高麗屋三代襲名披露二月
歌舞伎座の高麗屋三代襲名披露も二月に。夜の部を見物してきました。
高麗屋三代の襲名披露は37年ぶりということで、歌舞伎座で二か月連続で行われた後、全国を2年かけて巡ります。にしても、かける狂言が古くさいのが気にかかる。一月の菅原伝授手習鑑の寺子屋(車引で帰った)や熊谷陣屋をかけときゃいいんだろ的なセンス。
熊谷陣屋や寺子屋みたいな気色悪い「子殺し」の物語を幹部俳優が演って人間国宝というような選定基準がおかしい。
あれを客がありがたって見物していると思っている松竹の錯覚が、東宝との差になっていると思う。
ということでしたが、二月の新幸四郎の熊谷陣屋、なんていいますか。元気いっぱいで金ピカな直実でした。
出の衣装は白鴎のかな。でも体格違うし、デザインだけ同じで新調したんだろうな。豪華。鴈治郎の鎧なんかも新調?煌びやかでした。
役の仁とか小難しいことは言わずに、豪快に演じました、という感じ。まあ、元はと言えば人形浄瑠璃だし。
二本目は芝居仕立ての口上。両花道をこしらえて客席つぶすことあるのかなとは思うけど、始まってしまえば新染五郎の涼やかな美しさに満足。見物も交えての手締めも楽しい。
ただ口上と次の力弥だけしか聞いてないけど、フォークソング歌ってミリオンセラー飛ばした白鴎と比べると嗄れてる(曲もつくっていたから相当"入り"が良かったらしい)。
七段目は盛り上がりますね。白鴎さん、最初は声小さくて心配したけど、だんだん乗ってきた感じ。
海老蔵の平右衛門も、新幸四郎につながるような、なんか元気一杯な演技。小難しいことは言わない、型と身のこなしのスピード感でみせる、みたいな。
仁みたいな言葉が幅をきかせたのは戦後の歌舞伎ぐらいだったりするかもしれないから、テンポを早めるためにも必要だし新鮮。
菊之助はいつものように素晴らしい。
にしても、新染五郎も大したもん。05年の生まれか。新幸四郎に抱き抱えられるように初舞台踏んだのが昨日のことのよう。
新幸四郎は、なんつうかアホっぽいというか、思慮の足りない役をやるとんまいと思うので、一條大倉は悪くないと思うけど、時間がないので昼の部は見物できないかな…
菊之助のお軽は、海老蔵が好き勝手に、これまでの平右衛門の型とか壊してしまうような感じでテンポ良く演じる中、お軽に歌右衛門さんの姿がダブる。
初代白鷗の奥さんが「私の一番のライバルは歌右衛門さんだったの」(『歌右衛門合わせ鏡』関容子、p.218)みたいな話しも思い出しながら。
初代白鷗の奥さんの正子さんは、初代吉右衛門の一人娘。歌右衛門さんと正子さんが初代白鷗(当時は五代目染五郎)をとりあって、歌右衛門さんが勝っていたら、十三代目我童を愛した成田屋十一代目みたいにお手つきを…とか。
菊之助のお軽がそりかえり、合わせ鏡で二代目白鷗由良之助の密書を、勘平を思い出しながら誰かからの恋文かと思って盗み見るという場面で、七代目幸四郎帝国となっている今の歌舞伎界を思うというか、それを今につないだ初代白鷗を愛した歌右衛門さん、みたいな物語を勝手に妄想していました。
高麗屋 次男に産まれりゃ 吉右衛門
という川柳はあるけど
吉右衛門 娘ばかりが 生まれける
みたいな状況なのは、なんなのかな…とか。このままだと新幸四郎の昔の子あたりを養子にもらったらどうかと思ったりしたけど、お孫さんが生まれてよかったな、とか。歌舞伎はそこまで愉しませてくれるのが凄い。
とりあえず、新染五郎が、どんどん子どもをつくってあらまほし、というのが高麗屋三代の襲名披露への想いです。
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