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October 13, 2018

『磁力と重力の発見 1~3』 山本義隆

『磁力と重力の発見 〈1〉 古代・中世』『磁力と重力の発見 〈2〉 ルネサンス』『磁力と重力の発見 〈3〉 近代の始まり』山本義隆、みすず書房

 noteで読書記録をまとめているんですが、山本義隆さんの科学史三部作のうち、後半の『一六世紀文化革命』と『世界の見方の転換』については、こちらで書いていたのですが、残念ながら、『磁力と重力の発見』が刊行された03年当時は、まだ読書の記録は分散してつけていました。PCのログを検索したのですが、部分ごとにしか見つけることができませんでした。

 以下は、一巻をある程度読んだ後に書いたものです。

 《この著者をみなさんご存知でしょうか?知っている人は動揺するでしょう、知らない人は興味もないかもしれません。東大全共闘(死語)の委員長をやっていた人です。当時、博士課程に在籍していた山本義隆さんは、本来なら世界の物理学をリードするような人だったともいわれています。
 安田講堂の攻防戦を最後に闘争は下火となり、69年の1回だけの入試中止しか「成果」はありませんでした。山本さんは指名手配され、逮捕、拘留を経て中退。なんと駿台の先生となりました。ぼくは文系でしたが、一度、講義を受けに教室にもぐりこんだことがあります。ミーハーっすね。でも、敬愛するヘーゲル研究者の長谷川宏さんといい、全共闘組で大学からおん出た人たちは、塾やったり予備校の先生になってたんですよね。
 その山本さんが近代物理学成立のキーとなった重力の発見について、磁力の認識から説き起こしているのが、この本です。キーワードは「遠隔力」。唯一、実感でるき磁力から、誰も実感することができなかった重力までの観念のジャンプを全3巻で説き起こすそうです。とりあえず1巻買ってきました。
 なぜ西洋にだけ近代科学が発達したのか、という問題を「アリストテレス的な不活発な塊」という認識から、ギルバートによる、多少オカルティックながら「自己運動を有する生命のある霊的存在である地球」という認識が、ケプラーの重力論へと道を開いたというのは、門外漢ながら目うろこでした。
 これなら、アリストテレス哲学の精緻化という方向に進んだアラブ社会で近代科学が構築されなかった、というのがうまく説明できるわな、とこれまた門外漢ながら感じます。にしても、これだけの本を独力でまとめあげた山本さん。20年かかったということだけど、久々に背中をどやしつけられたような気がしました》。

 そして、山本さんには、今も背中をどやしつけられている気がします。

 個人的に3巻にわたる本書のキーパースンはギルバートだったと思います。

 近代物理学はケプラーやフックの業績を引き継いだニュートンによる万有引力の法則ですが、ティコ・ブラーエの精緻な惑星の位置観測の記録から火星の公転軌道が楕円であることを導いたケプラーは、磁力に公転運動の理由を求めます。

 古代ギリシャでは力が生じるのは「近接」だとされていて、遠隔力である「磁力」は魔術師たちに親しまれていました。ギルバートの地球が巨大な磁石であるという発見は、職人による磁針の北が水平より下を向くという「伏角」の発見とその測定によるものでした。そして、地球が不活性で賤しい物質ではなく、能動的な活性原理を持つ物質であることを示した衝撃だったと思います。

 実際、1巻は古代ギリシャから中世キリスト教世界までの磁石に関しての記述に多くを割いています。1巻ではフリードリヒ2世を近代的な科学者である位置づけるあたりも驚きました。

 2巻では、大航海時代に羅針盤の「北」が北極星から地球上の点へと変化し、偏角の発見に続いく羅針儀製造職人ノーマンによる伏角の発見によって、地球認識の転換、地球が磁石であるという認識への道が切り開かれた、と。さらにデッラ・ポルタによる「力の作用圏」という概念により、力が数学的関数で表される端緒が開かれた、と。2巻では教会法で有名なニコラウス・クザーヌスを磁力を定量的に測定しようとしたと評価しされていたのにも驚きました。

 そして、3巻は最初の方で述べたように、ギルバート、ケプラー、ボイル、フックがニュートンの万有引力の法則を準備する過程が描かれます。そして電磁気学の味も素気もないクーロンの法則も見つけるには大変な努力がいった、と。

 すでに本書は大学においても科学史の教科書として使われているそうで、山本さんの歩みを仄聞する身としては時代の流れを感じます。

 中山茂先生の科学史『一科学史家の自伝』作品社によると、《日本で西洋の科学史家として知られたのは、圧倒的にマルキストであった。中略 正統派は大学のスコラの伝統の上にガリレオ、ニュートンも位置づけるのに対し、マルキストは職人の伝統の貢献を強調》するという指摘にはハッとしました(p.136-)。これって山本義隆さんの史学そのものだな、と。

 3巻ではイギリス人が大活躍するのですが、ヘーゲルの『哲学史講義 中』長谷川宏訳で《イギリス人は実験物理学や実験化学を哲学と名づけていて、そうした研究にたずさわり、化学や機械装置の理論的知識をもっている人が哲学者です》(p.29)という一節も思い出しました。

第1章 磁気学の始まり―古代ギリシャ
第2章 ヘレニズムの時代
第3章 ローマ帝国の時代
第4章 中世キリスト教世界
第5章 中世社会の転換と磁石の指向性の発見
第6章 トマス・アクィナスの磁力理解
第7章 ロジャー・ベーコンと磁力の伝播
第8章 ペトロス・ペレグリヌスと『磁気書簡』

第9章 ニコラウス・クザーヌスと磁力の量化
第10章 古代の発見と前期ルネサンスの魔術
第11章 大航海時代と偏角の発見
第12章 ロバート・ノーマンと『新しい引力』
第13章 鉱業の発展と磁力の特異性
第14章 パラケルススと磁気治療
第15章 後期ルネサンスの魔術思想とその変貌
第16章 デッラ・ポルタの磁力研究

第17章 ウィリアム・ギルバートの『磁石論』
第18章 磁気哲学とヨハネス・ケプラー
第19章 一七世紀機械論哲学と力
第20章 ロバート・ボイルとイギリスにおける機械論の変質
第21章 磁力と重力―フックとニュートン
第22章 エピローグ―磁力法則の測定と確定

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