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November 06, 2019

『20世紀アメリカの夢 世紀転換期から1970年代』中野耕太郎、岩波新書

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 シリーズ アメリカ合衆国史の3巻。中国史、西洋史、日本史などと比べると「浅い」と感じてしまいますが、停滞してる国の歴史よりダイナミック。日本もそうだけど、左右のブレが大きく、しかも戻りが速い。自分たちの底の浅さを補おうとする健気さも感じられて「可愛い」歴史というイメージです。

 『20世紀アメリカの夢 世紀転換期から1970年代』では、アメリカ流の合理的な社会の改善策が実行される中で、そこからこぼれおちた貧困など様々な問題がエスノ・レイシャル(Ethnoracial、人種・民族的)な問題だと解釈され、黒人差別などが1960年代まで解決されなかったことが描かれているとも感じました。

 そして、ニューディーラーたちが目指したエスノ・レイシャルな問題を除いた「偉大な福祉国家」が実現したのは、テキサス出身ながら若い頃からの根っからのニューディーラーだったジョンソンが引いた後に大統領となったニクソンだったという評価は驚きました。考えてみれば、ニクソンは「名誉ある撤退」というキャッチフレーズでベトナム和平を公約して大統領選挙を戦いました。意外と民主党政権は好戦的で、中東からの撤退を進めるトランプや古くはアイゼンハワーも含めて共和党政権は意外と平和志向なのかもしれません。

【はじめに】

 テキサスで史上最大級の油田が発見され、モルガンとカーネギーはUSスチィールを合併。再選されたマッキンリーが暗殺され、米西戦争の英雄T・ローズヴェルトが42歳で大統領になったのが1901年。年末に発表されたローズヴェルトの年次教書は暗殺犯だったアナキスト排除で治安ナショナリズムをうたい、良質な移民の選別を志向。フィリピンについては米国が支配しなければ「人々を残酷な無政府状態へ堕すことになる」と正当化。パナマ運河やカリブ海諸国でも「人類の国家警察」の役割を担うことは、モンロー主義の発展としました。また、社会的なという意味のsocialを16回も使っていることも特徴。これは自由放任と地域コミュニティまかせの共和主義からの大きな展開で、20世紀のアメリカは総じて「大きな政府」を選択してきたというあたりはなるほどな、と。

 実は、ニクソンがニューディール以降の福祉国家を完成させたという後半の指摘には感心したのですが(「小さな政府』が支持を集めるのは1973年から)、そうした大きな政府のセーフティ・ネットから抜け落ちた黒人差別の問題は60年代半ばまで浮上せず、国内の差別問題も解決できなかったことはアメリカの外交政策の足かせにもなっていた、と。

【第一章 革新主義の時代】

 19世紀に繁茂した「アメリカの自由」に対して、20世紀のアメリカは積極的に修正を試みる革新主義の時代に入った、と。ワイルの『新しい民主主義』では財産権への固執が問題視されたほど。しかし、貧困が社会的な問題として意識されると、それはエスノレイシャル(Ethnoracial、人種・民族的)な問題だと認識され、投票要件に識字テスストが導入される結果につながる、というのは清廉さが黒人差別などの問題を先送りしたことにつながる、という指摘になるのでしょうか(p.17-)。地獄への道は善意で舗装されているとは良く言ったものですが、NAACP(全国有色人種向上協会)も異人種間結婚に反対する立場でした。

 リンカーンによって奴隷から解放された黒人は、南部では再び人種隔離が強まり、北部の工業地帯に移動すると白人労働者から敵視される八方塞がりの状況になります。映画『イージーライダー』で撮影された南部の黒人居住区は、まるでアフリカの開発途上国のスラムのようで驚きましたが、そうした状況は長く放置されることになります。

 理想主義的な革新主義は国内でこうした矛盾を抱える一方で、対外的には帝国への道を歩せます。

 1902年にベネズエラは経済破綻し、欧州列強は海上封鎖を行いますが、ローズヴェルトはこれをモンロー・ドクトリンに対する挑戦と受け止め、地域の公益のために秩序維持のための行動をとる方向に動きます。それは西欧のような垂直統治的な支配ではないものの、親米的な政権育成と軍事拠点のネットワークづくりを目指します。そしてフィリピンやドミニカなどの破綻国家での改良事業は、やがてアメリカ国内にも影響を与え、それは貧困対策だけでなく、保安ノウハウの蓄積はFBIやCIAも生む、と。


【第二章 第一次世界大戦とアメリカの変容】

 オアフ島真珠湾の軍事要塞化、パナマ運河の完成はアラスカ-ハワイ-パナマ-カリブ海の防衛ラインを生みます(p.47)。

 第一次世界大戦に参加した契機は巷間言われるルシタニア号撃沈ではなく、パンチョ・ビラの反乱や南アメリカとの世界秩序づくりにドイツが邪魔で、専制的なツァーリも倒れたので民主主義の戦争というお題目を唱えやすくなったから、という指摘はなるほどな、と。ルシタニア号撃沈によるドイツへの復讐感情からの参戦は、後のプロパガンダによって書き換えられた集合的記憶だ、と。

 ウィルソンは1916年の選挙で組織労働との提携を行い、総力戦体制と必ずセットとなる福祉国家を実現させる方向で、徴兵制に道を敷きます。鉄道や鉱山などは国の管理下におかれ、国内諜報による監視体制強化とともに、戦時国家を背景に企業が労働協約を結ぶように促します。「明白かつ現存する危機」があれば憲法上の市民権も制限可能だという考え方は、ここで出てきます。

 当時の徴兵制は1)登録2)免除3)抽選という三段階で抽出されましたが、「父親」が免除される条項に入ったことは、専業主婦を拡大したり、月50ドル以下の賃金では家族を扶養できないので、小作人や日雇い労働の黒人が多く選抜されるとにつながります。また、地域の名望家はこうした選抜の生殺与奪権を持つことで、古い権威が新しい改革主義に浸透してきます。

 労働力不足の北部に黒人たちは移動しますが、白人労働者が150人をリンチ殺人したことに端を発する人種暴動なども発生していたとは。

【第三章 新しい時代 一九二〇年代のアメリカ】

 それでも、黒人兵士は歴史的にアメリカ正規軍の精鋭だったそうですが、戦後は非白人の不動産取得禁止が広がったり、労働運動に対しても反動が蔓延します。いったん撲滅されたKKKも映画『国民の創生』の影響を受けて復活。第2次KKKは反移民も掲げますが、新移民の到来前の1890年以前の状態に戻す動きが広がり、イタリアやポーランドからの移民も制限されます。しかし、ホワイト・エスニックが少なからず「白人の報酬」を受け取れたものの、アジア人は帰化不能外国人となっていきます。

 コミュニティが活力を失い消費のもたらす快楽と宣伝によって受動的に結びついただけの大衆文化は、主体的なコミットメントを必須とする民主政治と両立できるか?とアパシーが1920年代に問題視されていたのですが、こうした状況は100年前と変わらないな(p.108)、と。

リップマン『世論』の
・大衆は自分が望ましいと考える疑似環境を創作し始める
・たいてい定義してから見る
・そうして得られる情報はステレオタイプ化された歪みと断片化を伴う
あたりも100年前と一緒(p.109)。

 ワシントン体制の平和は現状維持を強いるものと中国のナショナリストからは受け取られ、反帝国主義を主導する国民党が25年に政府を樹立、北伐を開始します。九カ国条約加盟国は関税などを個別に交渉することになりますが、元々、ワシントン体制に不満を持っていた日本は反発、31年には満州事変を起こします(p.118)。アメリカのフーバー政権は日本を批判しましたが、軍事行動で応じる気はなく、満洲国の建国を許すことに。アメリカが掲げた相互依存理念、普遍主義は現実的な対応能力を欠いたbyアンブロシウスと評されますが、国際秩序はアジアでは中国のナショナリズムと日本の帝国主義、ヨーロッパではドイツから挑戦を受けることになります(p.119)。

【第四章 ニューディールと第二次世界大戦】

 1938年、非米活動委員会なる反共、反リベラルの調査機関が下院に創設され、ニューディールの芸術家支援プロジェクトを攻撃の対象とするなど過酷に抑圧って、あいちトリエンナーレに補助金出さないとかにソックリ。右翼は洋の東西を問わず似たような性癖を持つな、と(p.152)。

 「(経済的な)セキュリティの要求こそが現代人の生活の中心的な論点だ」とCIOの幹部が発言する方向に労働運動も変化していき、ニューディール政策以降は半世紀にわたって連邦最高裁は社会保障法について違憲判決を出すことはなくなります。ニューディールはいったん最悪な景気後退を経験しますが、参戦によって1942年にはバブル景気となり、10年以上続いた景気後退はついに克服された、と。

【第五章 冷戦から「偉大な社会」へ】

 黒人運動からするとニューディール・リベラルや労働組合は信頼に足る提携相手ではない状況がつづいたが、トルーマンが再選のため人種問題を取り上げて勝利したことは、民主党の地盤だった南部を共和党支持に移行させる一方、共産主義封じ込めを強化
します。一貫してアメリカ政治を担った民主党は、妙に理念的な外交を展開してきましたが、こうしたところを共和党穏健派を背景とするアイゼンハワーは批判、当選します。

 当時の大衆社会を評する『孤独な群衆』(リースマン)という表現は、いまも当てはまる気がします。伝統指向から内的指向、そうして他人指向へと社会が変遷する中で、自分の可能性に目を向けようという解決策も大して変わらないな、と。

【第六章 過渡期としてのニクソン時代】

 メディケア、メディケイドに多額の資金を投入して、事実上、ニューディール政策を完成させたのはニクソンだったという指摘は新鮮でした。そういえばニクソンはベトナム戦争終結を訴えて当選したんだったな、と。

【おわりに】

 トランプは「忘れられた人々」といレトリックをつかっていますが、これはローズヴェルトが「経済の最底辺にいる人々」、ニクソンが「カウンター・カルチャーの台頭に不安感じるサイレント・マジョリティー」という意味で使ったことに続くものという指摘も面白かった。トランプが、学校間の競争を促す目的のschool choiceについて、格差が拡大するとして反対している民主党のウォーレン候補に対して「自分の息子はエリート私立校に通わせたくせに」と揶揄していることを思い出しました。

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