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May 16, 2019

『砂糖の世界史』川北稔、岩波ジュニア文庫

 シリーズアメリカ合衆国史1『植民地から建国へ』で大西洋貿易のことが書かれていたのですが、8レアル銀貨など通貨に関して以外は岩波ジュニア新書の『砂糖の世界史』川北稔で書かれていたこととあまり変わっていないのかな、と思い再読してみることに。ちょうど、この本を読んだ頃は、大学院に行く準備やNiftyや草の根BBSの退潮などもあってメモなどもネットに残していなかったので、ちょうどいいかな、と。

 この本は「世界商品」である砂糖の生産から消費までを大航海時代、植民地、プランテーション、奴隷制度、三角貿易、産業革命と関連させて描いたもので、キーワードはトリニダード・トバゴの初代首相であったエリック・ウィリアムズの「砂糖のあるところに奴隷あり」でしょうか。

 反対に世界商品(Staple)でないのは例えば中世ヨーロッパの毛織物。イギリス人はアジアやアフリカまで毛織物を持っていっても売れませんでしたが、こうした地域に鉱山、農産物に「世界商品」があったので産業革命に偶然つながった、と(p.6-)。

 当時、最も進んでいた《イスラムの医学では、砂糖はもっともよく使われる薬のひとつで《結核など10種類以上の効能が期待され》(p.9)《「砂糖はコーランとともに」西へ西へと旅をした》(p.14)そうです。しかし、砂糖きびの栽培は土地が荒れ、原液となるジュースを素早く絞り出さなければならない精糖の加工過程も奴隷労働が必要なほど規則正しい集団労働が必要だった、と。

 また、スペインには南北アメリカに広大な植民地を持っていたものの、奴隷はアフリカに植民地を持つポルトガル、イギリス、フランスから買うしかないという構造から大西洋を結ぶ三角貿易が生まれました。イギリスの場合、黒人のベニン王国が求める鉄砲などと引き換えに、狩った黒人を奴隷として購入し、南北アメリカやカリブ海の島々で売り、そこで取れた砂糖をリバプールに持って帰る二か月以上の航海が盛んになります(p.54)。それは《無事にアジアから帰還すると、船ごと売り飛ばして売上金を山分けしてしのうような、一時的な性格のつよいもの》だったそうです(p.83)。

 また、砂糖がヨーロッパで広まるにはトマス・アクィナスが断食の際にも食べることができるとしたことも影響したといいます(p.65)。さら
に、後にチョコレートも同じ論法で是認されますが(p.134)、当時は超高価だった砂糖で城のミニチュアをつくり、それをパーティで披露した後、壊して食べるということが流行ったといいます(p.68)。まるでポトラッチ。人間の根源的な欲望の姿を感じます。

 紅茶に砂糖を入れて飲むことはイギリスで始まり、ジェイムズ一世が身分によって消費生活を規制する法律を全廃することで上流階級から労働者まで広まっていきます(p.77)。こうした結果《イギリスでは茶は葉っぱ一枚も採れないのに、私たち自身、紅茶といえばイギリスやイギリス人を思い浮かべるようになったのです》(p.81)。このことは「世界が近代世界システムでひとつになった」ことを意味し(p.171)、商業革命、産業革命は、こうした世界システムの上に成立した、と(p.172)。

 紅茶は家庭でも簡単に入れられるたことがイギリスでひろまった原因というのも笑えますが(p.129)、いまでもイギリス人はカロリーの15-20%を砂糖からとっているそうです(p.157)。砂糖入りの紅茶はカフェインを含む即効性のカロリー源として労働者にも広まっていった、わけです(p.167)。

 とにかく、世界商品は莫大な利益を生み、18世紀を通じてイギリスとフランスは第2次百年戦争とも呼ばれるような戦いを繰り返します(p.143)。

 クロムウェルがカトリックのスペイン王室に一泡吹かせるために1655年に占領したジャマイカは砂糖きび栽培で莫大な利益を生みましたが、精製過程の残りかすを使ってラム酒もつくられます(p.148)。

 アメリカ独立と砂糖、奴隷禁止をめぐるみにくい争いなどの「第8章 奴隷と砂糖をめぐる政治」も必読でしょう。

 人物を中心とした歴史はいくらでも書かれていますが、本書のようにモノや世界のつながりで歴史をみることは大切だな、と(p.206)。百田某のハチャメチャな日本国〇などが読まれて、岩波ジュニア新書の遅塚忠躬『フランス革命―歴史における劇薬』や本書などがなかなかチョイスされないのは寂しい限りですが、高校に入学するような知り合いのお子さんがいたら、ぜひプレゼントしてあげてほしいな、と。

 また、川北稔先生はalicで「世界の砂糖史」を13回にわたって連載しています。こちらもぜひ。

https://sugar.alic.go.jp/tisiki/ti_0504.htm

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