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November 27, 2020

Robert Putnam "Our Kids"

Our-kids

 ジムでエアロバイクをこぎながらの3冊目の聴く読書は"Our Kids"でした。聞き流しですが、とりあえず、まとめてみます。

 Robert Putnamは"Bowling Alone: The Collapse and Revival of American Community"が有名で、ぼくは、この本でソーシャル・キャピタルという概念を知りました(原書を拾い読みしただけですが)。

 Bowling Aloneは「物的資本」や「人的資本」とともに「社会関係資本」が豊かな社会づくりには不可欠なのにもかかわらず、「善意のコミュニティー」が急速に失われていく歴史を描いていたのですが、"Our Kids"は過去半世紀にわたって所得の不平等が拡大し、経済格差によってもはやカースト制度のように分裂した子供たちの世代が増えているということをオハイオ州オタワ郡ポートクリントンの街を中心に描いています。

 クリアカットに言うと、人種差別や性差別はそれほど悪化はしていないけれども、階級格差は悪化している、という感じでしょうか。

 パットナムによると、ポートクリントンでは労働者階級が経済的に崩壊しただけではなく、新しい上流階級も誕生した、といいます。カトーバ湖岸からクルマの乗ると左右で貧困地帯と富裕層が暮らす場所の違いが分かり、それはほとんどアパルトヘイトだ、と。

 20世紀前半には社会的な階級を気にせず結婚することが一般的になりましたが、後半からはそうした傾向が逆転した、ともしています。そして、子どもたちの通う学校も違ってきた、と。

 オタワ郡のひとり親家庭は1970年から2010年にかけて2倍になり、離婚率は5倍になったことも原因のひとつでしょう。また、本来、階級が関係のない軍隊も、現在では裕福な家庭の子息は避けるようにになります(そういえば『ヒルビリー・エレジー』のヴァンスも貧困家庭から抜け出すために海兵隊に入隊しました)。

 大統領選挙もありましたがヴァンス、パットナムのように、米国の最大の問題が貧困、経済格差だとすると、国を分裂させたのはレーガンからクリントン時代に至る経済政策なのか(クリントンは民主党ながらニューディール政策に由来する制度を破壊した、と評価されています)、それともトランプなのか、という問題は別な見方もできるかもしれません。

2章は「家族」。

 ”Shotgun Marriage”「できちゃった婚」の悪影響がケイラという女性を中心に取り上げられています。

 高校卒業後、彼女はファーストフード店とガソリンスタンドガスで働き、20歳でDVな男と結婚して2人の子供をもうけて離婚。ピザハットに就職して上司と付き合って2ヶ月で妊娠しました。

 その上司はジョー。アル中の母親に育てられ、18歳の時に未成年の女の子が妊娠したため、刑務所に入るか結婚するかを迫られて結婚しますが、実は、その子の父は継父。継父との近親相姦的で虐待的な子供だった、とか、「うーん」としかいいようのない話しが続きます。

 Hillbilly Elegyもそうだけど、異父兄弟がたくさんいる貧困の中で育つ子が多いんですよね。

 上流の女性は20代後半または30代前半まで出産を遅らせるが、下層の女性は10代後半または20代前半に最初の子供を産み、次はには次には結婚せずにどんどん独りで子供を産む、みたいな。

 日本人女性の中絶経験率は10.4%で、米国の人工中絶率(人工中絶件数を人工中絶件数と出生児数の和で割ったもの)は20.1%と、日本とほぼ同程度と言われているんですが、どうなっているんですかね…

第3章は「家族」。

 3章の場所はオハイオ州ポートクリントンからオレゴン州ベンドの町に移り 、「より深い社会的断層線」の時代の家族構造を典型的な二つの家族から描きます。

 一方は経済発展に乗って子どもに牧場と馬を与えたりしますが、もう一方は早期の妊娠、繰り返される結婚と離婚、失業、欲求不満の学校教育、うつ病と絶望の人生となります。下層階級の家族は「脆弱」なのです。

 上流階級の女性は、避妊によって「20代後半または30代前半まで」出産を遅らせますが、下層階級の女性は避妊せず「10代後半または20代前半に最初の子供を産みます。上流階級の女性は嫡出で出産しますが、下層階級の女性は独りで子供を産み、離婚します。

 パットナムはこれをアメリカ社会の3分の1の下位の「家族の崩壊」と見なします。生活の崩壊は子供の発育に最悪の条件をもたらします。

 また、重要なのは1970年代以降、そうした問題が人種よりも親の社会階級との関連性が高まってきた、という洞察かな、と。

第4章は「学校教育」。

 21世紀が始まると、家族の社会経済的地位(SES, socio economic status)は、アメリカの8年生が大学を卒業するかを予測する上でテストスコアよりもさらに重要になってきたそうです。

 アメリカの義務教育期間は「K-12」と呼ばれ、K(幼稚園年長)からグレード12(高校3年生)までが義務教育期間。グレード6~8が中学校で、日本でいえば高校入学前の中学3年のテストが重要といわれていましたが、それよりもSESの方がものを言うというのは教育的アパルトヘイトであり、経済階級によって推進されるカースト制度のようなものだ、と。

 学校教育はさまざまな経済的クラスの子供たちに平等な競争の場を提供せず、その格差を反映している、というわけです。今日のアメリカの公立学校は、子供たちが学校に持ち込む長所や短所が影響を与えあうエコーチェンバーとなっている、と。

 4章はカリフォルニアのオレンジカウンティに物語の舞台を移します。それは極度の富と貧困が混在しています。第2章の主人公は白人、第3章は黒人、ここはラテン系ですが、そこでも経済的差異が競争に勝ると見ており、オレンジカウンティのラテンコミュニティ内の経済的不平等は過去40年間で大幅に拡大しています。

 上流階級の家族の両親は教育に集中し、SATスコア(大学進学適性試験)に基づいて近所を選び、子供を競争は激しいけれど魅力的な特別カリキュラムを持つ「マグネットスクール」に送るようになった、と。

 貧しい家庭では例えば姉が弟の唯一の保護者となったため、高校生活をきちんと進めることができなくなり、それは貧しい地区では典型的なパターンとなる、と。貧しい姉妹たちへのインタビューは痛切です。


「あなたの学校のAcademics(カリキュラム)はどんな感じですか?」ローラ「何もありませんでした」
ソフィア「そもそも、Academics(教養、カリキュラム)って何?」

 妹のソフィアは辞書を読むことが好きな子で、厳しい中でコミュニティカレッジに入り、教師を目指しますが、結局、卒業することができませんでした。

 ここに登場する貧しい十代の若者たちが過ごすのは、無関心で軽蔑的なスタッフしかいない、暴力と薬物乱用の子どもが蔓延する悪夢っています。そんな中でも金持ちの子供たちはSAT(大学進学適性試験)に備えます。貧しい子どもたちにはアイビーリーグの大学は視野に入らず、なんとか地元のコミュニティカレッジに入る可能性を残すような管理しかできません。

 高所得層の子供は、低所得層の子供よりも長く学校に通うことになります。それは幼年期の違い、居住地による階級の物理的分離、住宅の仕分けのためです。上昇志向の両親は学校に通い、裕福で、学校で子供たちを積極的に支援している親の多い可能性が高い地域の家を選びます。勉強をしない子どもが仲間となることは大きな影響を及ぼすからです。裕福な両親は、お金や時間でも学校に貢献します。そうした親は一世代前よりも子供を公立学校に通わせていますが、そうした学校への貢献によって公立学校は半私立になってきています。

 課外活動も経済的階級によって大きく異なり、社会的スキル、実践的な知識、大学への出願機会などを裕福な子供たちに与えます。要約すると、パットナムは「現場(Sites)としての学校はおそらく階級のギャップを広げる」と考えてい ます。大学の学位の重要性が高まっているということは、貧しい子供たちが高等教育を受けられないことが、従来よりも彼らを傷つけていることを意味します。学校教育を改善しても問題は解決しませんが、ギャップを狭めることはできるかもしれません。

 高等教育へのアクセスの格差は悪化しており、貧しい子供たちは「ますますコミュニティカレッジに集中している」ことをパットナムは発見します。アメリカで成功するための最良の機会は大学に進学することですが、階級ギャップは拡大し、貧しい学生ほど大学を卒業する可能性が低くなっているという最悪のニュースが拡大しています。

 上流階級のバックグラウンドを持つ子供たちは、最も重要なレースでリードを広げ、低所得家庭の子供たちも将来のために熱心に取り組んでいますが、どんなに才能があり勤勉であっても、せいぜいチェッカーでのプレーを改善している一方で、上流階級の子供たちは三次元チェスをプレイしているのが現状です。そして金持ちの愚かな子供は賢い貧しい子供よりも大学を卒業する可能性が高くなります。実際、テストで悪い成績を収めた裕福な子供たちが、よくテストした貧しい子供たちよりも大学を卒業している、とこの章を締めくくっています。

 そして学校の財政(生徒一人当たりの支出、教師の給与を含む)は学校の成績の重要な要素ではなく、低所得の学校と高所得の学校の間のパフォーマンスのギャップの拡大が、公的資源の配分の偏りに起因する可能性があるという証拠はほとんどありません。

 また、大学のための借金は裕福な家族にとっても大きな問題で、彼らも末っ子をアイビーリーグ以外の大学に送るようになります。

 とにかくパットナムは、階級格差は各人種グループ内で拡大しているが、人種グループ間の格差は縮小しているとしており、学校の選択は階級の分離にあまり影響を与えていません。

 1950年代と60年代の人種的不平等は非常に問題でしたが、所得の不平等は本当に低かったため、結果として教育の人種格差は非常に大きく、所得格差は小さくなった。しかし、60年代と70年代の人種的不平等は大きかったもの、所得の不平等が広がり始めたわけです。人種格差よりも、所得格差ははるかに大きくなっています。

 高所得世帯と低所得世帯の子供たちの間の達成のギャップは、2001年に生まれた子供たちの方が25年前に生まれた子供たちよりもおよそ30から40パーセント大きい。実際、所得達成のギャップは少なくとも50年間拡大している、と。

5章は「コミュニティ」。

 場所はフィラデルフィアに移動します。

 裕福な家族は、私立学校、乗馬、そして大規模な家庭スタッフの世界に住み、アイビーリーグの教育を受けられ、離婚やADHDなどのストレスに際してもお金と支援してくれる人々が周りにいます。

 犯罪、病気、依存症、計画外の早期妊娠、社会崩壊に囲まれた社会・経済的に下の地域に住んでいる家庭は地元の教会が助けになります。しかし、娘たちをアルコール、麻薬、妊娠から救おうとしたが失敗した母親の物語が語られます。

 裕福で教育水準の高い人々は広く、深い社会的ネットワークを持ち、教育水準の低いアメリカ人はまばらな社会的ネットワークの中で家族に孤立しています。また、裕福で教育水準の高い人は、り多くの「弱いつながり」「広く、多様なネットワーク」にアクセスできている。ソーシャルネットワーキングが優れているほど、逆境に対する防御が強化され、機会の範囲が広がるわけです。

 教育を受けた裕福な親とその子供たちは、このようなネットワークから、裕福でない親と子供たちが簡単にアクセスできない豊富な専門知識とサポートを利用できます。裕福な人々は技術的アクセスを持ち、デジタル世界を活用するための優れたスキルも持てます。インターネットは機会のギャップを広げる可能性が高いかもしれないと。
 
 こうしたソーシャルネットワークはメンターへのアクセスにつながり、これは自己啓発に影響を与えます。

 子供たちは、近所の地域が経済的ギャップによって分裂していることに気づきます。近隣地域間の不平等が大きければ大きいほど、上向きの社会的流動性の割合は低くなり、機会のギャップは大きくなります。

 こうして近隣でありながらも住む世界が違う人々の間で信頼関係は失われ、社会的結束と相互扶助は低所得層で崩壊、貧しい子供たちは孤立して育ちます。

 著者はFacebookで「愛はあなたを傷つけ、信頼はあなたを殺す(Love gets you hurt; trust gets you killed)」という投稿を見つけますが、宗教団体は多くの人々に支援サービスを提供しているものの、貧しい人々は教会への出席を減らし「耳を傾けると、アメリカで歌われる賛美歌は上流階級のアクセントで歌われるようになっている」(If you listen carefully, hymns in American houses of worship are increasingly sung in upper-class accents)。

 残りの章は繰り返しが多くなるので簡単に。

 不平等の拡大は、特に失われた機会の平等からアメリカ経済に悪影響を与える可能性があります。格差拡大は、政治参加と市民参加の減少につながる可能性があり、それが階級格差をさらに拡大させます。

 政治的不平等が継承されるとアメリカ独立戦争が戦われた政治体制に近づき、デマゴーグとファシズムの記憶を呼び起こし、パッテナムはハンナ・アーレントを引用して全体主義に結び付けています。

 裕福な人は単に下層階級の生活についてあまり知りませんし、上流階級はアメリカ史上初めて兵役を大幅に回避しています。こうして上流階級の親が利用できる資源は拡大し、下層階級の家庭の経済状況は着実に悪化していきます。そして、なすべきこととしては貧しい家庭への税額控除、父親の投獄を減らすこと、コミュニティスクールとカトリックスクールへの支援、課外活動の拡大、職業訓練コースの再構築、コミュニティカレッジへの資金提供、教会を含めたメンタリングプログラムの拡大のような政策を提案しています。

 面白いと思ったのはFacebookが、本の中で出てくる貧しい人々のインタビューをする上で、背景を知ったり、現状を確認できて、とても効率良かったと書いてあること。なるほどな、と。

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