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June 08, 2018

『文選 詩篇(二)』

Monzen_2

『文選 詩篇(二)』岩波文庫

 勉強不足で情けないけど、謝恵連のこの詩は岩波文庫の『文選 二』を読むまで知りませんでした。秋懐(二)の29、30(p.316-)。

各勉玄髪歓 無貽白首嘆
各おの玄髪の歓に勉め 白首の嘆を貽す無かれ
おのおの髪の黒い間にせいぜい楽しもう 白髪になって嘆いていては遅い

 古今の詩のアンソロジーでは『和漢朗詠集』が個人的には最も素晴らしいものだと思っていますが、東洋的な詩のアンソロジーの嚆矢となったのが『文選』。大部なために、これまで文庫化されていなかった作品ですが、その詩篇だけを六巻にまとめて岩波が出してくれていて、その二巻を読み終えました。

 二巻の途中で、詠史から哀傷に移ってきます。中国史批判みたいな詠詩から隠遁願望みたいなのが多くなり、感情移入しやすくなり、じっくり味わって読みました。

 左思の招隠(二)や「先を萬里の塗(みち)に争い 各おの百年の身を事とす」なんていう鮑照の詩は、分かりやすい(p.220)。《唐詩の先声》という評価がなんか分かるような気がする。名高い顔延之よりよほど鮑照の方が感情移入しやすい。

 「繁華」という言葉を生んだ阮籍によるBL賛歌なども入っていて、多様性を感じさせます。

 それにしても『文選』に収録されている詩人の多くは政争に巻き込まれて処刑されたり、殺害されています。漢詩の詩人には官僚が多く、三国から南北朝という時代かもしれないが、それにしても多すぎ。

 永井荷風が一時期、文選だけを読みながら日を送っていたらしいのですが、詩経の透明な詩を読んでいると、こういうのしか受付られなかったような時期もあったのかな、と。

 もっとも荷風はおそらく白文で読んでたんでしょうけど、学のないぼくは解説に助けられながら、やっと読みすすめています。

 とにかく、せっかく漢字文化に生まれたのに『文選』読まないのはもったいない。

 カッコ良いフレーズだな、と思ったのを抜き出してみると。

賤子實空虚 賤子実(まこと)に空虚なり 応璩(p.76)

臨源捐清波 源に臨みて清波を捐(く)み 郭璞(p.85)

翡翠戯蘭苕 翡翠、蘭苕(らんちょう)に戯れ 郭璞(p.91)

靜嘯撫清絃 靜嘯して清絃を撫す 郭璞(p.92)

安得運呑舟 安(いずくん)んぞ呑舟を運(めぐ)らすを得んや 郭璞(p.97)

聊欲投吾簪 聊(いささか)吾が簪を投ぜんと欲す 左思(p.115)

小隱隱陵薮、大隱隱朝市 小隠は陵藪に隠れ、大隠は朝市に隠る 王康(王+居)きょ(p.129)

保己終百年 己を保ちて百年を終えん 魏・文帝=曹丕(p.135)*1

美人愆歳月、遅暮獨如何 美人歳月を愆(あやま)つ遅暮獨り如何せん 謝混(p.145)

進徳智所拙 徳を進めんとするも智の拙なき所 謝霊運(p.163)

遊子憺忘歸 遊子憺(たん)として帰るを忘れる 謝霊運(p.179)

沈冥豈別理 沈冥豈に別理あらんや 謝霊運(p.184)

花上露猶泫 花上露猶を泫(したた)る 謝霊運(p.193)

流眄發姿媚、言笑吐芬芳 流眄(りゅうへん)して姿媚を發し 言笑して芬芳を吐く 阮籍(p.274)

朝爲媚少年、夕暮成醜老 朝には媚少年爲れども 夕暮には醜老と成る 阮籍(p.278)

明月照高楼、流光正徘徊 明月高楼を照し 流光正に徘徊す 曹植(p.344)

ちょっと気付いたこと…。

*1
 渋谷に塙保己一記念館がありまして、子ども頃から時々行ったりしていたんですが、塙保己一の名(保己一)はこの曹丕の詩からとられています。


鮑照の詠史(p.64-)の13, 14

寒暑在一時
繁華及春媚

は「暑さ寒さも一時のもの、移り変わる季節のなかで花咲き誇る今こそが春」と訳されているが、この繁華は阮籍の用例(p.275)からしてBLのことではないかと問合せしたんですが《文選詩篇2』の鮑照「詠史」の「繁華」は、花の盛り、世の栄華の意味のようです。阮籍「詠懐詩十七首」三の「繁華」も同じ。ただご指摘の通り、「詠懐詩十七首」四以降、「繁華」は「男色/美少年」の意味も含むようになったそう》で、『中国の恋のうた 『詩経』から李商隠まで』を紹介していただきました。


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