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February 20, 2019

『承久の乱 真の「武者の世」を告げる大乱』

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『承久の乱 真の「武者の世」を告げる大乱』坂井孝一、中公新書

 兄妹が人間の始祖となるという神話は、インド南部、中国の南西部や東南アジア、台湾、沖縄、奄美、南九州、四国をはじめ列島の全域、それからミクロネシア、ポリネシアなどの島々に分布しているといいます。こうした神話を持つ地域は「母系」優位の初期社会を持ち、それは「母」と子ども、「母の兄弟」と子どもという系列で親族組織が展開されます。これは十ヵ月の空白を超えた性行と出産の関わりを認識できなかったから、といわれていますが、その議論はさておき、父親の親和力を維持するためにも、「父」の息子と「父」の姉妹の娘とを幼児のうちに婚約させる交叉いとこ婚が普及していきました。交叉いとこ婚によって父は1)自分の所有物を与え2)家族的な親和力も充たし3)じぶんの氏族の相続者に対する譲渡も矛盾なく両立させることができる、というわけです。

 レヴィ=ストロースはこうした一定方向に女性が交換(移籍・移行)する婚姻規則と、贈物が受け渡される互酬性によって、複数の集団をつなぐ社会統合が構築されていると考えると同時に、インセスト・タブーも生まれたと考えました。

 女性の交換によって内/外の意識が生まれると同時に、父型交叉イトコ婚は二つの親族だけで完結する交換活動なのに対し、母型交叉イトコ婚は必ず三親族以上が関わるシステムが出来ます。レヴィ=ストロースは父型交叉イトコ婚は「限定交換」、母型交叉イトコ婚は「一般交換」となり、普遍性がある、とします。

 マリノウスキーは、母型交叉イトコ婚の社会で一夫多妻が生まれると富の蓄積が始まるという議論もしていたと思いますが、吉本隆明は、アジア的デスポチズムは父(夫)が母系からの霊威も集積されるところから生まれる、とも展開していました(『母型論』)。

 今回の旅行では『承久の乱 真の「武者の世」を告げる大乱』中公新書、坂井孝一をお供にしていたのですが、本論はさておき、日本社会が母系であり、パターナリズムが原則である儒教の浸透が浅いレベルに留まったのは、中宮(皇后とほぼ同格の天皇の后)とか、乳母子(めのご、乳母の実子)などの母系の固有名詞の多さからも分かる感じが改めてしました。

 日本はアジア的専制でも、母系社会。母型交叉イトコ婚による母系社会の維持と父親系統の関与で、互いの財産が最大になり、共同体も最大になるような社会が基礎。

 だから律令制度でも公地公民は貫徹されず、一君万民の考えも浸透せず、荘園制度が発達し、法律より因習が優先されていったのだと思います。そして、律令制度という借り物の法体系ではなく、日本独自の法律ができたのは、天皇制より武士が上位に立った、承久の乱の後の御成敗式目から、につながるのかな、と。

 考えれば考えるほど、承久の乱というのは、日本史の中でも画期的な革命です。幕府の将軍でもない北条家が、上皇三人を流罪にして、次期天皇の選定も、武士のものにして、荘園も解体させていったんですから。

 もっとも、坂井先生のこの本は文学的な読み込みから、実朝は後鳥羽院に心酔し、皇子を次期将軍に迎えることを熱望しており、地方の卑しい一族である北条氏にとっても、貴種を迎えて掌中に抱えるのが最善だった、という見立てがメインです。それが、公暁による実朝暗殺によって破談となり、不安を覚えた後鳥羽院が強引な北条義時の排除という限定的な目的で承久の乱を起こして失敗した、となります。

 北条氏は比企一族や和田一族のような目にあってもおかしくなかったわけですが、北条政子は後鳥羽院の乳母である兼子が、実朝御台所の姉「西ノ御方」が産んだ頼仁親王を養育しており、この頼仁親王か宮雅親王のどちらかを子のない実朝の後継将軍にすえることを女同士で交渉するため「熊野詣で」までするのです。まさに母系社会。これが個人的には一番のハイライトでした(p.94)

 この坂井孝一先生の『承久の乱』に続いて、本郷先生の『承久の乱』も購入しました。本郷先生は倒幕の戦いとみているので、歴史学者の戦いとしても興味があります(本郷和人『承久の乱 日本史のターニングポイント』文春新書)。

 といいますか、再来年は承久の乱800年なんですね。個人的には辰之助が大河で後鳥羽上皇を演ってことを思い出します。

 あと、《三月は年貢公事の納入期限》《現代も三月は税の申告時期》ということで年度は年貢と関係あったのか…と(『承久の乱』坂井孝一、中公新書 p.127)。

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