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December 23, 2017

『日本人のための第一次世界大戦史』

Wwi_itaya

 『日本人のための第一次世界大戦史』板谷敏彦、毎日新聞出版

 毎年、勝手に選んでいる新刊書の「今年の一冊」はこれにしようと思います。

 エコノミストの連載当時から熱心なファンだったけど、単行本となって読み返すと、図版こそ連載時の方が大きくて見やすかったな、とは思いますが、改めて本当に面白い本となりました。

 第一次世界大戦は日本本土が戦場になったわけではなく、青島のドイツ軍基地を攻略して大成功を収めたほか、大正の天佑とも言うべき好景気をもたらし、五大国として認められるなど、明治維新後の富国強兵策の集大成とも言うべき体験をもたらしました。

 しかし、これは他の本からの受け売りなんですが、日本の人口のピークは元禄時代で(世界人口の中の比率)、経済力は1970~2000年代だったのに大して、軍事力では日露戦争時代ではないかと言われているそうで、ピークをすぎた後の成功体験の振り返り的な恍惚感で見ていたためか、本当の総力戦の意味を見誤り、第二次大戦の破局へと向かうことになります。

 考えてみれば、日本列島では1877年の西南戦争から1942年のドーリットル隊所属のB-25による爆撃まで65年間、戦場となったことはなく、常に外地に出張っての戦争だったんですよね。だから、あまりにも苛烈な太平洋戦争の記憶だけが語り継がれ、記憶となっていったわけですが、太平洋戦争の失敗は第一次大戦を総括できなかったからだと思います。もちろん帝国陸海軍は詳細に研究しましたが、陸軍は仮想敵国のロシアがなくなり、近代的装備へのモチベーションを失い、国内における政治力拡大のため人員だけは大きくするという方向で国政そのものを誤らせます。また、海軍もドイツの経済封鎖の効果などシーレーン防衛の大切を学んだはずなのに、ワシントン条約で商船への無差別攻撃禁止が盛り込まれたことに満足して、対潜水艦作戦を怠っただけでなく、帝国海軍の潜水艦も商船狙いではなく、敵艦隊への攻撃を主眼とするなど、ニミッツがあきれるほどの誤運用で総力戦の基礎を失っていきます。

 また、帝国陸軍の暴走には統帥権が関わっていたということは多くの方が知っていると思いますが、その統帥権が生まれた背景は、『日本人のための第一次世界大戦史』を読むまで知りませんでした。

 今さら自分の勉強不足と読書量の少なさを嘆きはしませんが、プロイセンではモルトケ参謀総長による通信と鉄道を使った作戦が余りにも見事に決まってデンマーク、ハプスブルク帝国、フランス相手に三連勝したので、王直属の参謀本部が政府とは独立して命令を下せる帷幄奏上権を確立。陸軍はドイツ式を選んだ日本も西郷隆盛による西南戦争(西郷は陸軍大将として命令を下した)にこりて、軍令機関は天皇に直属する形が良いと判断して、統帥権を独立させたが、日本もドイツも統帥権の暴走で滅んだ、という関係は知りませんでした。

 とにかく、ドイツ参謀本部による動員と作戦があまりにも見事だったので、鉄道時代の近代戦争は短期間で決着が付くと印象づけられた、というらしんですわ(p.51)。これだから、第一次世界大戦が始まった秋、クリスマスには家に帰れると思っていたのか…。

 ウィリアム・H・マクニール 『戦争の世界史』中公文庫あたりは、塩野七生さんの『ギリシャ人の物語III』を読み終わったら、とりかかるかな、と。

 以下は、箇条書きで。

 第一次大戦の日本人戦死者はわずか415人と第二次大戦の5千分の1だったとか、『80日間世界一周』と明治維新との同時代性とか目ウロコの話しばかり。

 1870年代から1914年の第一次大戦までの半世紀は、交通や通信手段が急速に発達し、金本位制で為替リスクがなくなったので驚くほど貿易が拡大。世界が急速に接近した「第一次グローバリゼーション」の時代だった、と。

 グローバル化は世界中で経済的な格差を拡大し、それはいったん2つの大戦で終わり、社会主義的な福祉政策によって不平等も縮小したが、ソ連崩壊などで自由すぎる資本主義が復活。現在は第二次グローバル化の時代で、やはり格差は拡大している、と

 第一次大戦は覇権国イギリスに勃興国ドイツが挑戦して起きたが、今はアメリカに中国が挑戦している、と。第一次大戦当時の三番手はフランスで、今の日本と同じように人口増が停滞しており、グレアム・アリスンが言う「ツキュディデデスの罠」にはまるかも、と。

 フランス革命当時は凶作続きでフランス革命軍に入れば喰えるということで無職の若者を動員でき、国内で不足する食料を調達するためにも越境した、と。ナポレオンも同じ手法で勝ちまくったが、ロシアが焦土作戦に出て、兵力維持ができなくなり敗北、と(p.56)。

 薩英戦争で365発中28発が不発だった事故でアームストロング社は英海軍から切られ、他国へ売込まざるをえなくなり、独クルップ社なども参入して兵器市場がグローバル化。このため、日本も日清日露戦争で最新の戦艦を手に入れることができた、というの知らなかったな。

 『日本近代技術の形成』で中岡哲郎がメキシコの大学院で薩英戦争について講演したことを書いているんですが《戦闘開始後45分、油断したイギリス戦艦が桜島付近に錨をおろし砲撃を開始したとき、桜島からの薩摩藩の砲弾がイギリス旗艦ユーリアラス号に命中し、ジョスリング艦長ほか八名が戦死します。このことが最後まで尾を引き、イギリス艦隊は決定的勝利を収めないまま引き揚げます》《この戦闘でイギリス側も薩摩の実力をあなどれないと認識します。しかし薩摩の側もそれをはるかに上まわって、彼我の力の格差の大きさを認識します。それはサムライ工業の苦心にはじまり、学校としての長崎で育てられた彼らの現実認識に最後の仕上げを与える、決定的な事件でした》(pp.37-38)とまとめたんですが、《学生に異常な興奮が起こった。なぜ貴方は、薩摩が勝利したといわないのかという発言があり、全員を巻き込む討論になった。私は、薩摩はこの一撃によってかろうじて敗北を免れたのだ。大切なことはこの戦争をとおして、薩摩が敵の実力を認識したことなのだと応じたが学生たちは引かなかった。最後に「貴方は植民地化された国に住んだことがないから、この勝利の大切さがわからないのだ」という一撃を浴びた》《日本がこの時期に植民地化を免れたことの大切さを、彼らほどの切実な思いで受け止めてきたかという反省のきっかけとなった。その影響は本書にも示されてる》(pp.482-483)というくだりを思い出しました。
 アカデミックの世界で第零次世界大戦と呼ばれるようになった日露戦争では、弾薬消費量の増大で戦費が増大。安全保障上、露の弱体化を危惧する仏はパリでのロシア国債の起債を許可しなくなる。露はドイツに依存するが、この条件付き借財が大戦の原因に。

 シェル石油の創始者サミュエルは一人息子をフランスの塹壕戦で失い、各国のロスチャイルド家の若者も犠牲者となった。ユダヤ人にとって、第一次世界大戦は愛国心を見せられる数少ない機会だった(p.138)というあたりは、『炎のランナー』の冒頭のシーンを思い出します。

 大戦は国民として認められる絶好の機会だったので、ドイツに住む55万人のユダヤ人のうち10万人が軍務に服し、1万2000人が戦死し、3万1500人が鉄十字勲章を受けた。大戦は国民として認められる絶好の機会だったのでドイツに住む55万人のユダヤ人のうち10万人が軍務に服し、1万2000人が戦死し、3万1500人が鉄十字勲章を受けた、とあります(p.246)。各国社民党も労働者の普通選挙獲得を掲げたし、本当に虚しい奮闘…(p.246)。

 ここらあたりトニー・ジャット『20世紀を考える』の、累進課税、年金を可能にしたのは第一次世界大戦による政府の総支出の増大。大戦後、英仏ともデフレ政策によって支出を抑えようとした、というあたりを思い出しました(p.492)。

 とにかく、ぜひ、読んでみてください。

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