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December 22, 2019

『戦国の軍隊 現代軍事学から見た戦国大名の軍勢』西股総生、学研

Sengoku-no-guntai

 呉座勇一先生推薦の「呉座勇一が選ぶ日本の戦の本6冊」で紹介されていた『源平合戦の虚像を剥ぐ』川合康・講談社学術文庫が面白かったので、こちらも読んでみました(角川ソフィア文庫にも入っています)。戦国時代の合戦というとNHKの大河ドラマや映画では騎馬隊による突撃シーンが映えるので、そんなシーンを想像しがちですが、『源平合戦の虚像を剥ぐ』と『戦国の軍隊』を読むと、在来馬の馬格が貧弱な日本での騎乗馳射戦は一騎打ちの平安期が主流で、兵士の大量動員が求められるようになった源平合戦時代には、そうした芸に秀でてなくても馬なら射てるので、落馬させてからの組打ちへと変化。さらに打物(刀な長刀)戦へと進化し、戦国時代になって築城技術が向上して鉄砲が普及してからは、重装歩兵としての攻城能力が求められるようになった、という流れが理解できました。

 平安時代の日本は本格的な対外戦争を経験してないため、王朝国家は公的軍事力の管理・運営を事実上放棄、動員が必要になったら地方に勃興してきた武士を集めて編成するという「民営化」方針をとった、という説明も初めて読む感じで面白かった(p.55-)。

 横浜スタジアム近郊には小机城という割と有名な城があり、後北条氏の小机衆が押さえていたのですが、資料を分析すると知行地は他の地域にも広がっていました。こうした分析から、戦国時代末期になると、動員をかけられた場合、必ずしも知行地の農民を徴用するのではなく、村々がこういう時に養っていたあぶれていた無宿者などをかき集めた、というあたりにもっていく説明はなるほどな、と。

 川中島の合戦の合戦時期から、すでに兵農分離がなされていて、合戦は農閑期に行われるものではなくなっていた、というあたりも説得力がありました。戦国期には地ばえの領主や有力国衆など旧来の領主たちも淘汰され、土地が武家政権で集団保障されていれば、土地に密着する必要はなくなっていった、と(p.88-)。

 また、鉄砲普及の背景を、足軽部隊を整備して兵種別編成へと舵を切った戦国の軍隊にとって《人並みの膂力と視力を備えた者なら、誰でも戦力に加わることができる兵器》だったから、という説明も初めて聞きました(p.143)。

 全体のまとめは以下のようにされています。

..........Quote.........

 十五世紀の後半から十六世紀の前半にかけて、日本の封建社会における軍隊では、兵種別編成方式への胎動が起こり、これと同時進行で軍事における階層構造(戦略から戦技までの)が明確に分化していった。戦国大名たちは、被支配者階級を足軽・雑兵などの下級歩兵として大量動員することによって、組織戦に適応した兵種別編成方式の軍隊を成立させる、という軍事上の劇的な革新を成功させていった。

 封建制社会における軍隊の正規構成員は、主君から所領・知行を給付されて主従関係を結ぶ領主(=武士・侍)であったが、戦国の軍隊に大量動員された足軽・雑兵などの下級歩兵は、本来そうした封建制的システムの枠外にある、という意味において非正規雇用兵と言うべき存在であった。

..........End of Quote(p.250-).........

 そして機を見るに敏でしたたかな武士たちは、こうした軍事革命(RMA)で貴族や寺社から権力や経済力を奪い取り、絶対王制や市民社会を準備することなく、封建制社会を壊さない中での再編に留めた、というのが筆者の結論です(p.254)。

 大動員された戦国時代の兵士たちも、総崩れになると、主従関係に結ばれた一握りの侍しか主君の周りにはいなくなる、というこれまたよく時代劇で見るシーンは、こうしたことが背景なのかな、と。つまり、大半の雑兵は非正規なので命あっての物種とばかりに敗勢となると逃げだし、一部の侍しか踏みとどまって戦わなくなる、みたいな。

 このほか、ドイツ軍将校がヒトラー暗殺に傾くのはノルマンディー上陸作戦後に補給線の伸びきったパットン率いる第三軍の側面を突く作戦が失敗して勝機が失われたためだとか(p.68)、横浜線橋本駅が最寄りの津久井城も本格的な山城らしいので、いつか登ってみたい(p.88)。

 また、アイゼンハワーが第2次世界大戦で決定的に重要だった兵器として「ダコタ(C-47輸送機)、ジープ、原爆」と答えたそうで(p.192)、クレイフェルトの『補給戦』によると、万全な兵站が実現するのはノルマンディー上陸作戦以降だとしているそうです(p.212)。

 戦国時代の兵士たちもらった米も酒にしてしまうなどの刹那的な行動で常に飢えていたというあたりも新鮮でした(p.214-)。

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