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November 26, 2017

『ウォークス』

Walks

『ウォークス』レベッカ・ソルニット、左右社

 ゆっくりと読み進む愉しみだけの読書を久々に堪能した感じ。著者のレベッカ・ソルニットは大学に属しない独立の研究者。厳密な学問ではないけど、誰も気にしていなかった大きなニッチを探す名人。もちろん、アカデミックな厳密性には限界はあって、「歴史は二度繰りかえす。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」を『ブリュメール18日』は読んでないだろうな、という感じでマルクスの言葉として引用しているところとか、ちょっとガッカリはするんですが、まあ、米英の研究者にはけっこうこういう間違いやってる先生も少なくないので(羨ましい性格w)許せます。

 それより、男性が偉そうに女性を見下しながら何かを解説・助言することをman(男)とexplain(説明する)をかけ合わせてマンスプレイニングという言葉にしてみせたような瞬発力の方が魅力的ですもんね。

 この本は「歩くことの精神史」という副題の通り、人文学者や作家などが、歩くという行為の中で、どれだけ考えを深め、時速3マイル(約5km)という速度で動く風景がどれだけ人々を慰めてきたかを膨大な引用で綴ります。

 それを人類史的に、直立二足歩行によってヒトは、直射日光を受ける量を最小化して太陽による体温上昇を抑えて森から離れる長距離移動が可能になった、みたいなとこから始まるのは、センス・オブ・ワンダー(p.73)。さらに、サル科では体格差の大きいと一夫多妻が普通で、一夫一婦制はテナガザルなど体格差がない種に限られる、という議論はなるほど、と思うけど初めて読んだ感じ(p.69)。

 近代以降のヨーロッパの都市は、当初、不潔で夜は危険であまり散歩に適した状態ではなかったが、工場労働者たちが週末に自然に触れるために積極的に郊外に進出いていく、みたいな流れが描かれていきます。

 個人的に印象に残ったのは、第二次大戦後の米英の郊外の住宅地は、再開発のために退屈なものとなり《歩いて行くような場所はほとんどなかった》というあたり(p.423)。たまたま生まれ育った広尾の地は、実家の貧しさを忘れさせてくれるような様々なな国の大使館がいっぱいあってして散歩は本当に楽しかったんです。根津美術館、骨董通り、有栖川公園、渋谷の映画街、恵比寿のダウンタウン、お嬢様学校の生徒さんの歩く姿など退屈知らずだったな、とか思い出しながら読んでました。

 ただ純粋に山に登って高みからの眺望を楽しんだ初めての人物であるペトラルカが登ったのは、フランスのモン・ヴァントゥなのか、というのも個人的には驚きでした(p.222)。ツールドフランスで何回もゴールに設定されたモン・ヴァントゥにこんな歴史があったとは…毎回空撮が綺麗なのは、ちゃんと理由があるんだ、とか。

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