« 『リスク・オン経済の衝撃』 | Main | 清元栄寿太夫の十六夜清心 »

October 25, 2018

『文選 詩篇 三』

『文選 詩篇 三』岩波文庫、川合康三ほか訳注

 膨大な文選ですが、その詩篇だけを集めても六巻になります。2ヵ月に1回の刊行ペースに合わせ、日々の読書の合間の旅行先などに持ち出して楽しんでいるのですが、まったく漢字を読める特権を享受しています。

 三国志の時代から八王の乱など中華が大いに乱れた時代の作品が集められていますが、実は、この時期に「中華」の範囲が、特に経済活動を中心に南方に広がっていきます。それは「呉」出身の官僚たちの詩の多さにも、それは現れていると思います。

 そして詩をつくる中心だった官僚たち、あるいは曹植など皇帝の親族でさえも激動の時代に翻弄され、彷徨い、激しい政争の中で殺されていきます。

 以下、読んでいて記憶に残った作品を紹介していきます。

Monzen_3_ousan

 王粲の「贈士孫文始」の12行にある「比徳車補」という言葉。漢籍に明るい昔の経済人は「唇歯輔車」という言葉をよくお互いの連携を良くする意味で使いましたが、ここでは車補。学がないので車補の用法は始めて知りました。

 同じく王粲の詩の一節(p.45)にある「休」は「よろこび」とも読んですが、この「よろこび」のほか「うつくしい、憩う」などの意味もあるんだな、と。

 曹植の詩には泣きました。《曹操、曹丕、曹植の三曹と建安七子は中国文学に最初の黄金期を築いた》(p.74)わけですが、なかでも曹植は当時、最大の詩人と言われていました。八斗の才(天下の八割の才能を占有)と言われ、疎まれた兄曹丕に七歩歩く間に詩を作れと嫌がらせを受けるも、それに見事応えるなど、キレキレの才能をみせつけます。

 贈答ニに収められている曹植のものは、自らを皇帝に押した忠臣たちを励ます詩が続くのですが、多くは曹丕に殺されていきます。なんとも凄い大状況の中で書かれた詩。ギリシャ悲劇的というか。

人生まれて一世に処り
去るは朝露のかわくが若く

人がこの世に生きているのは、朝露がかわくようにはかないもの(p.101)というのは実感でしょう。

離別して永く会うこと無し
手を執るは将た何れの時ぞ

別れてしまえば、永遠に再会はかなわない。手を取り合うのはいつのことか(p.105)というのは、兄曹彰の急死後、共に追い詰められる弟曹彪に贈る詩。

 こうした曹植の『文選』贈答ニの一連の詩を核に、曹丕の詩も交えて、オペラとか書けそうだと思いました。マーラーの時代にドイツ語訳があれば『大地の歌』みたいな傑作を書いていたんじゃないか、とも。

Monzen_3_shibahyo

 司馬彪のこの詩は知り合いの警察官僚を思い出しました。その方はやり切れないことがあると、夜中に起きて木刀の素振りを繰り返したといいます。論語の「逝く者は斯くの如きか」を引用し、「剣を撫して起ち躑ちょくす」と。

Monzen_3_hanji

 あと、陸機、こんなに良かったっけ…。宮仕えの憤懣をこんなに優雅に表現しているのは三世紀では、セネカの通俗哲学をはるかに上回るし、マルクス・アウレリウスを三曹は凌駕しているのかも。

 潘尼(はんじ)がその陸機に送った詩。

予渉素秋
予(われ)は素秋(そしゅう)を渉(わた)り
わたしは人生の秋を過ぎ
もいい(p.244)。

 宝塚歌劇団の元星組トップスター北翔海莉さんが好きだと言っていた格言「尺蠖(しゃっかく)の屈(くっ)するは伸(の)びんが為(た)めなり」はは『周易』からとられたものだけど、『文選』に収められた潘尼(はんじ)の詩には、これを元にしたのもあります(p.258)。

Monzen_3_ryocon

 また、劉琨の詩、なんというカッコいい無常感!

 『文選 四』川合康三 岩波文庫には陶淵明だけでなく、曹操、曹丕、曹植の詩も収録されています。腰巻きで紹介されている曹操の詩ですが、曹操は酒を歌ってもスカッとしているなぁと。

|

« 『リスク・オン経済の衝撃』 | Main | 清元栄寿太夫の十六夜清心 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/67310990

Listed below are links to weblogs that reference 『文選 詩篇 三』:

« 『リスク・オン経済の衝撃』 | Main | 清元栄寿太夫の十六夜清心 »