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December 21, 2019

『中華の成立 唐代まで(シリーズ 中国の歴史 第1巻)』渡辺信一郎、岩波新書

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 「はじめに」が悠揚迫らぬ筆致で《端的にいえば、本書は、古代中国の通史の書きかえをめざしている。その成否は、読者の判断にゆだねたい》と締める自信のほどがうかがえるけど、素人ながら読み進むうちに、それほどかな…と思うようになりますが、もちろん蒙を啓かれれるところは多い本でした。

 秦はやっぱり画期的だったんだな、と改めて教えてくれます。前409年に初めて吏に、翌年には百姓に帯剣を許すとともに初めて穀物に租税をかけたわけですが(史記、六国年表)、これらの改革によって租税を媒介に統治者集団と被統治者集団とを構成し、県制とともに戸籍による百姓・小農を再編して、他国の血統による属的結合の軍を打倒していった、と(p.61)。

 荀子は孟子の「労心と労力」の分業論を発展させ、社会的分業による相互依存で群が成り立っていると説き、さらに人間を道に詳しい君子と物に詳しい小人に分類。君子は礼楽、小人は法制によって統治する、と秩序化を主張する王権・官僚制体系は血縁的系譜の解体から生まれたというあたりは(p.70-)、《荀子は中人以下を論じていて、どの階層に焦点を当てるかが異なっている。同じ国家に両者の議論が混在することも可能であり、いわば「棲み分け」の議論をしていたのである》という『都市国家から中華へ(殷周 春秋戦国) (中国の歴史 2)』平勢隆郎、講談社のp.307以下の説明とほぼ同じというか、これが定説になってきているのかな、とか。

 ここらあたりの精神につながるのが「均田之制」の均の意味。均には一律とは正反対の差等・区別・次序を含む、と。この最北等をもう均平は階層分化と社会流動性の高い前漢の農村社会を維持していく実践的思惟だった、と。

 紹介されている幼くして父を亡くし車牽きから県長となった任安は、差等をつけた分配、年齢階梯を区別して難易度を異にした人員配置で「知略有り」と評価されたのですが、前漢初期の宰相陳平も、祭肉・食物を貧富・貴賎・長幼を斟酌し、均等=差等をつけて分配したことで評価を受けた、と。《個別均一に分配することは、子供でもできる》わけで、これは社会的流動性の高い社会構造のなかで、均衡・調和ある秩序を創発するための《根底的原則であったと言える。「均田之制」はこのような社会を基盤にして発見され》《不断に再建がここみられる》というあたりはなるほどな、と(p.124-)。

 中共の目指す中国の夢が、ディストピア的なものを感じるのは、昔から中国の国政がこうした「漢魏故事」を元にしていて、民衆も平等などは諦めているからなのか、とまで考えさせられました。

 王莽の政治に限界を感じた人々は漢王朝の再興を掲げて反乱を起こし、赤眉の乱ではくじ引きで皇帝を選んだりしたけど、高祖の八世孫の光武帝が各地の乱を平定。後漢皇帝して即位したんだけど、楽浪郡あたりでこうした混乱ぶりを聞き、すかさず朝賀使を送り、金印ゲットの奴国は相当な遣り手だなとも。

 則天武后が行った封禅には白村江の戦いに敗れた倭国と旧百済の使節も儀礼に参加、その後の混乱を平定した玄宗の封禅にも日本は参列したというのは知りませんでした(p.202-)。

 あと、李世民から中国皇帝は可汗(カーン)の称号も名乗っていたとは!

 日本史にも想いをいたしました。王莽は幼帝を次々に擁立して最後は「天命が下った」と皇帝の座を禅譲させたのですが、この禅譲システムは皇位を簒奪する名目なのに、日本では天皇家を王家として強化するシステムとして幼帝を践祚させて、自分は上皇となって自由に遊びまくるとアレンジするのは凄い。しかも天から民衆の統治を委任された皇帝という生民論も顴骨脱退して、自分が皇帝=天皇より上の上皇になっちゃうし、民衆の統治なんかもほったらかして宮廷内の恋愛だけに邁進する。この理念のなさ、利用できるものは何でも利用してしまうというアレンジ能力は「それちょっと違う」という本場からの指摘がなされないからだろうな、とか。中共だって天下概念と生民論が統治の正統性のバックだから、その理念に抵触するようなことをせざるを得ない場合には躊躇するけど、日本の場合、理念などないというか信じてないので、全ては「型」に収斂してよしとするのかな、みたいな感じといいますか。

 シリーズ中国史は以下のように刊行されますが、単なる時代ごとに追っていくというのではなく、地域ごとの歴史を重視して、華北、江南、草原と描いて、それが明朝で統合されていく、という方向性なんでしょうね。

第1巻『中華の成立 唐代まで』渡辺信一郎
第2巻『江南の発展 南宋まで』丸橋充拓
第3巻『草原の制覇 大モンゴルまで』古松崇志
第4巻『陸海の交錯 明朝の興亡』檀上寛
第5巻『「中国」の形成 現代への展望』岡本隆司

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