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September 15, 2019

『熱学思想の史的展開3』山本義隆、ちくま学芸文庫

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 東日本大震災当時に読んでいた時は、読み飛ばしていた注と文献表に後に収められている「あとがき」「再刊にあたってのあとがき」をじっくり読むことで、山本義隆さん自身の近代科学史三部作との関連性がやっと理解できました。再読大切。

 ギルバートによる地磁気も含めて、当時の科学は《生活環境としての地球を理解するためのもの》という志向があり《熱学的世界像は力学的世界像にならぶ一個の独立した自然観を与え》た、というあたりは、三部作との関連を感じさせます(p.336-)。カルノー、フリーエ、トムソンなども熱循環が人間生活と生命活動に重大だと考えていた、というあたり。こうした志向と、ガリレオがアリストテレスのように直接的経験に寄り掛かるだけでなく、経験を一歩超えたところで成立させ、数学化された自然科学が可能になった、と(p.312-)。

 ギルバートは不活性な地球というアリストテレス以来の自然観を破壊したのですが、熱を物質としてみた熱素論は、熱を原動力としてみたところから発展しいていく、という流れがなるほどな、と。ゲイ=リュサックは気球に乗って大気を収集したみたいな身体を張った研究姿勢にも感動しました。

 1840年代に熱は物質ではなくエネルギーの一形態だと分かるんですが、そのエネルギーの移動は仕事とは異なった特殊性を持ち、第二法則として原理化され、そして第二法則は自然界の核心は非可逆過程が存在することにつながります。

 しかも、熱によるエネルギーの移動は、仕事と異なる、と。この非可逆性は古典力学の可逆性と顕著な対比をなす、なんていうあたりもなるほどな、と(p.393)。

 《熱が物体にもたらすものは、本質的にはエントロピーの増大であり、それが気体の場合には膨張として現れるが、ゴムひもでは収縮として現れる》(p.107)のであり、熱と仕事は単純に等価ではなく、他のエネルギーのように交換可能ではなく、温度差が必要で、高熱源の一部が仕事に変わり、残りは捨てられる、と(p.144)。

 簡単にエントロピーは増大すると自分がさも考えたように扱ってきましたが、こんなにも長い人類の精華たちによる思索と実験の果てに見出された概念なんだな、と。

 《「エントロピーは統計力学で初めて理解できた」というのが、多くの物理屋の口にする台詞である》というなところも、読み飛ばしていた時は理解できませんでした(p.385)。

 このほか、わがエンゲルスは当時の科学を自分で演繹して、さまざまな仮説を書き散らしていたんですが、『自然の弁証法』でも、トムソンの絶対温度の定義を誤解したマクスウェルの著作から引いているようなあたりには苦笑させられました(p.129)。

 

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