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August 16, 2019

『武器としての世論調査』三春充希、ちくま新書


 最初に知ったのは東洋経済書評欄。温暖で稲作に適していた西日本は地縁や血縁など共同体が強く、地域密着型の投票が行われるため与党有利だが、明治以降に形成された都市は野党有利。若年層は自民党支持が多いのではなく、野党支持が劇的に減っただけ。新聞社ごとの選挙速報ランクや、「ややリード」などの用語の真の意味の解説もあるということで、読んでみました。

 やはり面白かったのは東西で与党列島と野党列島に分けられるという指摘。これは佐藤進一先生以来の日本中世史の東国国家論を現在も反映しているとも言えそう。元々、三春充希さんは理系の研究者だったらしいけど、データ分析を進めると、東大史学の日本中世史の東国国家論が浮かび上がるというのは凄いな、と。東国国家論は中世に西から独立した東の武家勢力がやがて全国の公家・寺社の荘園を侵食していくという過程ですが、網野善彦先生の東国論にも触れつつ、そうした東西分裂が今でもクッキリと投票行動に現れているという指摘は驚愕しました。

 今は権門体制論の方が強いんで、東国国家論の東大史学が喜んだりして、などと俗なことも考えてしまいました。

 何が良い方向なのか分からないけど、まず社会の姿をキチンと捉えられないと、歪みを押し付け合うようなことが続く、みたいな言い方も好感が持てます。小熊英二の『社会を変えるには』が鬱状態からの復帰の途中でデモに触発されたとか「中学生か!」みたいなことを発端としているのと違って頼もしい。

 三章では、選挙ブーストの話しが面白かった。選挙前になって各党の支持率が上がるのは、無党派という政党がなく、必ず既存の党に投票しなければならないから。この選挙ブーストは報道、資金面でも有利な与党と野党第一党に効くというのは納得的。維新など新党は選挙を重ねるごとにブーストが弱く飽きられている傾向にあるというのも、これまでの選挙ウォッチからは正しそう。

 ただ、維新は関西圏に地盤を固めたような気もするし、与党列島と野党列島という言い方も維新や新党大地、小沢一郎の強い山形を果たして野党に入れるかどうかという問題も含んでいると思います。与党=保守、野党=革新という昔ながらの図式で考えると「ほとんど保守列島じゃない」とも読めるわけで。

 日本の世論調査や報道の分析だけでなく、米国にも言及。トランプへの抗議デモは都市で発生するから比較的取材しやすいので、報道量も多くなるが、アメリカには投票所に行くには何時間もドライブしなければならない土地も少なくない。トランプはそうした地域で集会を開いて、クリントンを圧倒したとして、トランプ支持は大陸だったが、クリントンは諸島だったというのは納得的。

 都市部は駅前などで多くの人に訴えやすくポピュリズム的手法で煽られる無党派層を取り込みやすい、というのは青島、ノック、石原、橋下、小池の勝利を説明したどんな分析よりも納得的。今回の「れいわ」も同じように駅前でのパフォーマンスが多かったのは、そういう分析があったんだろうな、と。熱が冷めるのも速いとは思うが、本当は減少過程に入っているべき維新が今回の参院選で盛り返してるので心配です。

 《少子高齢化を決定的なものにしたのは1990年代の政策です。これは取り返しがつかないほと重い問題》という指摘も大切(p.141)。よく「れいわ」などのポピュリストが小泉・竹中改革を見当違いに批判するけど、こっちの方がより問題です。だいたい総理総裁が経済失策で辞任したのも橋本首相だけだったし、それほどミスマッチの政策だったんだな、と。

 《選挙では個別の政策への意志を満足に示せないからこそ、それを行うデモを民主主義は確保するわけです。ですから「選挙で代表を選ぶ」「デモで政策への意見を表明する」というように、選挙とデモは異なる機能を担う》というのは民主主義における投票行動と直接行動についての簡潔で見事なまとめだと思います(p.177-)。

 55体制以降に中選挙区での総選挙は13回、小選挙区でも8回になもなっているんだな、とp.199の表をみて思いました。どんな制度がいいのか思いつきませんが、もうそろそろ、新しい方式を変えた方がいいかもしれないな、と。

 新聞の情勢分析では、書かれている候補者の順番がそのまま事前調査を反映しているというのはハッとしました(p.219)。

 

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