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December 28, 2017

『日本史の内幕』

Isoda_nihonshi_uragawa

『日本史の内幕』磯田道史、中公新書

 磯田道史さんには、現役時代にもお世話になったことがあります。『天災から日本史を読みなおす』(中公新書)は奥付が14年11月25日になっているのに、その年の10月に発生した東海道線の土砂崩れのことにふれており、その現場が150年前に同じような土砂崩れが発生していたという古文書が残されていたと書いていました。さっそく、関係者にも、その内容を伝え、自治体を交えた対策がとれられたと思います。その旨を編集者に伝えると、磯田さんが役立ったことに喜んでいる、とのことでした。

 磯田さんのスタンスは、徹底した古文書読みに基づく、目的意識を持った実証的な研究。「まえがき」で《日本史の内幕を知りたい、そう思うなら、古文書を読むしかない》《(教科書などは学者さんたちの願望で)彼らが信じていてほしい歴史像が書いてあるだけ》《歴史観が身に付くものではない》とまで言い切ります。

 大文字の歴史観は、おそらく丸山眞男で完成されていると思います(丸山眞男は古代から明治時代までの日本通史の研究者だと思った方がいい)。それならば、日本に残されている膨大な古文書(動乱や近代戦で失われた中国、韓国、東南アジアとは違う圧倒的な量)を丁寧に読むこむことしかないんじゃないかな、というスタンス。

 網野善彦さんが漁村の古文書を集め、整理しきれずに返したという顛末を書いた『古文書返却の旅―戦後史学史の一齣』中公新書の時代とは違って、整理するためのツールも完備されてきているし、古文書に基づく研究がどんどん進めばいいな、と思います。今年の室町ブームといいますか、中世史ブームも、こうした流れの中にあると思います。

 ということで、この本では、明治天皇の皇后のお付き世話係が付けていた日記によると、京都から東京に向かった時に、輿を担いだのは八瀬童子だっというのにいきなり驚かされました(p.9)。個人的には猪瀬直樹の『ミカドの肖像』以来の八瀬童子との邂逅です。本当に天皇家に何かあると出てきて輿や棺を担ぐんだな…と。

 沼津の高尾山古墳は、卑弥呼の墓とも言われる箸墓古墳、纏向古墳群、岡山の楯築古墳と共に重要な初期巨大古墳で、狗奴国の王が埋葬されている可能性がある、というのにも、いきなり驚かされました(p.12-)。狗奴国は漠然と九州だと思っていたので…。沼津は近いので、ぜひ、見に行きたいと思います。この保存問題で、後に国交省事務次官となる徳山日出男技監に呼び出されたというんですが、徳山さんが技監をやっていたのは14年7月から15年7月なので、ちょうど東海道線の由比~興津で土砂崩れがあった時期に合っているんですよね。ちなみに徳山さんは東日本大震災時には東北地方整備局長として「櫛の歯作戦」を立案実行した人です。

 この他にも秀吉の薩摩征伐には本願寺門主・顕如の子教如が付き従って信徒に協力させ、その前にも柴田勝家領で一揆を起こすなど連携を深めていたとか(p.16-)、家の前に郵便ポストがある家は古いとか(p.38)、昭和天皇は桑野鋭から関ヶ原の時に小早川が裏切らなければ徳川の世にはならなかったということを繰り返し聞かされて育ったのでソ連軍の参戦を小早川の裏切りととらえ、報告を受けた30分後に降伏に向けての行動をとったのではないかとか(p.41)、水戸藩は徳川や織田に敵対した武将を山ほど召し抱えたとか(p.86)、美容整形で二重瞼の整形は目の小ささにコンプレックスを持つ日本人の発明とか(p.161)、聞いたことのない面白い話しが古文書ベースで読めます。

 また、日本の世界シェアに占める人口のピークは元禄期、軍事は日露戦争~満州事変、経済は1970~2000年で、後はもう質を高めるしかない、というあたりもなるほどな、と。

 新書にしては索引も充実していて、この人の本はたいしたもんだと思っています。

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