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March 21, 2019

『軍事の日本史』

『軍事の日本史 鎌倉・南北朝・室町・戦国時代のリアル』本郷和人、朝日新書
 遠征に備えて花粉症の季節でも肩の凝らない本を、ということで、新書を量産している本郷先生の『軍事の日本史』をチョイス。
 相変わらず、東大史料編纂所で『大日本史料』を編纂している史学保守本流の大教授とは思えない軽妙な書き出し。
 史料編纂所で講義、ゼミを持たなくていいという特権を確保しているから、執筆、テレビ出演などもこなせるんだな、と思うと同時に、本郷さんへの嫉妬をたぎらす先生方の気持ちもわかるw
 戦国時代は生き残ればしめたもので、信玄のように一生かけて信濃一国を奪えば後世に名を残す。しかし、信長は尾張をまとめるのに時間はかかったが、34歳までに美濃、北伊勢という列島の中でも生産性の高い土地を領地に組み込んだ。信玄の60万石に対し合わせて150万石というあたりは説得力があります(p.79-)。
 武田信玄がやったことといえば、北信濃の領有を巡って謙信と戦ってなんとか確保した、という感じですから。しかも、生産性はあまり高くないという。
 戦国時代の兵力は百石で2.5人が養えるから、40万石でざっくり1万人。しかし、それは農閑期の農民も動員してのことだから、幕末のように兵農分離が進んで250年もたつと薩摩でも4000人程度になるという数字のリアリティは説得力があります。
 東大史学で佐藤進一、石井進の系譜を継ぎ五味文彦先生に師事した本郷和人さんですから、観応の擾乱から「将軍権力の二元論」(軍事と政治の二つから成り立っているが軍事の方が優先される)についてページを割いてキッチリ説明しているのは、最近の若手研究者たちからの批判への苛立ちか?と微笑ましくなります(p.107-)。
 さらに呉座『応仁の乱』について《地味な戦いが、何の目的もなくただダラダラ続いた》と要約。《戦国時代の戦いに比べて、室町時代の戦いは、一言で言って「ぬるかった」》と亀田『観応の擾乱』に続いて、中世史のベストセラーをdisり気味に紹介してから持論展開。なんとも面白い(p.139-)。
 確かに本郷先生は毎月のように新書を出していて、さすがに書きすぎなんじゃないかとは思いますが、例えば、曳馬という地名を不吉として浜松に名を変えた家康は、湿地帯で「汚れた土」という意味の「江戸」は変えなかった。それは厭離「穢土」の旗印に通じるから(p.243)というあたりはうなりました。家康は利根川を付け替えて銚子に流すようにして広大な水田地帯を作ったんですけど、そこには経済合理性とは別の精神性もあったんだな、と。
 とにかく呉座、亀田という若手研究者の著作をdisり気味に紹介して佐藤進一、石井進の本流への批判を再批判しているんですが、あとがきではさらに網野善彦先生の『無縁・公界・楽』を実は「あ、これは『強い人』の歴史観だ!」と網野財閥出身の善彦先生が一番嫌うような批判の仕方で切って捨てています。
 東大史学への批判は許さじということでしょうか。
 そんな下世話なことも含めて実に面白い本であることは間違いありません。

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