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February 13, 2020

『独ソ戦』余滴

『独ソ戦』大木毅、岩波新書が新書大賞に選ばれて様々な書評が再掲されていますが、スターリングラード以降のソ連軍の見事な連続縦深打撃について書いているのは少なかったので、独ソ戦の終わりの始まりとなる「バグラチオン」作戦についても触れてるのをどうぞ、とだいぶ前に書いた自分のブログをツイッタランドに投稿したら岩波新書編集部の方から「もしまだお読みでなかったら、大木先生のこのエッセイもご一読ください。バグラチオン作戦の完成形としての「満洲国」侵攻作戦について簡潔に述べられています」と返信をいただき、朝から有益な時間を過ごすことができました。

『独ソ戦』では個人的に塩野七生さんが『ローマ人の物語』のカエサル篇で、会戦に勝利するためには敵を包囲殲滅することだ、と看破していますが、ソ連軍も最初はドイツ前線に猛攻撃をかけて、それを救援に行った後詰めの部隊もろとも大きく回り込んだ機動部隊で包囲殲滅する、という正攻法の作戦を見事に連携して行ったのかな、と思っていました。

 大木毅先生の「日本と独ソ戦(新書余滴)」によると、満州国を蹂躙した際にも、ソ連軍はザバイカル正面軍に機械化部隊を投入し、関東軍の後方、長春や奉天までも長駆進撃、北方から西方に進出した第一極東正面軍ならびに第二極東正面軍と挟撃して包囲殲滅する、という見事なカエサルルーティンを展開していました。これではいくら無能とはいえ無傷の関東軍もひとたまりもありません。

《ソ連軍の砲爆撃が「満洲国」の日本軍陣地に叩きこまれる。侵攻するソ連軍の前に、日本軍は局地的には激しい抵抗をみせたが(たとえば、「満洲国」東部国境に建設されていた虎頭要塞が陥落したのは、停戦後の8月26日であった)、作戦的には、ほとんど無意味だった。ソ連軍部隊は、抗戦を続ける日本軍拠点を迂回して、突進し、戦略的な要点をつぎつぎに占領していったからである。かくて、極東ソ連軍の対日作戦は、まで研究の対象となるほどの教科書的連続縦深打撃となった》と。

ロシア・ソ連の陸軍というと、カレルの本や司馬遼の小説などによって、退却戦術で敵をおびきよせて、補給線が延びきったところを人海戦術で叩くという守備的で古いイメージだったけど、『独ソ戦』を読むと、火力集中で前線を叩いた後に機動部隊で包囲殲滅するという近代的な「攻撃サッカー」に変わっていたことがわかるな、と。

 このほか、ヴァシリェフスキー元帥が、ソ連最初の「戦域軍」司令官に任命されたというのも初めて知りました。

 さらには独ソ戦について石原莞爾がトンチンカンな和平工作を展開していたことや、確実に死刑が求刑されていたであろう大島大使がヒトラーの伝声管として日本の対ソ参戦を求めるなど敗戦必至の中でも政府がねじれた対立を示していたこと、731部隊の北條圓了によるベルリンの陸軍軍医学校での講演など、新たな発見がありました。

ヒトラーが独ソ戦を開始したのはイギリス上陸作戦が第一次大戦敗北後の再建途上のドイツ海軍では不可能なので、空軍力に頼った力押しをしていたのが失敗したことが遠因。この時点で、リッベントロップはモロトフに日独伊ソ四国同盟によるイギリス解体をソ連に提案したんですが、にべない反応だったので、独ソ戦を決断するという乱暴な判断、というのが『独ソ戦』で書かれていたんですが、最近、読んだ加藤陽子先生の『天皇と軍隊の近代史』では
1)ヒトラーは日本に冷淡だった
2)しかしヒトラーからの和平提議を英国が拒絶したことでヒトラーの態度が急変、スターマーを来日させて三国同盟を模索
3)日本側もすでにドイツに負けていた仏印、蘭印を円滑に植民地化するための好機ととらえ、米英戦を誘発するという危惧を押し切って調印
4)その裏でリッペントロップはモロトフに日独伊にソ連も加わる四国協商を持ちかけたが、フィンランドからの撤退、ブルガリア~ボスポラス~ダーネルス海峡にわたる安全保障の確約、北樺太におる日本の石炭・石油利権の放棄などを含む過大な要求をしてきた
5)しかし、蒋介石も日本がロシアに譲歩して山東半島を返還した過去もあるので、日本との講話も可能と考え始める
6)ハシゴを外されそうになった毛沢東がコミテルンのディミトロフ書記長に蒋介石が日本に投降しようとしていると報告
7)しかし、松岡は蒋介石との交渉を打ち切り汪兆銘政権を承認。「破産したイギリスの総資産」を山分けする方向に舵を切った
などによって破綻した結果なんだな、とさらに細かいところがわかりました(pp276-283)。

大木毅先生の「日本と独ソ戦(新書余滴)」のURLは以下です。

https://www.iwanamishinsho80.com/post/japan_easternfront

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