« 『アリアドネからの糸』 | Main | 『中井久夫の臨床作法』 »

November 16, 2018

『オペラ座の怪人』ガストン・ルルー

『オペラ座の怪人』ガストン・ルルー、平岡敦訳、光文社古典新訳文庫

 宝塚歌劇団の雪組公演『ファントム』(脚本アーサー・コピット、音楽モーリー・イェストン)の予習のため、原作であるガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』を読みました。すでに古典とも言える作品なので、手に入りやすい文庫版だけで3つの翻訳から選べますが、一番新しく、この手の翻訳ものでは信頼をおいている光文社古典新訳文庫版(平岡敦訳)を選択。ちなみに、2016年の第21回日仏翻訳文学賞受賞作品です。

 一読、これはフランスの横溝正史だな、と。『本陣殺人事件』が紅殻塗りの家屋だったことは、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』を影響を受けていると横溝正史自身もタネ明かしをしているようですが、ゴシック的背景で怪しい雰囲気を増幅させるという手法も『オペラ座の怪人』を連想させます。

 まがまがしい雰囲気を生んでいるのはパリのオペラ座(ガルニエ宮)そのもの。最初、地上17階と書かれていますが、その後25階に盛られいて、地下は5階という設定。

 小説の中でやたらグノーのオペラ『ファウスト』が上演されるんですが、日本で最初に上演されたのも『ファウスト』で11/24はオペラの日になっています。

 この時代はドイツ文芸のオペラ化が流行ってた時期で(ファウストはフランス語オペラ!)、そういえばCRYSTAL TAKARAZUKAのドールオペラの探偵ホフマン、人形にされたオランピアもオッフェンバックの『ホフマン物語』からとられてたなとか思い出しました。

Fantom_christine

 原作でやたら『ファウスト』が使われるのは、クリスティーヌが連れ去られる時にこの歌詞を歌っていたからで、ファントムは彼女に歌のレッスンを与える「音楽の天使」だったからなのかな。『オペラ座の怪人』はファントムがメフィストテレス、クリスティーヌがマルグリート、伯爵がファウストという『ファウスト』の本歌取りなんだな…と感じます。

  原作を読むと、エリックの顔は鼻がなくガイコツみたいな感じで描かれているので、そりゃクリスティーヌだって拒絶するわな…という感じだけど、ハッと気付いたのが、この1925年版の映画のビジュアルは、日本の『黄金バット』がパクッたんだな、と。

 エリックがオペラ座で神出鬼没なのは、建設時にガルニエから工事を請け負った石工の一人で、パリ・コミューンなどで工事が中断していた時に勝手に作業を続けていたからなんだな…、パリ・コミューンの混乱という背景は想像以上にファントム(怪人、幽霊)に影響を与えてるとも感じました。

 『ファントム』=『オペラ座の怪人』の背景となっているパリ・コミューンは偉大だな、と。フランスという当時の最新国の首都を二ヶ月とはいえ労働者が占拠したんだか。だから、いろんな逸話もうまれたんだろうな。ジブリの『紅の豚』も含めて。

 以下はミュージカル『ファントム』との比較、

 原作の『オペラ座の怪人』は貴族のシャンドン兄弟、新旧支配人はみんなダブルなんだけど、ミュージカルはそれを半分にして、三人にして単純化したんだな、ということも分かります。クリスティーヌがスウェーデン・ウプサラ近郊の農家の生まれなのにも驚く。宝塚版『ファントム』では、そんなこと言及されていませんでしたし、原作では大きな役割を果たすペルシャ人男とジニーおばさんも出てこないかな。

 クリスティーヌとエリックが地下で昼食をとる場面では、文中にトカイワインにフォルスタッフが出てくるのがなんとも宝塚に縁のある作品なのかと思う。

 ポール・オースターのように、ずっとひとりで見張っていられないという問題と、ずっと見張られているかもしれないという文学かもしれないと思う場面が出てくる。

 パリのオペラ座でマニュエル・ルグリを篠山紀信が撮った写真集があったな…と思い出したけど、絶版かな"KISHIN VS. Manuel Legris"『ルグリ・イン・オペラ』。

|

« 『アリアドネからの糸』 | Main | 『中井久夫の臨床作法』 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/67387047

Listed below are links to weblogs that reference 『オペラ座の怪人』ガストン・ルルー:

« 『アリアドネからの糸』 | Main | 『中井久夫の臨床作法』 »