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December 28, 2017

今年の一冊は『日本人のための第一次世界大戦史』

Wwi_itaya

 毎年、新刊書のベスト5ぐらいをアップしていたんですが、今年も点数はそう読んでいないのですが、年末の行事のようにやってみたいと思います。

 今年は日本中世史に関する本が脚光を浴びました。『応仁の乱』呉座勇一、『観応の擾乱』亀田俊和といった若手の研究者のほか、『享徳の乱』峰岸純夫などベテランの研究者の本も注目を集めました。ぼくが学生時代、中世史、特に室町時代は資料が少なく研究が進んでおらず、佐藤進一の著書が公認史観のようになっていたと思います。ところが、僧侶の日記などの読み込みが進み「国民国家の形成へのステップとして歴史を読みこむ」というヘーゲル以来の史観から自由になって、あるがままの出来事から再構成する、というスタンスが出てきたな、と。

 こうした傾向は『ロシア革命』岩波新書、池田嘉郎にも感じられたな、と。ロシア革命に関する本はトロツキー、カー、リードもレーニン無謬説が前提だったように思いますが、池田嘉郎さんは2月革命の可能性を検証するという立場。ぼくも昔ながらのロシア革命史観だったので、ケレンスキーはダース・ベイダーのような悪の権化のような印象を持ち続けていたのですが、当時、35歳だったというのに驚きました。子どもじゃないか、と。

 こうした流れと比べると、岩波新書のシリーズ中国近現代史シリーズの掉尾を飾る『中国の近現代史をどう見るか』西村成雄は、まだ中共史観の影響があるかな、と感じます。というか、まだ中共はブロセスの途中なんだな、と。

 ウィトゲンシュタインは相変わらず新刊が出れば読んでいます。今年は『秘密の日記』『ラスト・ライティングス』を読みました。論考7の「語ることができないことについては、沈黙するしかない」は"命題ではない"ということなのか、と最近よく見ているNHK高校講座の数I「命題と集合」でわかったぐらいですから、なさけないのですが、これからも読んでいくだろうな、と。

 あとは佐藤賢一『小説フランス革命』など、フランス革命の本も再読を含めて読みました。フランス革命史は明治維新と同じように付与曲折を経て進むんですが、整理すると内外の反革命勢力の脅威高まる→ブルジョワジーと民衆、農民の同盟を唱えたロベスピエールが山岳派独裁による徹底路線をとる→旧体制一掃→民衆や農民の要求を飲もうとしたロペピエールがテルミドールで葬られる→資本主義の発展に適合したブルジョワ革命完成、みたいな。王党派だけでなく、民衆の暴力にも対抗しなければならなかったブルジョワジーは結局、ナポレオンの武力に頼るわけです。しかし、「貧しい農民や手工業者の生きる権利が高く掲げられたフランス革命の93年の段階があったからこそ、その生存権という考え方は、日本国憲法の第二十五条「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条項にもつながっているのであり「現代日本の私たちは、あの恐怖政治の血まみれの手からの贈り物を受けているのです」(『フランス革命 歴史における劇薬』遅塚忠躬、p.169)ということは忘れられてはいけないし、世界史からロベスピエールを削るなんていう話しは暴挙だな、と。

 ということですが、今年の一冊は『日本人のための第一次世界大戦史 世界はなぜ戦争に突入したのか』板谷敏彦、毎日新聞出版にします。帝国陸軍の暴走には統帥権が関わっていたということは多くの方が知っていると思いますが、その統帥権が生まれた背景には、明治政府が範としたプロイセンのモルトケ参謀総長による通信と鉄道を使った作戦が余りにも見事に決まったからだ、という背景を知りました。

 このほか年末年始に読まれるのでしたら、以下の新書五冊をあげたいと思います。

『ハプスブルク帝国』岩崎周一、講談社現代新書
『観応の擾乱 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』亀田俊和、中公新書
『ロシア革命』岩波新書、池田嘉郎
『ウニはすごい バッタもすごい』本川達雄、中公新書
『応仁の乱』呉座勇一、中公新書

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