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November 27, 2020

『グローバル時代のアメリカ』

American-history-4

『グローバル時代のアメリカ』古矢旬、岩波新書

 シリーズアメリカ合衆国史の4巻目で完結編。「冷戦時代から21世紀」という副題にある期間を扱っています。

 中国史でも中原だけでなく草原、江南など地域別に歴史を見直すという試みが新鮮だった岩波新書の歴史シリーズですが、このアメリカ史も
1)植民地から建国へ 19世紀初頭まで
2)南北戦争の時代 19世紀
3)20世紀アメリカの夢 世紀転換期から1970年代
4)グローバル時代のアメリカ 冷戦時代から21世紀
という独自の時代区分で区切っています。

 これは19世紀を南北戦争の時代と捉え直し《第二次世界大戦後のアメリカの圧倒的な経済的覇権の起源は、「南北戦争の世紀」の末期にもたらされた技術革新と産業化にあった》ことによるもの。だから3巻と4巻は1970年代という時代を共有するとともに、70年代を戦後の世界史の画期とみることにつながります。

 筆者はマルク・レヴィンソンをひいていますが、1973年で南北戦争から続いた長い繁栄の時代が終わったという時代認識というか、65-73年のどこかが歴史の分水嶺になってるというのを最初に読んだのはドラッカーの『新しい現実』だったな、と思い出しました。また、70年代は「ポスト」の時代ではなかった、ともしています。ポスト市民運動、偉大な社会、ニューディール・リベラリズム、ベトナム、ウォーターゲートの時代だった、と(p.2)。

 第1章「曲がり角のアメリカ」によると、戦後もっとも顕著に増大したのは、社会保障関連支出でした(p.7)。ジョンソン政権の「貧困との戦争」によって黒人の貧困率は59年の55.1%から70年には33.5%に改善。しかし、30%以下には下がらず、福祉予算の増大と同時に進められたベトナム戦争などによってインフレーションが進み、それに対処しようとすると景気が減速するスタグフレーションに悩まされるようになります。

 政治的には帝王的大統領制が進み、ベトナム戦争もホワイトハウスの主導で限りなく続けられましたが、ウォーターゲート事件の後、合法的に政治献金を行うPACが激増。ロビー活動が活発化していきます。また、第二次大戦後の復員兵として最も手厚く厚遇されてきた世代は、黒人やヒスパニックに予算が割り当てられるようになったことで民主党から共和党に鞍替えをしはじめます。

 第2章は「レーガンの時代」。NRAが組織として初めて推薦した大統領候補がレーガンだったとは知りませんでした。レーガンはアメリカの保守主義につきまとっていた悲観主義を払拭し、右派路線に対する国民の信任を得ます。また、初めて女性の最高裁判事を指名したのはレーガンでした。これは女性解放運動のひとつの達成ですが、保守的な政権がえてして、こうした画期的な改革を行うというのは日本も共通しているのかもしれません。89年までのS&Lの破綻のメカニズムは、住専の破綻と全く同じなのに、なんの手も打ってなかったんだな…と改めて金融庁のダメさ加減にクラクラしましたが(p.83-)。

 そして、こうしたレーガンの政策を引継ぎ、ニューディールリベラリズムに終止符を打ったクリントンと、政党間対立を決定的にしたオバマケアが、ティーパーティーやトランプ産んだ、みたいな流れかな、と(p.263)。

 第3章は「グローバル時代の唯一の超大国」。クリントンによる福祉予算の圧縮は、《従来のリベラルのように貧困者が依存する「生活様式」ではなく、あくまで働く意欲をもつ人々が貧困に陥るのを防止する補助的手段と位置づける》ことだった、と(p.133)。しかし、ヒラリーが非公開で練り上げた国民皆保険制度に対して共和党は「大きな政府」志向を嗅ぎ取り、攻撃を開始したが(p.137)、GDPで軍事費を3%まで下げたことなどによって財政は黒字に転換(p.143)、と。

 一方、1985年当時、株式を保有するのは20%だったが、20年後は半数に達し(p.157-)、情報革命も起こったが、第二次産業革命と比較すると「娯楽、コミュニケーション、情報の収集・処理」などの分野に限られたが(p.160)、外国生まれの頭脳を集積した(p.168)、と。また、開発途上国に対しては、実質的に通貨の切り下げと規制緩和を行わせるという新自由主義的政策を押しつけた(p.163)と。

 クリントン時代は経済格差の拡大と多文化主義的な自立集団の分立という二重の分断の危機をもたらした、みたいな(p.175)。そして、2000年の選挙でネーダーが獲得した200万票によって、ゴアはブッシュに敗れた、と(p.191)。

 とりあえず、11/3までに書いておこうということで、後は簡単に印象に残ったところを…。

 オバマとトランプのアウトサイダー性は際立っているが、共通点は反ヒラリーだ、というのはなるほどな、と(p.234)。

 トランプ政権の前半は上下両院とも共和党が多数だったから、比較的、政策を推し進めやすかったけど、後半は下院がねじれました(p.267)。日本の政治を停滞させた「衆参のねじれ」は、アメリカでも「分割政府」問題として、ずっと続いていたんだな、とも。

 低学歴のブルーカラー労働者層が発見されたのは60年代後半。働く/忘れられた/平均的な人々は法とと秩序の防波堤として動員され、マイノリティの権利主張に対しては既得権に固執したが、今や労働意欲さえも失い、依存症による絶望死が増加している、と(p.279)。

 それにしても…2000年の大統領選挙で、民主党のゴアが駄々をこねたけど、これは最大の敗北を受け入れにくからだろうな…と今の騒動を眺めています。


 最高裁でゴアの求める再集計を支持したのはクリントンが指名して、先日亡くなった女性判事ギンズバーグと、共和党のフォードが指名したスティーブンス。スティーブンスは「われわれは、今年の大統領選挙の勝者を、完璧な正確性を持って判定することは、永久にできないかもしれない。しかし、その敗者は疑いの余地なく明白である。裁判官を法による支配の公平な守護者でなければならないとする国民の信頼が失われたのである」と意見したとのことですが、筆者は《クリントン政権下いかに党派対立が激化し、政党政治の両局化が済んだかを物語る結果に終わった》と三章を結んでいます(p.192)。

 民主党のクリントン政権はルーズヴェルト、ケネディ、ジョンソンがつくった福祉システムを破壊し、ヒラリーの皆保険案が党派間対立を煽ったのに、そういったのは忘れて、ゴアが駄々をこねたのも忘れ、合衆国という国の形の中での、各州の選挙制度の違いにも問題があるみたいなこともコロッと忘れ、トランプを批判することで自己満足の正義感を満喫してるなら、ゴアの時と同様、最後は保守派が占める最高裁での決着に愕然とするかもしれないな、と連日、「どっちが勝っても株価は爆あげ」とばかりにNY市場をみていますw

 

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