたいな。

 しかし7章では、共和党と民主党が司法を妨害し、政治家がライバルを裏切り者や反米主義者と呼び、大統領が議会を迂回するために大統領権限を行使したため、これらの規範がここ数十年でどのように崩壊したかを探ります。2016年、共和党上院がオバマ大統領の最高裁判所の指名候補者の審議そのものを拒否したときに、米国は明確な規範違反の事例を経験した、と。それは歴史的先例からの根本的な逸脱でしたが、そのルーツは1970年代にさかのぼります。ニュート・ギングリッチは共和議員に、礼儀正しさと超党派の協力の規範を拒否し、政治へより積極的なアプローチをとるよう促しました。このアプローチは、すぐにギングリッチが作成したトレーニングテープを通じて広められ、共和党の基盤における二極化と不満の波を利用する過程でアメリカの政治は変革された、と。このプロセスは、民主党員を非愛国的な人物と評することによって相互寛容の規範を弱体化させることであり、下院共和党員が政府を閉鎖しても、民主党員との妥協を拒否する行動パターンを正常化することによって制度的寛容の規範を弱体化さました。この「戦争としての政治」は、共和党の政治家たちがバラク・オバマの勝利の前後にこの言葉を使った2008年の大統領選挙で激化。こうした攻撃は、共和党の有権者と共和党の主要な役員に広く受け入れられたという点で、以前の不寛容さとは異なっていました。

 8章ではトランプがこのプロセスをどのように加速したかについても説明し、就任1年目に権威主義的な戦術本からさまざまな戦略を試みた方法について詳しく説明します。

 9章では米国の民主的衰退を逆転させるための青写真を提供します。それは、相互寛容と制度的寛容の価値を強調すること。著者は市民の多様な連合の必要性とともに、共和党の改革を提案。共和党の献金者や右翼メディアの影響を減らし、白人至上主義への依存を減すべきだ、と。最後に、政治家は、二極化と恨みを煽る拡大する経済的不平等を減らす必要があるとも述べています。

 

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