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November 21, 2018

『中井久夫の臨床作法』

Nakai_method

『中井久夫の臨床作法』こころの科学増刊、日本評論社

 中井久夫先生の本で、これをまだご紹介していませんでした。

  『中井久夫の臨床作法』とタイトルは臨床作法となっていますが、統合失調症の患者さんに対してだけではなく、中井久夫先生の人との接し方の基本になる考え方を教えられた気がします。また、座談会の最後の方で中井先生が引用している「語らざれば憂いなきに似たり」(『禅林句集』白隠禅師)は、言語療法に対する慎重さを感じました。

 このムックは中井久夫先生の同僚、師事した多くの先生方の座談会を収録したものです。

 やや、理想的に描かれているような気もしますが、「頭のてっぺんから足のつま先まで分裂病の人はいない」「統合失調症の患者さんでも大学教授ぐらいだったらできるよね」というフラットな感覚を前提にした言葉を抜き書きしてみます。

 まず、幻覚中心の話題をはずします-中略-病的な話しでいっぱいになっていますから、こちらではむしろお通じの話とか、睡眠の話とか、寝心地の話とか、そんなことに話題を向けることも少なくありません(星野弘)

 診断は見事につけられる名医なのかもしれないけれど、患者さんは次回は来ないな思ってしまう先生もいました。
 ところが中井先生のところには、患者さんが次回必ずいらっしゃるのです(山中康裕)

 僕の経験では、僕の脈が患者さんに合うのです。初診の時は、脈を合わせるため診ているのだと思ったこともありました。
 往診するとなぜかペットがよく出て来るのです(中井久夫)

 患者さんと距離をとれというのがお題目のようになったのは、いわゆるボーダーラインの人たちのことが問題になった頃からだと思うのです。
 警察官というのは絶対に出身地は派遣しないのです。それだから「警官と市民」という限定された距離になってしまうのです(田中究)

 アメリカの学術誌に論文を受理させるためには、DSMの診断を使わないとだめといった事情があったようです(滝川一廣)

 医者に絵を描かされたことはあるけれども、医者が絵を描くのを見ていたことは初めてだと言っていました(中井久夫)

 中井先生は(僕は時々間違って描写することがあるのですが)おずおずと引かれた一本の線も、芸術家が描いたすごい塗りこめられて非常にきれいに形づくられたタブローも、哲学的には等価なのだ、ということをおっしゃったと思うのです(山中康裕)

 その人の生活が少しでもよくなったり、楽しみができたり、生活に潤いが出たりといったことが、実は病気の勢いを弱まることがわかってきます。
 今の治療は症状を捉えてやっつけて取ろうとする。その後、その人の人生がどうなっていくのか、生活がどうなっているのということを頭の中に描かずに(青木省三)

 ある国立大学で退院した患者さんがレセプト請求をして、入院精神療法1が週に三回とかついているけれど、僕はこんなに話を聴いてもらったことはないよということで、後で返還請求がきた。
 (保健師さんたちの世界でも)一歳六ヶ月健診とか三歳児健診の技術は、さまざまな業務があるために、うまく伝達ができていない(田中究)

 (日本で早期退院が多くなったのは)クロルプロマジンを日本で安く合成できるようになってからだよね(中井久夫、クロルプロマジンは興奮や妄想を抑えるドーパミン遮断薬)

 最近の精神科薬は効き目がシャープだから、症状が治まるのです(滝川典子)

 手紙は書きたくなりますから。
 風上はウィンドワード(windwad)、風上はリーワード(leeward)というのですが、その感覚は大事だと思ったのです(中井久夫)

 最近の統合失調症の患者さんも、よく居眠りできているので嬉しいですね(星野弘)

 日本語ができない人は翻訳などしないほうがいいと思います。読み手は余計に困りますから(山中康裕)

 「生活史なんか聞いて患者さんがよくなるというエビデンスがあるのですか」と聞かれたという話が、ある学界の会長講演で引用されていたのです(編集部)

 エビデンスがなければ裁判には勝てないわけで(対司法の中でDMSのような診断基準が必要になってきた、滝川一廣)

 アメリカの精神医学になぜ失望したかというと、ほとんど製薬資本と結託してしまっているからです(山中康裕)

 やはり人を支えたりということが必要な仕事をする人は、基本的には幸福感というか、自分だって捨てたものではない、自分の人生はそんなに惨めのかたまりではなかったという感覚を持っていることが必要なのです(滝川一廣)

 「語らざれば憂いなきに似たり」(『禅林句集』白隠禅師)です(中井久夫)

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